ヘル・プロミネンス
「……よくも、よくもやってくれたわね!乙女の純情を弄んだ報い、その身で受けなさい!」
顔を真っ赤にして叫ぶイフリシアの全身から、先ほどとは比べ物にならない密度の火柱が噴き上がる。
先ほどの消火活動で鎮火したはずの炎は、燻っていた怒りとともに、けたたましく燃え上がった
ビリビリと肌に感じるほどの炎の熱量は、大広場の天井をジリジリと焦がすようだった。
「ちょっと待って!そんなに怒らなくても……。あたしはただ、物理的な興味で――」
あたしの言い訳が終わる前に、イフリシアは地を蹴ってこちらへと突進してきた。
(え?思ったより早い!)
とっさに、防御をイメージするが、イフリシアの炎を纏った拳の衝撃に吹き飛ばされる。
ドォォォォンッ!!
気がついた時には、あたしは広間の壁まで吹っ飛ばされ、壁の破片と土煙が辺りに激しく飛び散っていた。
無傷――。
とはいえ、壁に叩きつけられた衝撃が少しばかり残っていた。
(びっくりしたああああ!一瞬死んだかと思った……。ガード間に合ってよかった……)
パンパンと、フリルの服についた埃を払いながら、あたしはスッ、と何事もなかったように起き上がった。
さすが魔族の幹部。
はっきり言って、今までの雑魚兵士とはレベルが違う。
あたしは、初めて出会う強敵――魔族の力に驚きを隠せなかった。
(幹部でこれでしょ?魔王とかもっと強いってこと?)
あたしが頭を抱えていると、煙の中から無傷で出てきたあたしを見て、イフリシアは少し驚いた表情を浮かべていた。
「……あの直撃を受けて無傷だと?では、これはどうかな!?」
イフリシアの纏う炎がブワッと膨れ上がり、それとともに周囲の空気が揺らぐほどの高温になっていく。
(うわ、熱っ!これ、屋内だとみんな蒸し焼きになっちゃうよ……)
あたしの焦りを見抜いたように、脳内でアルが淡々と告げた。
『ここで戦うとまずいね。レオにしても、まだ幹部と戦うのは無理だ。加護があるとはいえ、まだまだレベルが届いていないし、このままじゃ、スズネ以外全滅だ』
(全滅って、この幹部そんなに強いの?じゃあどうすればいいのよ?)
『ブレスレットの機能の一つ、空間転移を使うんだ。君とイフリシアだけでも外に出るしかない』
(何よ、その便利機能は!相変わらず後出しが多すぎるでしょ!!)
文句を言いたいけど、今は緊急事態だ。
あたしはブレスレットを握りしめ、あたしと目の前の炎女だけを、強制的に移動させるイメージを固めた。
「場所変えるわよっ!転移!!」
あたしが叫んだ瞬間、世界がピンク色の光に塗り潰された。
フッと重力が消え、視界が反転する。
――ヒュオオオオオオオ……。
次に視界が開いた時、肌を刺したのは灼熱の炎ではなく、凍てつくような冷気だった。
転移した先は、屋敷の外――広大な中庭だった。
セレナによる凍結が止まったとはいえ、地上は未だ深い雪に覆われた銀世界だ。
「……ここは?」
イフリシアが驚いたような表情で周囲を見渡している。
吹雪自体は収まっているものの、肌を刺すような冷気が、物理的な圧力を持って打ちつけてくるのがわかった。
(ちょっと……今のあたし、すごい布面積薄いんですけど……!)
あたしは反射的に身を縮こまらせた。
今の格好は、ガラスの靴に、肩出し背中出しの薄っぺらなドレス。
こんな極寒の野外に放り出されたら、三秒で凍死コース確定だ。
「こんな雪の中で、こんな格好じゃ寒……あれ?」
身構えたあたしは、ふと違和感に気づいて自分の体を見下ろした。
――寒くない。
それどころか、この凍てつく空気が、まるで心地よい春風のように肌に馴染んでいる。
「少しも、寒くないわ……」
大丈夫。よね?
『君は氷雪の王女だよ?寒さなんて感じるわけないじゃないか』
どこからともなく、聞き慣れた暢気な声が響いた。
声のする方を見ると、アルがいつものように、ふわりと宙に浮いている。
(なんであんたがここにいるのよ?あたし、自分とイフリシアしか転移させてないわよ?)
『僕だけ別で転移したに決まってるだろ?僕を誰だと思ってるんだい?』
アルは鼻をフンと鳴らして、得意げに宙で一回転してみせた。
「まあいいわ!これで消し炭になりなさい!!」
イフリシアは業火を身にまとい、盛大に火柱を噴き上げた。
ドォッ!!という爆発音と共に、彼女を中心とした雪景色が一瞬で変貌する。
降り積もっていた雪が、瞬きする間に蒸発し、視界を真っ白な水蒸気が覆い尽くした。
足元の雪解け水が沸騰し、泥水となって跳ねる。
まさに、焦熱地獄。
人間なら近づくだけで肺が焼けるような熱波が、あたしに向かって一直線に放たれた。
「――地獄の業火!」
イフリシアの腕から放たれた極太の火炎放射が、あたしを飲み込み、視界が紅蓮の炎に塗りつぶされる。
「きゃああああああああああ!」
紅蓮の業火は、瞬く間にあたり一面の雪を蒸発させ、悲鳴ごとあたしを呑み込んでいった――。
いつもこの作品をお読みいただき、ありがとうございます。
『面白かった』『続きが読みたい』と思っていただけましたら、下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします!
面白かったら★5つ、つまらなかったら★1つ、正直な感想で結構です。
また、ブックマークもしていただけると嬉しいです。
皆様の応援が、作品執筆のエネルギーになります!
――お知らせ――
新作短編の純愛サスペンス心理ホラー『世界に君だけが残るまで』を公開しました。
10話完結なので是非読んでみてください。




