第一回眷属会議(2)
「……ちょっと待って。さっきあんた、本来はレオを含めて5人の英雄だったって言ったわよね?じゃあ、残りの4人は誰なのよ?まさか、その人たちもあたしの眷属になるってわけ?」
あたしが恐る恐る尋ねると、アルは『当然さ』と言わんばかりに尻尾を揺らした。
『本来の歴史でレオの仲間になるはずだった、残る4人の英雄候補……。彼らもまた、運命の修正力によって、遠からず君のもとへ集うことになるだろうね』
(……えええ。まだ増えるの?このカオスなメンバーだけでも、もうお腹いっぱいなんですけど……)
あたしの胃痛を知ってか知らずか、アルはもったいぶるように空中で一回転すると、次々とその名を告げた。
『名前だけでも覚えておくといいよ。賢者のルゥ。ドワーフの戦士ガラム。聖女クラリス。そして、エルフの弓使いフィオナ』
「……は?今、さらっと聖女って言わなかった?」
あたしは聞き捨てならない単語に耳を疑った。
賢者とかエルフとか、ファンタジーな響きはおいといて。聖女?
それって、今のあたしのポジションと完全に被ってない?
『言ったよ。本来の歴史における正統なる聖女、クラリスだね』
本物がいるんじゃない!
だったらあたしなんて偽物は、さっさと看板を下ろしてお役御免でいいでしょ!
あたしが心の中で叫ぼうとしたその瞬間、アルがニヤリと口角を吊り上げた。
『ちなみにまだ、彼女は聖女として認定されていなければ、表舞台にも出てきていない、ただの一般人さ』
『ま、楽しみにしておきなよ。みんなもきっと、君の毒に当てられて、愉快な仲間になるはずさ』
(毒って言うな!……はぁ。どいつもこいつも、癖が強そうな名前ばっかり……)
あたしは深くため息をつき、見えない未来の苦労に思いを馳せて、テーブルに突っ伏した。
「さて、お嬢様。次は今後の方針を決めなければなりません」
リナが、静かに手帳をめくる。
その言葉を合図に、場がキリッと引き締まった。
「僕はこのまま王都へ向かいます」
真っ先に手を挙げたのは、レオだった。
彼は真剣な眼差しで、まっすぐにあたしを見つめてくる。
「今回の件……魔族の幹部が現れたことを国王陛下に報告しなければなりません。それに――」
レオはそこで言葉を切り、アルの方をチラリと見た。
「アルさんが言っていた、本来の聖女であるクラリスさん。彼女を王都で探してみます。もし見つかれば、スズネさんの負担も減るかもしれませんし」
(レオ……!なんていい子なの!)
あたしは感動で涙が出そうになった。
そうなのよ。
本物が来れば、あたしみたいな偽物は用済みなのよ。
ぜひともそのクラリスちゃんを見つけ出して、聖女の看板を押し付け……いや、譲渡したい!
「わかったわ。レオ、期待してるからね!絶対に見つけてくるのよ!でも、あたしのことは絶対に言っちゃダメよ!わかった?」
「はい!スズネさんのことは絶対に秘密にします。そして必ずや、クラリスさんを探し出して見せます!」
レオがキラキラした笑顔で親指を立てた。
(お願い……絶対に秘密にしてよね……)
「私は、この街に残ります」
続いて口を開いたのは、セレナだった。
彼女は痛む体をかばいながらも、凛とした表情で窓の外――まだ雪の残る街並みを見つめた。
「私の氷のせいで、この街は深く傷ついてしまいました。ゼノの件も含め、後始末をつけなければなりません。……それに、主様が鎮めてくださったとはいえ、地下の火脈の監視も必要です」
「そうね……。この街には、あなたがいないとダメだわ」
あたしがうなずくと、セレナは申し訳なさそうに、けれど強い意志を込めてあたしを見た。
「主様のお傍で剣を振るえないのは無念ですが……。必ずこの街を復興させ、いつか主様が訪れた際には、最高の水の都としてお迎えいたします」
「ええ、楽しみにしてるわ。無理しすぎないでね」
(ふぅ……。これで大所帯も少しは解消されるわね)
レオとセレナ。
二人とも真面目でいい子だけど、一緒にいると色々とプレッシャーが凄かったから、正直ちょっとホッとした。
「して、スズネ様。我々は、いずこへ?」
カイルが身を乗り出してくる。
残ったのは、いつものメンバー。
変態騎士。
ドSメイド。
幼女。
そして性悪タヌキ。
……濃い。
改めて見ると、このパーティ、成分が濃すぎる。
『次は、東だね』
アルが地図の上ポンと飛び乗り、前足で東の方角にある山脈を指し示した。
『九英雄の一人、ドワーフの戦士ガラム。彼を探しに行くよ』
「ドワーフ……!」
あたしはその響きに、少しだけ胸を躍らせた。
ドワーフといえば、ファンタジーの定番!
頑固で、酒好きで、髭もじゃで、鍛冶が得意な種族!
(……まともそう。今度こそ、まともな常識人枠なんじゃない!?)
騎士道(ドM)やメイド道(ドS)に染まっていない、豪快で頼れるおっちゃん。
そんな理想像を思い浮かべ、あたしは希望に満ちた声を上げた。
「いいじゃない!行きましょう、東の山脈へ!ドワーフのおっちゃんを仲間にするわよ!」
あたしの威勢のいい掛け声にミリィが首を傾げる。
「お姉ちゃん、どわーふってなに?」
「背が低くて力持ちな、お髭の人よ」
「おひげ!ミリィ、会ってみたい!」
ミリィが無邪気に目をキラキラさせた。
よし、方針は決まった。
あたしたちはこの後、それぞれの目的を胸に、この雪解けのアクアヴェーネから旅立つことになる。
しかし――この時のあたしは、まだ知らなかった。
ドワーフの戦士ガラムが、あたしの想像を遥かに超える強烈な個性の持ち主だということを。




