歴史の歯車が狂った日
『いま、この瞬間に、この世界の歴史が変わってしまったようだ――』
アルがポツリと、けれど重々しく呟いた。
あたし以外のみんなは、その発言の意味が分からないと言った表情で、無言でアルを凝視した。
(……え?どういうこと……?)
歴史が変わった?
なにそれ、映画とかである、なんとかパラドックス的なこと?
「ちょっと、アル。それってどういうこと?あたしにも分かるように説明してくれる?」
あたしは早口でアルに問いかける。
無意識に、ドクドクと鼓動が早くなるのを感じた。
アルは少し考えたように、眉をしかめ重い口を開いた。
『本来セレナは、一ヶ月後、ここでレオに殺されて死ぬ。それが、この世界の正解であり、本来の歴史だったんだ――』
「……っ!?」
セレナが息を呑み、とっさに胸元を強く押さえた。
レオもまた、自分の手がかつてその命を奪うはずだった事実に、言葉を失っていた。
「そんなこと……」
思わず、目を閉じる。
本来、レオがセレナを殺したって……?
嘘でしょ……?
『後に真実に気づいたレオはひどく落ち込み、心に大きな傷を負うことになる……。しかし、レオはそれを乗り越えて成長し、真の勇者へと上り詰めていくんだよ。本当ならね――』
アルの言葉に全員が言葉を失った。
本来であれば、こんな馬鹿げたこと誰も信じないかもしれない。
でも、先ほどのあたしの力――。
そしてアルのふざけたような圧倒的な存在感の前では、信じざるを得ない謎の説得力があった。
『僕が見た本来の歴史では、魔王を倒すのは勇者レオを含めた5人だ。魔王を倒し、後世に『五英雄』と呼ばれるはずだった五人――』
アルの淡々とした言葉が、広間に重く響く。
「五英雄……」
あたしはその言葉をなぞる。
世界を救うという、輝かしい功績――
それこそ、歴史の教科書に載るような、世界を揺るがす大きな出来事だ。
それが、あたしのせいで、形を変えようとしている。
そう思うと堪らなく怖くなって、今すぐ膝を丸めてうずくまりたい気分だった。
『しかし、歴史の改編が起こった結果、なぜか英雄の数が増えてしまっているんだよ――』
アルの瞳が、あたしを真っ直ぐに射抜いた。
「えっ、まさか……?」
喉が引きつる。
嫌な予感が、確信に変わっていく音が聞こえた。
「そう、そのまさかさ」
アルは残酷な宣告を下すように、ゆっくりと首を振った。
『六人目。つまり、本来存在しないはずの英雄として――セレナ、君がその歴史の歯車に組み込まれたんだ』
アルは、静かにセレナの方を見据えて言った。
今、セレナって言ったよね?
(……よ、よかったぁぁぁ!あたしじゃなかったああ!)
あたしは内心で、天を仰ぎたくなるほどの安堵に包まれた。
そうよね、戦うのはセレナよね。
精霊騎士だし、強いし、適任だわ。
――けれど。アルの宣告は、そこで終わりではなかった。
『それだけじゃない。七人目にカイル――』
「え?」
まさかの名前に、先ほどまでの安堵が吹き飛んでいく。
『八人目リナ。九人目ミリィ――』
アルが名前を挙げるたび、あたしの心臓が嫌なリズムを刻み始める。
ちょ、ちょっと待ちなさいよ。
なんであたしの周りの人間が全員ランクインしてるわけ?
(ひょっとして、まさかあたしが十番目じゃないわよね!?)
冷や汗が背中を伝い、あたしは首を横に振る。
それだけは言わないで。
嫌だ、その一言だけは――。
『この九人。つまり「九英雄」を従えて魔王を倒す。つまりは、彼らを導く真の勇者であり、真の聖女――それがスズネ、君だよ』
アルが、残酷なまでにハッキリとした口調であたしを指し示した。
「ええええええええええええ!!」
広間にあたしの悲鳴が響き渡る。
(五英雄が九人になって、九英雄?で、その頂点があたし?)
話が大きくなりすぎて、ついていけないんですけど……。
そんな導くたって、誰を?
あの癖の強い眷属たちと勇者を!?
冗談じゃない!
絶望に身悶えるあたしを余所に、アルの瞳は、書き換わった真実の歴史をなぞるように、妖しく、そして静かに、細められていた。
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