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【7000PV感謝 & 4章スタート】異世界★魔法少女― 転生初日に聖女扱いされましたが、変身が罰ゲームすぎます! ―  作者: もりやま みお
第3章 氷の魔女と氷雪の王女 【水の都アクアヴェーネ編】
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無免許聖女と目覚めし勇者

「…………え?」

 思考が一瞬でフリーズした。


 勇者?勇者ってなに??

 あの、テレビゲームとかマンガとかに出てくる、選ばれしアイツのこと?


(ちょっとアル、あんた何言ってるのよ。勇者なんて、そんなフィクションみたいな存在が、こんな道端に落ちてるわけないじゃない)


『いや。僕だからわかるけど、この世界で彼は紛れもない()()として生まれてきている。今、彼にその自覚があるかはわからないけど、この先、魔王を倒すことになる予定の少年だよ』

 アルは、あたしの肩の上で淡々と事実を告げた。


(……じゃあ、なに?あたしは今、将来的に世界を救うはずの勇者の卵を、物理的にはねちゃったってこと?)


『……そうなるね』


 スケール感が、バグってない?


 ただの人身事故かと思ったら、まさかの世界存亡の危機。

 あたしのブレスレットから出てきた魔法の移動手段は、あろうことか一発目で世界の希望をはね飛ばしたのだ。


(アル、どうしよう……。ねえ、目を覚ますよね!?死なないよね!?)


『僕がみた感じ、目立った外傷はないみたいだけど……かなり頭を強く打ったみたいだ。このまま意識が戻らない可能性も、高そうに見えるよ』


(……っ!!も、もしよ?もし、この子がこのまま目を覚まさなかったら、どうなるの?)


 答えを聞くのが怖いが、流石に聞かないわけにもいかなかった。


『魔王に対抗する手段を失った人類は、なす術もなく負けるだろうね。世界は魔王に蹂躙され、魔族が人を支配する時代がやってくるかもしれない。まあ、それを阻止しようとなると、君が代わりに戦うことになるかもね。なにしろ、この世界で魔王と渡り合えるのは、勇者を除けば君ぐらいなんだから……』


(えええええええええええええ!!)


 何サラッと恐ろしいことを言ってるの、この毛玉は!


 あたしが、魔王と戦う?

 魔王ってあの魔王でしょ??

 冗談じゃない。無理無理無理!!

 あたしは南の果てで、誰にも邪魔されずに自堕落な隠居生活を送るって決めてるのよ!


(だったら、なんとしてでも助けなきゃ……!アル、何か方法はないの!?)


『唯一の手段は、スズネの()()で魂を直接修復することだろうね。

 移動中、ずっと君のそばに置いて魔力を浴びせ続ければ、回復するかもしれない』


(加護……。でも、それって強く受けすぎたら、この子もあたしの眷属?ってのになっちゃうんじゃないの?)


 それって、あたしが勇者より上の存在になるってことだよね?


 …………。

 あたし、裏ボスじゃん……。


『そうだね、この少年もカイル、リナ、ミリィたちと同じようにスズネの眷属になる可能性が高い。でも、彼が目覚めないまま魔王が来たらーー』


(あーっ!もう、わかったわよ!背に腹は代えられないわ!)


「リナ、カイル!その少年を手当するわ!中へ!」


 あたしは半泣きになりながら、リナとカイルに意識のない勇者をキャンピングカーのリビングへと運び込ませた。


(……お願いだから起きて!あたしを魔王の前に立たせないで!)


 ソファに横たわる勇者の手をぎゅっと握りしめ、あたしは少年の回復と、ーーそれ以上に自分の保身を、切実に、執念深く祈り続けた。


 それから数時間。


 あたしが祈るような気持ちで魔力を送り続けていると、不意に少年の指先がピクリと動いた。

 けれど、彼が目を開けることはなかった。


 アルが言うには「魂の修復にはまだ時間がかかる」らしい。


「……はぁ。起きてくれないんじゃ、ここで待ってるわけにもいかないわね」


 あたしたちは、眠り続ける勇者をリビングのソファに寝かせたまま、ひとまずアクアヴェーネへと向けて発進することにした。


 隣にはあたしがはねた()()()()()が、あたしの魔力に包まれてスヤスヤ眠っている。


(なんなのよ、この状況は。落ち着かなすぎるわよ……)


「お嬢様、ご安心ください。この少年は私たちがつきっきりで見ております。ですから、お嬢様はしっかりと前を見ていてください。これ以上事故を起こさないよう安全運転でお願いしますわ」

