伝説の終わり、そして始まり
「……っ、すごっ!」
思わず声が漏れた。
そこには、かつてこの海を恐怖と熱狂で支配した、伝説の女海賊が遺したと伝わる、金銀財宝が山となって積まれていた。
薄暗い部屋の中で、金貨の山が鈍く、けれど確かな誘惑を放って輝いている。
「ゾルグがこの島を拠点にしたのも、この伝説の遺産が目的だったのでしょう。ですが、ついにその主が決まったようですわね」
「やったぁぁぁぁぁぁぁ!!見てリナ、お宝よ!正真正銘の本物のお宝の山よっ!!」
あたしは、魔法少女としての理性をかなぐり捨て、一直線に黄金色の山へとダイブした。
ジャラジャラと肌に伝わる硬貨の冷たい感触。
(ひゃっほぉぉぉぉ!これよ、これこれ!これだけあれば、もう一生遊んで暮らせるじゃない!!魔法少女なんて罰ゲーム、さっさと引退して優雅なニート生活を送ってやるんだから!)
あたしは金貨を両手いっぱいに掬い上げ、空高く放り投げた。
降り注ぐ黄金の雨に打たれながら、あたしは今、世界で一番の幸せを噛み締めていた。
「さすがはお嬢様。……聖女としての振る舞いとは思えない見事な俗物ぶりですわ。ただ、そのように調子に乗りすぎると、手痛いしっぺ返しを食らうかもしれませんわよ」
リナは少し呆れたような、それでいてどこか楽しげな表情を浮かべ、あたしを眺めていた。
「ちょっと、フラグ立てるようなこと言わないでくれる!?」
あたしは、自分こそが最大のフラグを立ててしまったことにも気づかず、必死にリナに食ってかかった。
「フラグを立てる?少々意味が分かりかねますが、旗と言えば……」
リナは宝物庫の隅に置かれていた、伝説の女海賊の象徴である真っ黒な海賊旗を拾い上げた。
そしてどこから取り出したのか、ピンク色の極太ペンで、威厳あるドクロの上に巨大な「ハートマーク」をキュッキュッとなぞり書きしていく。
おどろおどろしい黒旗が、一瞬にして、ファンシーで冒涜的なデザインへと変貌を遂げた。
「ちょ、ちょっと何してんのよリナ……!」
「お嬢様、海賊旗というものは、持ち主の個性を反映させてこそ価値があるものですわ。今のこの旗には、お嬢様の、いや『桃色海賊団』の魂が宿っております」
「宿らせなくていいわよ、そんな魂!ドクロが泣いてるじゃないの!」
あたしの抗議をリナは華麗にスルーすると、鉄の万力のような力強さであたしの腕を掴んだ。
「儀式の準備は整いました。さあ、参りましょう」
「ちょ、待って!まだ泳ぎ足りないんだけど!?金貨あぁぁぁ!!」
有無を言わさぬ足取りで引きずられ、あたしはアジトの最上部、遮るもののない島の頂へと連行された。
荒々しい潮風が吹き抜けるその場所には、まるでこの瞬間のために用意されていたかのように、古びた石造りの台座が鎮座していた。
台座の中央には、何かの儀式を待ち侘びるかのように、旗を立てるための深い穴がぽっかりと口を開けている 。
「さあ、お嬢様。仕上げに、高らかな勝ち名乗りを」
リナが鋭い視線で、あたしを急かしてくる。
「ああもう、分かったわよ!……あたしたちの勝利よ!この島は『桃色海賊団』がいただいたわ!よし、野郎ども、宴だぁぁぁぁーーーー!!!」
あたしは半ばヤケクソで、羞恥心をかなぐり捨てた、どこかで聞いたような勝ち名乗りと共に、あのピンクのハートが躍る忌々しい海賊旗を台座へと力いっぱい突き刺した。
その瞬間――カチッ、という、嫌に不吉な金属音が響き渡った。
「……え?今、変な音がしたんだけど」
ズズズ……と、足元から不気味な地鳴りが立ち上る。
次の瞬間、あたしたちが立っていた岩場が大きく揺れ、島全体が悲鳴を上げ始めた。
「お嬢様。ひょっとすると伝説の女海賊は、他者に島を占領された時のために、自爆装置という名の保険をかけていたのかもしれません......」
「ええええええっ!?今、旗を刺した感触、完全にカチッて言ったわよ!」
慌てて台座の穴を覗き込むと、そこには旗の先端で押し込まれたであろう、小さなスイッチがこちらを覗き込んでいた。
「……これ、細い針金とかで、奥までグッと押さないといけないタイプのリセットボタンじゃないのよぉぉぉぉぉ!!」
なんでそんな、設定の初期化みたいな手口で島を自爆しようとするのよ、伝説の女海賊!
「お嬢様、感心している場合ではありませんわ。
カウントダウンはすでに始まっているようです」
言われるまでもなく、轟音と共に、宝島が崩落し始めていた。
「わ、分かってるわよ!もう全部めちゃくちゃじゃないのよぉぉぉ!!
全員脱出よ!カイル、今すぐ船を出してぇええ!
ああ、あたしの金貨が、あたしの老後の安泰があああああ!!」
島が工場出荷時設定へと戻っていく轟音を聞きながら、あたしは手元に残ったわずか数枚の金貨を握りしめ、ただただ船へとひた走った。
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スズネたちのふざけたドタバタ劇を
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