女海賊はノックをしない
漁船という名のボロ小舟が沈没し、散々な目に遭いながらも、あたしはようやく奴隷商のアジトへと辿り着いた。
アジトの入り口には数名の見張りが立ち、篝火に照らされた重厚な門がこれ見よがしに閉ざされている。
「さあどうする?スズネ」
肩の上で、アルが面白がっているのが声だけでわかる。
「決まってるでしょ?正面突破よ!」
あたしは不本意極まりないフリル全開の裾を翻し、一歩も引かずに門へと歩み寄った。
いつもなら尻込みするところだけど、魔法少女の理不尽なまでの暴力――
じゃなくて「力」は、すでにある程度理解しているつもりだ。
……そう、イメージすればなんとかなる!
「な、何者だ!?」
慌てて武器を構える見張りたち。
けれど、彼らはすぐに、あたしの姿を二度見、三度見して、そのまま石像のように固まってしまった。
深夜のアジトに、ピンクのミニスカの女海賊が現れたのだ。
困惑するなと言う方が無理がある。
だけど、毎度のことながら、その「……え」みたいな、あからさまに不審者を見るような目はなんなのよ!
この視線に晒されるたび、あたしの女子高生としての心はガリガリと削り取られていく。
(……あーもう!そんなマジマジと見ないでよ!
こっちだって好きでこんなコスプレ紛いの格好してるわけじゃないんだから!!)
羞恥心を振り払うように、あたしは黄金のサーベルステッキを振り抜いた。
ドォォォォォンッ!!
放たれた衝撃波が見張りたちを一瞬で吹き飛ばし、そのままの勢いで巨大な門をも粉砕した。
「Oh.....」
思った以上の威力に、あたしは思わずその場に立ち尽くした。
……まあ、いいか。
わざわざ「ごめんくださーい」なんて言って門を開ける手間が省けたと思えば、むしろ効率的と言えなくもないし。
あたしは自分でも驚くほど乾いた諦観と共に、ゆっくりと一歩、アジトの敷地内へ踏み出した。
「な、何事だッ!?」
アジトに踏み込んだ瞬間、奥の通路から怒号が響き、兵士たちがワラワラと湧き出してきた。
「侵入者だ!」
「囲め!」
数で押せばどうにかなると思っている連中に、深くため息をつく。
この格好を大勢に見られる身にもなってほしいわ。
「ああもう!雑魚に興味はないのよ!」
敵を一網打尽にするイメージを浮かべ、あたしはサーベルを振りかざした。
通路にパステルピンクの暴風が吹き荒れ、屈強な男たちがポップコーンみたいに弾け飛んでいった。
暴風に巻き上げられた男たちは、アジト内の天井や壁に次々と叩きつけられ、抗う術もないまま意識を刈り取られていく。
そこには、あっという間に文字通りの「人の山」が築き上げられていた。
「よし。お掃除完了!」
毎度のキラキラエフェクトが気になるが、だんだん慣れてきている自分に言い聞かせるように、手をぱんぱんとはたいた。
「うぅ……」
あたしは、まだ辛うじて意識のあった一人の胸ぐらを掴み上げる。
「……ねえ。ボスの居場所、どこかしら?」
低い声で凄んだつもりだった。
けれど、アルの魔法のせいで、実際には鈴を転がしたような、透き通った愛らしい声に変換されてしまっている。
凄惨な現場で、甘ったるい少女の声で微笑む「女海賊」。
そりゃ、逆に怖いよね...
「ひ、ヒィィ!助けてくれ!何でも喋る、命だけは……お願いだ……っ!
……ボスの部屋はこの先の分厚い扉の先だ!
あんたの仲間か知らねえが、女と子供がさっきそこに運び込まれた!」
命乞いをする兵士の口から、聞き捨てならない言葉が漏れた。
「っ!人質にしてるってわけね……こうしちゃいられないわ!」
リナとミリィが危ない。それだけで、胸の奥がひどく冷えた。
そして、体は考えるより先に動いていた。
あたしは魔法少女の理不尽な怪力で、兵士の襟首をひっ掴むと、そのまま片手で頭上高く掲げ上げた。
「な、何を……っ!?降ろせ、降ろし――」
「悪いけど、道案内を頼むわよ。
――吹っ飛べえええええっ!《マジカル・ブレット》!!」
バキィィィンッ!!と空気が爆ぜる音が響く。
あたしの手から全力で放り出された兵士は、パステルピンクの魔力を全身に纏いながら回転し、さながら「魔法の弾丸」へと変貌した。
凄まじい風切り音を立てて空を裂き、ど派手なピンクの尾を引きながら、直線距離にあるものをすべてなぎ倒して突き進んでいく。
そして最奥にある、ひときわ豪華で重厚な扉。
超高速で射出された「人間砲弾」が、逃げる暇さえ与えずその中心へと突き刺さった。
ドガァァァァァァァンッ!!!
厚い金属の扉が木っ端微塵に弾け飛び、衝撃波が辺り一面に吹き荒れる。
「ちょっとやりすぎ……!?ねえ、今の死んだんじゃないの!?」
あたしは、自分のしでかした惨状に、引き攣った声を上げた。
『大丈夫だよ。
僕の目が黒いうちは、君に理不尽な人殺しなんてさせないつもりだからさ』
肩の上で、アルがいつもの人を食ったような声で鳴く。
「……よく言うわよ」
あたしは小さく毒づきながらも、心のどこかでホッと胸をなで下ろしていた。
あたしには詳しいことはよく分からない。
けれど、どうやらアルの奴が、魔法で何かしらの延命措置だか安全装置だかを働かせているらしい。
(……なんだかんだ、気を利かせてるのか、それとも単にあたしをこき使いたいだけなのか。
本当、憎めないっていうか、食えない奴)
なんだか無性にムカついたので、あたしは人差し指でアルの小鼻を「ぴしっ」とこづいてやった。
「さあ、ご対面よ!」
あたしは自分を鼓舞するように短く叫んだ。
ミリィとリナを助け出し、このアジトのボスを、あたしの羞恥心の分までまとめてぶっ飛ばす!
かつて扉だったものは、跡形もなく消失していた。
そこにはただ、もうもうと立ち込めるピンクの煙と、あたしの静かな怒りだけが残っていた。
いつもこの作品をお読みいただき、ありがとうございます。
スズネたちのふざけたドタバタ劇を
引き続き楽しんで読んでもらえたら嬉しいです。
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