キャプテン・サクラ、推参!
煙が晴れた広間。
そこには、突然の扉の破壊と「人間砲弾」の飛来に、腰を抜かさんばかりに驚いている男たちの姿があった。
「リナとミリィを返してもらうわ」
あたしはパステルピンクの煙を切り裂き、広間の中央へと堂々と踏み出した。
「あ、あいつらの仲間だと……?貴様、何者だッ!?」
ボスのゾルグが、震える声で叫ぶ。
それに対し、あたしの肩でアルが楽しげに声を弾ませた。
『スズネ、教えてあげなよ。
君が本当は何者なのかをさ。さあショータイムだ!』
「……っ!ちょっと、アル、何を――」
制止しようとしたときには、もう遅かった。
足元から噴き出した魔力の光が、あたしの意思を完全に無視して、勝手にあたしの体を作り上げていく。
(……ああもう!嫌だって言ってるのに、なんで勝手に手が動くのよ!)
あたしは心の中で全力で拒絶した。
けれど、魔法少女の呪い(?)は容赦なく、あたしの喉から「最高に可愛くて凛々しい声」を強制的に絞り出した。
「風を呼び、嵐を呼び、荒波を越えるは乙女の正義!
魔法海賊少女、キャプテン・サクラ!ここに推参!」
キラキラと舞う桜の花びら(どこから出たのよ!)。
黄金のサーベルをバシッと正面に突き出し、あたしは片目を瞑って完璧なウィンクを決めていた。
……死にたい。
今すぐこのアジトと一緒に自爆したい。
「……っ、ぷっ……はっはははは!なんだそのふざけた名乗りは!」
恐怖していたはずのゾルグたちが、一転して爆笑し始めた。
「わっ、笑いたければ笑えばいいわ!それよりも、リナとミリィはどこよ!」
あたしは羞恥心を無理やり怒りに変換して、プルプルと震える手でサーベルを突きつけた。
「こいつらのことか?」
ゾルグがニヤリと下卑た笑みを浮かべ、顎で背後の扉を指し示した。
重苦しい音を立てて開いた扉の向こうから、屈強な兵士たちに荒っぽく引きずり出されてきたのは、無残にも縄で縛り上げられた二人の姿だった。
「おねえちゃん……っ!うっ、ううぅ……!」
ミリィは小さな体を震わせ、溢れそうになる涙を必死に堪えていた。
恐怖に引き攣った顔で、けれどあたしの姿を見つけた瞬間にぱっと表情を明るくさせ、助けを求めるようにその小さな手を伸ばそうとする。
それに対して、もう一人のほうはといえば。
「ああ……っ!お嬢……いえ、キャプテン・サクラ様!
その御名に相応しい、敵陣を蹂躙し、ゴミを見るような冷徹な眼差し……。
まさに、至高を超えた『究極』ですわ……っ!」
……リナである。
口を塞がれていないのをいいことに、彼女は縄の食い込みすら「ご褒美」と言わんばかりの恍惚とした表情で、頬を紅潮させていた。
恐怖心なんて微塵も感じられない、いつもの全開バリバリな変態的称賛。
泣きじゃくるミリィと、悶えるリナ。
あまりにも対照的な二人の姿を目の当たりにして、あたしの心の中の「怒り」と「呆れ」の比率が、危険なレベルで混ざり合っていく。
その背後で、ゾルグの部下がミリィの喉元に冷たい刃を突きつけた。
「さあ、どうするんだい?
キャプテン・サクラさんよぉ!少しでも妙な動きをしてみろ。
このガキの細い首がどうなるか、分かってるんだろうな?」
卑怯者のテンプレみたいな煽りに、あたしは静かに目を伏せた。
(……さあ、どうしようかしらね?)
正直、あたしの力なら一瞬でこいつらをなぎ倒せる。
けれど、ミリィに指一本でも触れられるリスクは冒せない。
「分かったわ」
あたしは手に構えた黄金のサーベルステッキを、前に放り投げた。
「ククク……ずいぶん物分かりがいいじゃねえか」
ボスのゾルグが、下卑た笑みで表情を緩める。
あたしが物分かりがいいですって?……はぁ?
