第一回眷属会議(1)
「いい?いろんなことがありすぎて、よく分からなくなったから一回整理するわよ!」
あたしは、みんなを座らせると、司会者の様に大きなテーブルをバンっと叩いた。
「まず、今までに出てきた情報を整理するわ。リナ!」
あたしは、横のリナに続きは頼んだと、目配せをする。
「かしこまりました。まず、確定事項としまして、お嬢様の眷属として、我々、カイル様、ミリィ様、私以外に、新たにレオ様、セレナ様が加わりました」
「おお!共にスズネ様をお守りしましょうぞ」カイルが暑苦しい声を張り上げたかと思えば、「よろしくね、レオくん、セレナさん」ミリィはぺこりと丁寧に頭を下げた。
「皆さん、改めてよろしくお願いします」
レオが背筋を伸ばして挨拶をする。
「我が主様に改めて、忠節を」
セレナは静かに、けれど熱い眼差しであたしを見つめている。
(うん。大所帯になってきたね……)
あたしは頭を抱えたくなった。
隠密行動?
目立たない生活?
そんなの、このメンツで歩いていたら、逆立ちしたって無理でしょ。
「……で、ここからが本題よ。アル、あんたが言ってた『歴史の改変』について、もう一回ちゃんと説明して」
あたしがテーブルの上の毛玉を指差すと、アルは前足で器用に顔を洗いながら口を開いた。
『やれやれ。飲み込みが悪いなぁ。いいかい?本来の歴史では、勇者レオと4人の仲間、合わせて5人の英雄が魔王を倒すはずだったんだ』
「でも、あたしがセレナを助けちゃったから、それが変わったのよね?」
『ご名答。本来ここで死ぬはずだったセレナが生き残り、君の眷属となったことで、運命の歯車が大きく狂った。結果、世界は帳尻を合わせるために、英雄の枠を5人から9人に増やしたんだよ』
アルはそこで言葉を切り、楽しそうに尻尾を揺らした。
『セレナ、カイル、リナ、ミリィ。そしてレオ。彼らを含めた『九英雄』を率いるトップ……それがスズネ、君ってわけさ』
(……何よ、その野球部の監督みたいな軽いノリは!)
あたしは一般人よ?
ちょっと可愛いだけの女子高生よ?
なんで英雄のトップに君臨しなきゃいけないのよ!
「……恐縮です。本来なら歴史の闇に消えるはずだったこの命、主様のために使い潰していただけるなら本望です」
セレナが、重すぎる忠誠を口にする。
「僕もです!スズネさんのような素晴らしい方が導いてくれるなら、魔王なんて怖くありません!」
レオまで目をキラキラさせている。
やめて、その純粋な信頼が一番胃に来るの。
『そして、もう一つ重要な変更点がある』
アルの声が、すっと低くなった。
その場の空気が一瞬で張り詰める。
『魔王の復活時期だ。本来なら8年後だったはずが――歴史が変わった反動で、大幅に早まっている。……下手をすれば、数ヶ月以内かもしれない』
「す、数ヶ月ぅ!?」
あたしは裏返った声で叫んだ。
隠居どころの話じゃない。
今すぐ核シェルターでも探さないと間に合わないレベルじゃない!
「……確かに。先ほどのイフリシアといい、魔族の動きが活発すぎます。奴らは本気で、魔王の復活を迎える準備に入っているのでしょう」
セレナが悔しげに唇を噛む。
「ならば、我々は一刻も早く力をつけねばなりませんな!スズネ様をお守りし、魔王の首をあげるために!」
カイルが鼻息荒く立ち上がった。
「ええ。お嬢様の平穏を脅かす害虫は、魔王だろうが神だろうが、私がすべて排除いたしますわ」
リナが冷徹に、太ももの暗器ホルダーをさすりながら呟く。
「ミリィも!ミリィもがんばるよ!おねえちゃんを守るもん!」
ミリィまで、小さな拳をギュッと握りしめている。
(……ちょっと待って。なんでみんな、そんなにやる気満々なの?)
あたしは、テーブルに突っ伏した。
増えた仲間。
迫りくる魔王。
そして、勝手に祭り上げられた英雄のリーダーという地位。
「……あたし、ただ平穏に暮らしたいだけなのにぃぃぃ!!」
あたしの魂の叫びは、迎賓館の高い天井に虚しく吸い込まれていった。




