門前の試練 ~若き騎士との出会い~
揺られること一時間。
あたしたちを乗せた馬車は、その後大きな問題もなく森を抜け、見上げるほど巨大な石造りの城館へと辿り着いた。
ここがディスカール伯爵のお屋敷らしい。
「着きましたぞ、スズネ様。 ……おお、門の前で待っているのは」
伯爵が窓の外を見て声を弾ませた。
つられてあたしも外を覗くと、重厚な鉄門の前に、一人の青年が直立不動で立っていた。
白銀の甲冑を身に付け、腰に見事な長剣を差すその姿は、まさにファンタジー世界の騎士という感じだった。
短い金髪の間から覗く青い瞳は、まるで、あたしの正体を見透かすような鋭さだ。
「スズネ様、紹介いたします。 こちらが、我が騎士団の若きエース、カイルです。 少々性格に難はありますが、腕は確かです」
馬車の扉が開く。
あたしが恐る恐る地面に足を下ろすと、その青年騎士――カイルは、音を立てて軍靴を鳴らし、これ以上ないほど綺麗な敬礼をしてみせた。
「伯爵閣下、お戻りをお待ちしておりました! ……して、そちらの……異界の装束を纏った少女が、伝令のあった聖女殿でしょうか」
カイルと呼ばれた青年の視線が、あたしを射抜く。
……怖い。
完全に不審者を見る目だ。
(っていうか、見過ぎじゃない? そんなに怪しいかなあ……)
確かにあたしは今、白ブラウスにチェックのスカートという、この世界では浮きまくりの制服姿。
でも、そこまで怪しまなくてもよくない?
あたし、ちょっと可愛いだけの普通の女子高生よ?
『鈴音さぁ、睨み返せとは言わないけど、せめて背筋くらいは伸ばしなよ。……あのカイルって子、結構イケメンじゃない?』
(……見た目だけで判断しないでよ。 絶対あたしのこと疑ってるってば!)
脳内のアルに毒づきながら、あたしは精一杯、優雅(に見えるはず)な会釈を返した。
「あ、初めまして……あたし、スズネと言います。 あ、この子は使い魔のアルです」
「もふん」
アルが愛想よく鳴くが、カイルの表情は変わらず固いまま。
「……失礼ながら。 聖女といえば、清廉なる法衣を纏い、杖を手に奇跡を起こす存在。 ……このような、年端もいかぬ、失礼ながらこんな軽装の普通の娘が、賊を退けたとは……にわかには信じがたい」
そりゃそうでしょうね……。
あたし自身、今でも信じられないからね。
「カイル!スズネ様に対して失礼だぞ!」
騎士団長が慌てて制するが、カイルは一歩も引かない。
「団長、私は自身の目で見たものしか信じませぬ。 ……スズネ殿。貴女が本当に、女神サクラを宿す聖女であるならば、その御力、私にも見せていただけますか?」
そう言って、カイルが腰の剣に手をかけた。
(え、ちょっと待って。 戦うの? また変身するの? あたし、まださっきのパンチの筋肉痛が残ってるんだけど!)
「カイル、よさないか!スズネ様は女神降臨の代償でひどくお疲れなのだぞ!」
団長が手でカイルを制すが、カイルは知らぬ顔だ。
「ならば、その傍らにおいでの聖獣殿でも構いませぬ。 聖獣とは、主を守る盾。 私の剣を受け止めるくらいは造作もないはず――」
『……鈴音。 こいつ、僕をただのペットだと思って舐めてるよね?』
脳内に響くアルの声が、心なしか低くなった。
(……あ、これ、まずい)
「あ、あの! カイルさん、アルをあんまり怒らせないほうが――」
あたしが言いかけるより早く、カイルが「お覚悟!」と剣を抜いた。
ただし、相手はタヌキだと思ったのか、峰打ちで軽く小突くような動き。
その瞬間。
アルが「フンッ」と短く鼻を鳴らした。
「キィィィンッ!!!」という金属音と共に、カイルの剣が見えない壁に跳ね返される。
「な……ッ!?」
凄まじい反動に、カイルの腕が大きく跳ね上がる。
アルは動じず、ただ「もふぅ」とあくびをしてみせた。
「……ま、魔法障壁? しかも無詠唱……?」
カイルは呆然と、自分の震える手とアルを見つめている。
「……スズネ殿。 そして、聖獣アル殿。 ……大変な非礼を。 貴女様方は、本物だ……」
カイルがその場に膝をつき、深く頭を下げた。
(……チョロい)
この世界の騎士、意外とチョロいかもしれない。
「わかれば良いのだよ、カイル。 スズネ様、アル様、大変失礼をいたしました。 さあ、今度こそ中へ。 この国を脅かす、魔導錫の利権問題……聖女様のお知恵を拝借したいことも山ほどあるのです」
伯爵の笑顔に促され、あたしはカイルの横を通り過ぎる。
横目で見えたカイルの耳が、心なしか真っ赤になっていた。
(……恥ずかしかったのかな? それともあたしに惚れちゃったり?)
そんなことを思いながら屋敷へ進むあたしには、堅物な護衛騎士という、新しい信者が加わったのだった。
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