スターダスト・クライオシス
これ以上、一秒だってこの姿を晒していたくない。
なんなら、ここにいる全員の目を凍らせてしまいたいくらいだが、そうは言っていられない。
(この街を、救わなきゃ……。というより、目の前のマグマの上昇を抑えないと、このままみんな蒸し焼きよ。イメージ、イメージ――)
あたしは目を閉じて、脳内に強くイメージを固定する。
この街の地下を通る火脈とかいうものがどんな構造かなんて知らないけれど、現代の知識からなんとなくの想像はつく。
蜂の巣のように張り巡らされているか、それともズドンと一本通っているか。
あたしはそのどちらの場合でも対応できるよう、さらにイメージを膨らませていった。
足元で荒れ狂う火脈を、煮えたぎるマグマを、問答無用で冷やし固めるイメージを。
侵入を許さない強固な岩盤へと作り替える、絶対零度の静寂をイメージする。
あたしはカッと目を開くと、右手のアイスロッドをマグマの大穴へ向けて力強く突き出した。
「全部、凍れええええええ!」
あたしがヤケクソ気味に叫ぶと、杖の先から青白い冷気が蒸気のように白い煙を吐きながら迸り、大穴の上で巨大な形を成していく。
それはまるで、天から降り注ぐ巨大な氷のつららか、あるいは獄炎を封印するために現れたクリスタルの大蛇のようだった。
――ドォォォォォォン!!
地底の空気を震わせる轟音と共に、あたしが放った極低温の魔力がマグマの表面に激突する。
接触した瞬間、その大蛇はマグマの中へと、溶け込むかように潜り込んでいった。
(隅々まで行き渡らせてから、カチンカチンにするイメージ!)
杖からは絶えることなく冷気が吹き出しており、逆にそれが街の地下のマグマがどれほど多いのかを物語っているかのようだった。
杖を握るあたしの手は、魔力の奔流による振動で痺れ、感覚がなくなっていく。
それからしばらくすると、杖からの冷気がようやく止まり、サウナのようだった大広間は清涼な空気を取り戻していった。
「これで、終わったの……?」
あたしは膝の力が抜け、ヘナヘナとその場に崩れ落ちた。
冷たい床の感触が、今は何よりも心地よい。
『素晴らしい!スズネにしては上出来だ!君の魔法で街の地下にある火脈は完全に沈黙したよ。冷やして岩にするだけじゃない。君の魔力で冷やされたマグマが、新たな火脈の侵入を完全に遮断できている』
アルが心底驚いたような表情を見せながら、あたしの肩にちょこんと乗ってきた。
(どうよ。あたしだって、やる時はやるのよ)
あたしは荒い息を整えながら、少し自慢げに肩の上のアルに目配せをした。
「おぉ……。なんと、なんと素晴らしい。暴走する火脈を、文字通り力ずくでねじ伏せられた……」
カイルが、凍りついた地面とあたしを交互に見て、震える声で感嘆を漏らした。
どうやら、あたしの冷気は周りのサラマンダーたちをも一掃したようで、レオくんは魔法の威力に目を丸くしているようだった。
「さすがはお嬢様。見事でございましたわ」
リナがあたしの傍らに跪き、尊敬の念を込めた声音でそう告げた。
その視線は相変わらずあたしの衣装の、透け感をなぞっているようだったけれど、今はそれすらも気にならないほどの達成感があった。
「この程度の災厄、お嬢様の聖域の前では――と、いつものように賛美を送りたいところですが、セレナ様の容態がよろしくありません。出血もですが、体内の魔力がほとんどなくなっているようで、一刻を争います!」
冷静なリナが、珍しく青ざめたような表情をこちらに向け、緊迫した声を張り上げた。
あたしたちは凍りついた地面を滑るようにして、倒れ伏したセレナのもとへ駆け寄る。
『地下の火脈を封じ込めるために、相当な魔力を使っていたようだ。このままでは、ほぼ助からないだろうね』
アルの無機質な声が、あたしの脳内に直接流れ込んできた。
残酷な現実を突きつけるその響きに、あたしの指先が震える。
(助からないって、そんな……。せっかく火脈を止めたのに、彼女が死んじゃったら意味ないじゃない!)
あたしは、自分でも無意識のうちにセレナの冷たくなった手を握りしめていた。
あんなに気高く、街のために自分を犠牲にしようとしていた人を、ここで見殺しになんてできるわけがない。
(アル、何か方法はないの!?あたしの魔力を分けるとか、何かあるでしょ!)
『……リスクはあるが、君の「加護」を直接流し込むしかない。あの日、勇者の少年を救ったようにね。ただし、今の彼女は器が空っぽだ。君の魔力を受け入れれば、彼女の間違いなく、君の「眷属」へと変質するだろうね。ただ、それはーー』
アルはあたしの肩の上で、試すような視線を向けながらも、なぜか最後に言葉を濁した。
(また、眷属?勇者の次は、精霊騎士??)
なんだか、取り返しのつかない大変なことになりそうだけど、迷っている暇なんて一秒もなかった。
「……やりなさいってことね。わかったわよ!」
あたしは意を決して、セレナの胸元に両手をかざした。
羞恥心なんてどこかへ吹き飛んでいた。
今はこのふざけた魔法少女の力だろうがなんだろうが、彼女を救うために全部注ぎ込んでやる。
「お願い、目を開けて……!」
あたしの叫びに呼応するように、手首のブレスレットから、先ほどの攻撃魔法とは対照的な、柔らかく温かな光が溢れ出した。
累計10万文字を突破し、物語はいよいよ中盤の大きな山場へと差し掛かっております。
ここからは一話一話の密度をさらに高め、スズネの物語を最高の形でお届けするため、平日の更新ペースを【月・水・金】の週3回とさせていただきます。
ペースは変わりますが、引き続き、聖女スズネの運命を共に見守っていただければ幸いです!
『面白かった』『続きが読みたい』と思っていただけましたら、下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします!
面白かったら★5つ、つまらなかったら★1つ、正直な感想で結構です。
また、ブックマークもしていただけると嬉しいです。
皆様の応援が、作品執筆のエネルギーになります!




