絶対零度の加護
紅蓮の炎は、まるで意志を持った大蛇のようにうねりながら、あたしを包み込んでいった。
「きゃああああああ!――あああ、あれ?熱くない?」
あたしは反射的に腕で顔をかばったけれど、予想していた激痛や熱さはやってこなかった。
それどころか、炎が体に触れた瞬間、シュゥゥゥ……という音と共に、あたしのドレスから溢れる冷気が炎を相殺していく。
熱くない。
むしろ、真冬の暖房器具の前みたいな、程よいポカポカ感。
(あれ?これ、もしかして……)
炎の嵐が過ぎ去った後――
もうもうと立ち込める湯気の中から、あたしは何食わぬ顔で姿を現した。
ドレスの裾が少しも焦げることなく、キラキラと素知らぬ顔で輝いている。
「な……っ!?」
勝ち誇った笑みを浮かべていたイフリシアの顔が、驚きで凍りついた。
「ば、馬鹿な……。私の最大火力の攻撃を、無傷で受けきったというのか……!?」
(これで無傷って、魔法少女チートすぎない?)
あまりにも絶望的な顔してるから、無傷なのが逆に申し訳なくなってくる……。
『今の君は氷雪の王女だ。絶対零度を操る、氷の最上位精霊の加護そのものだ。生半可な炎じゃ、君のまとう冷気の障壁を突破する前に温度を奪われて消えちゃうのさ』
(生半可って……あの人、幹部でしょ?周りの雪、全部溶けて泥の海になってるわよ?)
見渡せば、中庭の雪は跡形もなく消え去り、地面はドロドロの沼地のようになっている。物理的な熱量は凄まじいのだ。
「おのれ、舐めるなァァァッ!!」
あたしの涼しい顔が気に障ったのか、イフリシアが激昂して両手を掲げた。
頭上に、屋敷ほどの大きさがある巨大な火球が形成される。
「これならどうだ!爆熱・隕石!!」
轟音と共に、太陽のような火の玉が投下された。
着弾すれば、屋敷ごと吹き飛びかねない質量と熱量。
(炎を包み込むイメージ――)
あたしは、ありったけの魔力を込めて、アイスロッドを空に向ける。
「全部、凍れええええええ!」
杖の先から、青白い冷気が蒸気のように、白い煙を吐きながらほとばしる。
冷気は、大蛇のようにうねりながら、迫りくる巨大な火球を空中で包み込んだ。
まるで獲物を仕留めるかのように、火球に巻きつき、トドメを刺すように徐々に締め付けていく。
パキィィィィィィンッ!!
そして――
ドスン、ゴロゴロ……。
物理的な質量を持った氷の塊が、イフリシアの足元に力なく転がった。
「…………は?」
イフリシアが、目の前の現象を理解できずに口をパクパクさせている。
「うそ、でしょ……。わ、私の炎が……凍った……?」
うなだれるように、両膝を地面に落とし呆然とするイフリシア。
『相性ってやつかな』
アルが意地悪そうに呟く。
「こ、こんなことが……。き、貴様……。一体何者だ!」
イフリシアが唇を震えながら叫んだ。
(え?このパターンって……)
その問いかけを聞いた瞬間、額に嫌な汗が浮かんでくる。
『スズネ。彼女は君が何者か知りたいみたいだよ?さあ、教えてあげなよ。君が何者なのかを!』
アルがニヤニヤと笑いながら、左右に大きく尻尾を振った。
(あ、体がまた……!ほんと、何なのよ毎回ぃぃぃぃぃ!!)
あたしの体から、青白い光と共に吹き出した、キラキラとした何かがあたりを覆い尽くす。
そしてダンスのような謎のステップを軽く踏み、際どい衣装をはためかせながら。右手を突き出すように、あたしの口が、勝手に動いた。
「凍てつく大地に、聖なる慈愛をーー氷雪の王女サクラ!降臨!」
(ああああああああ!!めちゃくちゃ恥ずかしいんだけどおおおおおお!!)
イフリシアの業火の様に、あたしの顔面が羞恥心で熱く焼けていく。
『決まったね、スズネ。ほら、騒ぎを聞きつけた町の人も、プリンセスの誕生を祝ってるよ』
(……は?)
アルの言葉に、あたしはギギギとロボットのように首を回して、屋敷の門の方を見た。
そこには、度重なる爆発音と、夜空を焦がした火柱に引き寄せられた野次馬たちが、鉄格子の隙間からこちらを凝視していた。
「おお……見ろ!あの神々しいお姿を!」
「魔族の炎を、一瞬で氷に変えてしまったぞ……」
「なんと美しい……」
「氷雪の王女と名乗っていたが、精霊騎士様が召喚なさったのだろうか」
「あの方が吹雪を止めて下さったのか!」
ざわめきが、熱狂へと変わっていく。
あたしの、この露出度が高すぎる衣装も、彼らのフィルターを通すと、どうやら神々しく見えるらしい。
また、このパターン!
(……い、いや、見ないで!お願いだから見ないでぇぇぇ!!)
羞恥で発狂しそうなあたしに、イフリシアは容赦無く言葉の刃を突きつける。
「氷雪の王女サクラか……。覚えておこう」
(いや、覚えなくていいから!忘れてください。お願いします!)
……死にたい。
今すぐ、炎で焼かれて灰になりたい!!
そんなあたしの願いを無視して、いつの間にか雪雲は晴れ、暖かな太陽の日差しが、あたしの羞恥心ごと白日の下に照らし始めていた。
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