 リナが背後から、励まし(プレッシャー)を投げかけてくる。


「うるさいわね、あんまり言わないでくれる?これでも結構、気にしてるのよ!?そもそもあたし無免許の初心者ドライバーなの!!」

 あたしはハンドルを強く握りしめ、逆ギレ気味に応じた。


 そんな不毛なやり取りを繰り返しながら、キャンピングカーは快適な揺れと共に街道を突き進んだ。


 ――それから、なんだかんだで丸1日が過ぎた頃だろうか。


 慣れない運転とリナの過剰なプレッシャーで、あたしの精神ゲージが底を突きかけていた時。

 ふとフロントガラスの向こうに目をやると、いつの間にか緑だった景色が、眩しいほどの白銀へと変わり始めていた。


(……ちょっと。南に向かってるはずなのに、なんで雪景色になってるわけ?)


 嫌な予感に背筋を凍らせていると、背後のソファの方から「う、ううん……」という微かな声が聞こえてきた。


「起きた!?」

 あたしが身を乗り出すと、少年はゆっくりと、焦点の定まらない目で天井を見上げた。


 そして、傍らにいるあたしに気づくと、呆然とした様子で口を開いた。

「……ここは?ああ、そうか。僕は確か、道に飛び出した不注意で馬車にはねられて……」


「そ、そうよ!あなた、いきなり飛び出すんだもの、びっくりしたわよ!ほ、本当に、運が悪かったわね!」

 あたしは泳ぎそうになる目を必死に固定して、聖女スマイルを張り付けた。


「……助けていただき、ありがとうございます。僕の不注意だったのに、こんなに手厚い看護まで……」

 少年は体をさすりながら、あたしに向かって深々と頭を下げた。


 そして、あたしたちを一人ずつ見渡すと、意を決したように声を落とした。


「実は、隠しておくつもりだったのですが……本当のことをお話しします。……僕は、この世界に生まれた時から定められた()()なんです。まだ自覚したばかりの未熟者ですが……」


 リナ、カイル、ミリィが、文字通りひっくり返らんばかりの絶叫をあげた。


 そりゃそうだ。伝説上の存在が目の前のソファで寝てたんだから。


 けれど、一人だけ異様に冷めた顔をしているあたしを見て、カイルが驚愕の表情で詰め寄ってきた。


「ス、スズネ様!驚かれないのですか!?勇者様ですよ!?この少年が!!」

「……え、ええ。そうね。すごいわね……」


 知ってた。

 あたしが事故した後に、この毛玉から嫌というほど聞かされたから。


 あたしが内心で冷や汗を流していると、勇者と名乗った少年は表情を険しくして、旅の目的を語り出した。


「実は、僕はアクアヴェーネへ向かう途中だったんです。あそこには今、勇者の力が必要なほどの事件が起きていて……」


「えっ……?アクアヴェーネで事件?」

 聞き捨てならない物騒な言葉に、あたしは思わず聞き返した。


「はい。あそこは今、恐ろしい()()()()の手によって完全に凍りつかされています。住民は寒さに震え、街は死に絶えようとしている。僕はその魔女を討伐しに向かうところだったのですが……」


 少年は悔しそうに拳を握りしめた。

「このザマです。こんなところで時間を食っている場合ではないのに……」


 少年の言葉に、あたしの顔から血の気が引いた。

 あたしが隠居先に選んだ水の都は、いつの間にか、魔女に呪われた氷の街に変貌しているようだった。


 しかし、そんなあたしの心を知らないカイルは、一人で鼻息を荒くして盛り上がっていた。


「勇者殿、それは怪我の功名というかなんというか。安心なされい!この鉄の馬車は驚異的な速さを誇っております。もう明日にはアクアヴェーネに到着する予定ですぞ!」


「えっ、本当ですか!?それは助かります!」

 ぱぁぁぁ、と顔を輝かせる少年。


(……え?ちょっと待ちなさいよ。一ヶ月の道のりを三日で着いちゃうの?)


 早すぎない?

 あたしの心の準備、まだ一ミリもできてないんだけど。


 あたしの横でリナは「南の太陽の下で、せっかくお嬢様の水着を拝めると思いましたのに……」と聞き捨てならないことを喚きながら悶絶していた。


 リナは放っておくとして、魔女討伐?勇者?

 なんでそんな面倒ごとが、あたしの行く先々にバラまかれてるわけ?


(……もうやだ。あたし、今すぐハンドル切ってUターンしたい……)


 あたしは、ズキズキと痛み出したこめかみを押さえ、深いため息と共に頭を抱えた。

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