いざ!氷の魔女の屋敷へ
あたしたちはマジカルウォーマーのおかげで寒さこそ感じないものの、この猛吹雪の中を突き進むのは体力的にいってもう限界だった。
「ああもう無理、あたしは都会っ子なのよ!雪なんて、たまに降るからいいんであって、こんな修行みたいなの求めてないわよ!」
深い雪に足を取られ、思わず膝をつく。
視界を真っ白に染める雪の礫に向かって、あたしはありったけの不満を叩きつけた。
(アル、魔法のそりとかないの?)
あたしは、砂漠でオアシスを求める旅人のように問いかけた。
『ごめん、スズネ。そりはないんだソーリー』
二人の間を吹雪の音がヒュー、と虚しく響いた。
(……余計寒くなるからやめて)
アルって確か、宇宙の思念体みたいなやつだっけ?
そんな存在でもダジャレとかいうのね。
これはアルあるあるということにしておこう
あたしが、アルのダジャレに精神的なダメージで凍えていると、隣で平然と歩いているカイルが、手袋越しに温かな手を差し伸べてきた。
「スズネ様!どうぞこの不浄な手ではございますが、おとりください!」
あたしはカイルの手を黙ってとると、無骨な騎士の力に引かれるまま雪道を黙々と進んだ。
ふと、先頭を歩いていたレオが足を止め、優しく振り返った。
「もう少しです、頑張ってください。あそこに建物が見えます」
レオの指差す先、荒れ狂う吹雪の合間から、巨大な屋敷の影が幽霊のように浮かび上がった。
それは氷の魔女の屋敷に相応しく、鋭い氷柱が牙のように屋根から垂れ下がっている。
威圧的なその外観に、あたしは思わず身震いした。
屋敷の脇、ひっそりと口を開けているのは、暗い奈落へと続く地下への入り口だった。
「やっと着いたわね……。さっさと中に入って一息つきたいわ!」
あたしはこの地獄のようなホワイトアウトから一刻も早くおさらばしたくて、ろくに確認もせずに入り口へと突進した。
「いてっ!」
突然の衝撃に思わず声がでる。
あたしは、目に見えない硬い壁に正面から激突し、おでこを盛大にぶつけたようだった。
思わずその場に尻餅をつき、ズキズキ痛む額を押さえた。
(……痛っ!?なによこれ、透明なアクリル板でもあるわけ!?あたしが鳥だったら気絶してるところよ!)
あたしの醜態をよそに、『結界だね』とアルが冷静な分析の声を上げた。
『ただの壁じゃない。悪意や外敵を認識して、その空間の存在自体を拒絶する強力な拒絶結界だ。
許可のない者、つまりは侵入者を絶対に入れさせないという、強い意志を感じるよ』
「結界……」
あたしは、現代社会でもまだぶち当たったことのない見えない壁に直面していた。
「僕が結界を切ります」
動揺を隠せないあたしを尻目に、レオが迷いなく聖剣を抜いた。
(……え?切る?なにを?その「強い意志」ごと物理で解決しちゃうわけ!?)
あたしが呆気にとられている間に、レオが聖剣を無造作に振りすると、魔法の壁がスパッと綺麗に切り裂かれた。
「おお!さすがレオ殿!」
カイルが自分のことのように胸を張り、拍手喝采を送っている。
(さすが勇者ね。……すごい切れ味だわ。あんなのでトマトとかきゅうり切ったら……というか、人なんか真っ二つじゃないの??)
物騒な思考を必死に振り払い、あたしたちは慎重に、入り口から地下へと続く階段を降りていった。
最初は石段やレンガで綺麗に整えられていたけれど、奥へ進むにつれてゴツゴツした岩の地肌が剥き出しになり、辺りは湿った洞窟のような様相を呈してくる。
コツ、コツと、あたしたちの足音だけが嫌に大きく響く。
それが、この地下洞窟に立ち込める不気味な静寂を、いっそう強調しているかのように感じた。
ーーどのくらい歩いただろう。
あたしたちの目の前に、威圧感を放つ古めかしい巨大な扉が姿を現わす。
そのあまりの重厚さに、あたしたちは吸い込まれるように扉の前で立ち止まった。
あたしは、大きく息を吸い込んでから、気持ちを落ち着かせるように、ゆっくりと息を吐き出す。
「レオ、カイル準備はいい?」
レオが聖剣を握り直し、「はい、いつでも」と真っ直ぐに扉を見据える。
カイルも「いつでも準備はできております」と長剣を構えて腰を落とした。
(この向こうに魔女がいるのね……)
絵本なんかでしか見たことも、聞いたこともない魔女。
さあ。いよいよ、ご対面だ。
あたしはゴクリと唾を飲み込み、意を決して、巨大な扉を力任せに押し開けた。
おかげさまでジャンル別日間ランキング90位にランクインしました!
本当にありがとうございます。
累計4000PVを突破した矢先の快挙に、少し震えています。
さらに上を目指してスズネを書き抜きたいと思っています。
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