学校じゃ補習と赤点がお友達のあたしに向かって、よくもまあそんな冗談が言えたものね。
それに、勘違いしているようだけど、はっきり言って、武器なんてただのお飾り。
あたしには、拳があるんだから。
油断して、一瞬でも隙を見せなさいよ。
全員まとめて、その顔面を「お掃除」してあげるから――。
あたしが爆発寸前の怒りを拳に込めていた、その時だった。
「スズネ様ぁぁーー!!あなた様の第一の騎士、カイルが参りましたぞぉぉぉーー!!」
突然、別の扉から場違いな絶叫が響き渡る。
喚きながら突っ込んできたカイルは、「人間砲弾」の残骸で派手につまづいて激しく転倒した。
一瞬。本当に、一瞬。
敵の視線が、滑稽に転がったカイルへと釘付けになった。
……その隙、見逃すほどお人好しじゃないわよ!
あたしは放り投げたサーベルを拾うことさえしなかった。
ドンッ!! という衝撃音が遅れて聞こえるほどの、超速。
地面を蹴った瞬間に距離を詰め、ゾルグの部下がミリィに突きつけていた右腕を、下から素手で跳ね上げた。
「が……っ!?」
何が起きたか理解できず、間抜けに口を開けるゾルグの部下。
宙を舞うナイフ。
あたしはミリィを左腕で抱き寄せると、そのままの勢いで右拳を固く握りしめた。
――ここからは、あたしの時間よ。
さらに、一歩。
踏み込んだ床が魔力の余波で爆ぜ、あたしの体は文字通りの「残像」と化した。
返す刀――ならぬ「返す拳」で、リナの背後にいた敵の横面に、目にも止まらぬ速さの右ストレートを叩き込む。
「がふっ!?」
衝撃波だけで敵をまとめて数メートル先まで吹き飛ばすと、あたしはそのまま右脇にリナの体をひっ掴むように抱え上げ、一瞬で元の場所へと引き返した。
瞬きをする間さえなかったはずだ。
敵からすれば、あたしが消えたと思った次の瞬間には、左右に二人を抱えて涼しい顔で立っているように見えただろう。
「……っ、この、バケモノがぁッ!」
ゾルグが引き攣った顔で叫ぶ。
花の18歳に向かってバケモノとは心外ね。
まあ、それはさておきーー。
「カイル!よくやったわ、お手柄よ!」
「は、はひっ!?
転んだだけで何が起きたかよく分かりませんが……ありがたきお言葉にございます!」
顔面を床に強打して鼻血を出しているカイルを、あたしは珍しく素直に褒めてやった。
実際、あのマヌケな転倒がなければ、この隙は生まれなかったんだから。
「おねえちゃん……怖かったよぉ……っ!」
「ミリィ、もう大丈夫よ。怪我はない?......本当によく頑張ったわね」
左腕の中、震えるミリィの頭を優しく撫でる。
その一方で、右脇に挟んだままの「もう一人」はといえば。
「お、お嬢様……!
脇の下に伝わるお嬢様の体温……そしてこの乱暴な扱い……っ!
ああ、全神経が悦びに震えておりますわ……!」
「……リナはちょっと黙っててくれる?」
脇に抱えた変態の頭をギュッと締め上げると、あたしはまだ立ち尽くしている敵の残党たちを、氷のように冷たい眼差しで射抜いた。
さあ、お掃除の時間よ。
あたしの羞恥心の分まで、まとめて地獄へ叩き落としてあげるから。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
本作、累計2,500PVを超えることができました!
正直、ここまで読んでいただけるとは思っていなかったので、
一話一話積み重ねてきたものを、こうして見てもらえているのが本当に嬉しいです。
これからも
笑えて、たまに真面目で、
そして相変わらず「変身が罰ゲーム」な物語を続けていきますので、
引き続きお付き合いいただけたら幸いです。




