上陸は、泡と悲鳴とともに
狭い小舟での潜水は、想像を絶する密着状態だった。
息苦しさを堪えながら、あたしはふと浮かんだ疑問を口にする。
「ねえ、これって目的地は設定したけど、今どこを走ってるかとか分からないわよね?」
「お嬢様、ご安心を。現在は予定通りの航路を巡航中でございます」
リナが、密着したまま平然と答える。
「……ってか、リナ。海中で場所なんてわかるの?
窓の外は一面水だし、ソナーとかレーダーとか、そういう探知機もないのよ?」
「ソナー……?レーダー……?
専門用語はわかりかねますが、問題ありませんわ。
潜水開始時からの潮流、速度、および舵を切った角度をすべて脳内で計算しております。
現在、北北西に十五ノットで進行中。目的地まであと三百秒といったところでしょうか」
「なんでわかるのよ!人間探知機かあんたは!」
リナの精密機械っぷりに驚愕している間に、どうやらアジトのある『元宝島』の近くまでたどり着いたらしい。
脳内のアルが、悪だくみをするような声で笑った。
『さて、最後の上陸はド派手にいきたいよね?
ここでアクアシールの「メタモルフォーゼ」機能を使おう。
この小舟を巨大戦艦に変形させて、敵地に真正面から突っ込むんだ!
さあ、変身だスズネ。
そして、この小舟を巨大な戦艦にするイメージで、魔力をシールに流し込むんだ。』
「何その便利機能!
ってか、作戦立てたのに、結局最後は脳筋の正面突破なの!?」
文句を言いながらも、あたしたちは一気に海面へと浮上した。
月明かりに照らされた敵地、宝島のシルエットが目の前に迫る。
あたしは覚悟を決め、忌々しい魔法の合言葉を叫んだ。
――瞬間、視界を覆い尽くす桃色の閃光。
以前、あの忌まわしい変身を遂げた時と同じ、無駄に露出度の高い「海賊風魔法少女」の衣装があたしの体を包んでいく。
ピンクの羽根飾りのついた船長帽に、ド派手な船長マント。
黒とピンクのコルセットに、ティアードのミニスカート。
腰にはハートの宝石のついた黄金のサーベルステッキ。
(やっぱりこの格好、何回着ても羞恥死できるわ……!)
こみ上げる恥ずかしさをヤケクソな魔力に変えて、あたしは小舟へと流し込んだ。
(豪華絢爛、最強のガレオン船をイメージして――)
横でリナが何か言っているが、今は構っていられない。
「さあ、巨大戦艦で乗り込むわよ――っ!」
あたしの叫びと同時に、勇壮な変形音が響き渡り、小舟が巨大な鋼鉄の城へと姿を変える……はずだった。
――バキッ、メキメキメキッ!
「……え、何?この不穏な破壊音は何?」
『あちゃー。
ちょっと元の船がボロすぎて、魔法の急激な変形に構造が耐えられなかったみたいだね』
アルの軽い声と同時に、足元の板が、もとい「建造途中の戦艦」が真っ二つに裂けた。
「お嬢様!計算外です、船体の基礎強度がゴミ同然でしたわ!」
「グハッ!女神様と共に荒波に飲まれる……これぞ、至高の洗礼……ッ!」
「ちょっと二人とも!
呑気に分析したり喜んだりしてんじゃないわよ!泳ぎなさいよバカ!」
リナの冷静すぎる報告、カイルの変態的な歓喜、そしてミリィの切実な悲鳴。
それら全てを飲み込んで、戦艦になり損ねたナニカは、轟音と共に沈んでいく。
「ミリィ!リナ!カイル――っ!」
激しい潮流に飲み込まれ、伸ばしたあたしの手は誰にも届かない。
真っ暗な夜の海の中で、あたしの意識は激しく揺さぶられた。
(……最悪。またこれよ、またあたしの人生はこれなのね……!)
あたしたち『桃色海賊団』は、上陸する前に、早くも壊滅の危機に瀕していた。
◇◇◇
口の中に広がる、ジャリジャリとした不快な砂の感触。
波に揺られ、ゴミ袋か何かのように浜辺に打ち上げられていたあたしは、重い体をどうにか引きずるようにして起き上がった。
「……生きてる、わよね、あたし」
月明かりの下、びしょ濡れになった「海賊魔法少女」の衣装が、ずっしりと重い。
夜の海風が、濡れた肌に容赦なく吹き付けて、羞恥心と寒さのダブルパンチであたしの精神を削りにくる。
「みんなは……リナたちはどこ!?」
必死に周囲を見渡すが、そこには白い砂浜と不気味に揺れるヤシの木があるだけだ。
絶望しかけたあたしの脳内に、呑気な声が響いた。
『大丈夫、みんな無事だよ。気配でわかるからさ』
「……アル!生きてたのね。よかった……本当に、よかったぁ……」
アルの言葉に、全身の力が抜けてその場にへたり込む。
仲間が無事なら、とりあえず最悪の事態は免れた。
けれど、周囲に人の気配は一切ない。
どうやら潮流に流され、バラバラの場所に漂着してしまったようだ。
『どうする?合流を待つかい?』
あたしは立ち上がり、びしょ濡れの海賊コートを力いっぱい絞った。
あたりを見渡せば、島の中央には禍々しいアジトの灯りが不気味に輝いている。
「……いいえ。単独行動になったカイルのことよ、
今頃もう後先考えずに突撃してるかもしれないわ。
それに、リナやミリィがどこかで危険な目に遭ってる可能性だって……」
脳裏に浮かぶのは、暴走気味な仲間たちの顔だ。
正直、あいつらと一緒にいると羞恥心で死にそうになるけれど、一人で平穏無事なのもそれはそれで寝覚めが悪い。
あたしは、ヤケクソに近い決意を胸に、湿った砂を蹴って走り出した。
いつもこの作品をお読みいただき、ありがとうございます。
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あと1話、24話の前書きにもイメージイラストを貼ってみたので、よかったらみてみてください
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※本作の挿絵は、作者がAIイラスト生成ツールを用いて作成したオリジナルイラストです。既存作品・キャラクターを模したものではありません。




