非情なる宣告
あたしが羞恥で悶絶していると、氷塊の横で膝をついていたイフリシアが、ゆらり、と立ち上がった。
先ほどまでの侮りの色は消え、むしろ、好敵手と認めたようなギラついた視線で、あたしをにらみつけてきた。
「な、なによ……。まだやる気?」
あたしはアイスロッドを前に突き出して、精一杯強がってみせた。
魔法少女のチート的な力で、とりあえずなんとかなっているものの、相手は魔族の幹部だ。
今のレオでも相手にできないほどの化け物なのだ。
正直、ロッドを握る手は汗ばみ、膝が笑い出しそうになるのを必死でこらえていた。
「ふっ……。私もそこまで愚かではないわ。今回はただの小娘だと侮ったが、次からはこうはいかない」
(え?次ってなによ)
嫌な単語に、鼓動が早くなる。
イフリシアは、燃え盛るような紅蓮の瞳であたしへ、呪いのような宣告を口にした。
「今日この刻をもって、お前は、我らが魔王様の復活における最大の障害と認定された。覚悟することだ。これからお前は、行く先々で命を狙われることになる。もはやお前に、安寧の地などないと思え!」
(ちょ……っ!何さらっと、とんでもないこと言っちゃってるのよ!)
最大の障害?
命を狙われる??
あたしの平穏な日々が、ガラガラと崩れ去っていく音が聞こえた。
「それだけではない。今日仕留めきれなかった勇者と、精霊騎士。それに――他の英雄候補たちも同じだ。せいぜい気をつけることね」
「英雄候補……?」
「首を洗って待っていなさい。次は必ず、そのふざけた衣装ごと焼き尽くしてあげるから!」
イフリシアは、そう捨て台詞を残すと、炎の渦に包まれながら、消えるように姿を消した。
あとに残されたのは、半壊した中庭と、絶望的な未来を宣告されたあたしだけ。
あたしはイフリシアの言葉を、混乱する頭の中で必死に整理しようとした。
命を狙われる?
レオ達も?
それに、ほかの英雄候補って……。
(ねえアル!他の英雄候補って何?本来の英雄たちのこと??)
『うん、多分そうだろうね。でも、今はそれどころじゃなさそうだよ?』
アルが視線を向けた先。
瓦礫の山と化した屋敷の入り口から、小さな影が飛び出してきた。
「お姉ちゃーん!」
聞き慣れた、愛らしい声。
「え?ミリィ?どうしてここに?」
あたしは慌てて駆け寄り、飛び込んできたミリィの勢いを両手で受け止めた。
小さな体が、あたしの腰にしがみつく。
「お姉ちゃん達が向かった方から、すごい音が聞こえたから……。心配になって、来ちゃったの……。ごめんなさい」
見上げれば、ミリィの大きな瞳には涙がいっぱいに溜まっている。
「ううん、いいのよ。来てくれてありがとね、ミリィ」
あたしは安堵で力が抜けそうになりながら、彼女の頭を優しく撫でた。
「それはそうと、お姉ちゃんの今日の衣装。すごく可愛い!!」
ミリィは涙を引っ込め、キラキラとした瞳で、あたしの全身を見上げてきた。
(嬉しいんだけど、嬉しくないのよ……!)
純粋な賞賛が、今のあたしには一番の劇薬だ。
イフリシアの炎よりも熱く、あたしの頬が紅蓮に染まっていく。
羞恥心で爆発しそうになっていると、ふとミリィが来た方向に一人の男が立っているのに気づいた。
(ゼノさん……)
爽やかなイケメン自警団長、ゼノさんがそこにいた。
彼は半壊した中庭と、そこに佇む露出度の高い謎の女を見て、完全にフリーズしていた。
「君は……一体……」
ゼノさんは何が起こったのか、必死で理解しようと眉をひそめている。
まずい。完全に不審者を見る目だ。
「スズネお姉ちゃんだよ!」
ミリィが自慢げに胸を張って答えた。
(ちょっ、ミリィ!余計なこと言わないでいいから!)
「……え?……あなたが……、スズネ様……なのですか?」
ゼノさんの視線が、あたしの顔と、きわどい衣装を往復する。
必死で理解しようとしているけど、脳の処理が追いつかずに、瞳に不審な色が混じっていくのがわかった。
(あんまり、ジロジロ見ないでえええ)
あたしの心の叫びを無視するようにミリィが続けた。
「お姉ちゃんは魔法少女だから変身できるんだよ!」
「へ、変身……?」
ミリィの無邪気な追撃に、ゼノさんは困惑の表情を深めるばかりだ。
しかし、彼はすぐに気を取り直したように周囲を見渡し、パッと表情を明るくした。
「それはそうと……吹雪が去ったということは、あの忌まわしき氷の魔女を倒したのですね!」
安堵と、隠しきれない歓喜のような表情を浮かべるゼノさん。
「それは――」
あたしが口を開こうとした瞬間、後ろからそれを遮るように、凛とした声が放たれた。
「残念だが、私は死んではいない」
振り返ると、そこにはリナとカイルに肩を借り、よろめきながらもこちらへと歩いてくるセレナの姿があった。
満身創痍ではあるけれど、その瞳には強い意志の光が宿っている。
「セレナ……。これは一体……」
ゼノさんは、死んだ亡霊でも見るように目を大きく見開き、驚愕に顔を引きつらせた。




