マジカルクリーン大作戦
「イメージよ、イメージ……。
隅々まで、徹底的にピカピカにするイメージ……!」
あたしは自分に言い聞かせるように呟くと、半分ヤケクソで黄金のサーベルステッキを振り抜いた。
直後、先端の宝石から暴力的なまでのピンクの閃光が放たれる。
光は瞬時に収束して実体化し、薄く丸い「光の円盤」へと姿を変えた。
その塊は、目に止まらぬ速さでピンクの軌跡を描きながら、通り道の汚れを根こそぎ消し去っていく。
右へ左へ、壁から床へ。
猛烈な勢いで往復を繰り返すと、数分のうちに地下水路は鏡のように磨き上げられてしまった。
「……地味すぎる。魔法っていうか、ただの自動掃除機じゃない……」
いや、感心してる場合じゃないわ。
床は綺麗になったけど、鼻をつくこの「地下水路特有の臭気」までは消えていない。
あたしは再び、黄金のサーベルステッキを構え直した。
「……床の次は、この空気と水よ。
とにかく、この不快な匂いと濁りを全部消し去るイメージ......」
あたしがステッキを一閃させた瞬間、先端の宝石が脈動するように光り輝いた。
直後、宝石を中心に猛烈な「吸引の渦」が発生した。
狭い水路に澱んでいたドブ臭い汚気が、まるで巨大な掃除機に吸い込まれるようにズズズッ!と光の中に吸い込まれていく。
そして、光の中で「何か」が処理されたかと思った次の瞬間、反対側から驚くほど透き通った空気が爆風となって吹き出した。
「わわっ!?風が強すぎ……っ!」
まさに超高性能な空気清浄機の排気口の前に立たされた気分だ。
凄まじい気流が狭い通路を吹き抜け、あたしのフリフリしたスカートを容赦なく捲り上げる。
「きゃっ!?ちょっと、この風止めて……っ!」
必死に手でスカートを押さえるあたしの横で、なぜかリナが神妙な面持ちで膝をつき、祈るように両手を合わせていた。
「……おお、これぞ浄化の奇跡。
お嬢様の放つ聖なる風に舞う、桃色の聖域……。
このリナ、一生の宝として、この光景を目に焼き付けましたわ」
「あんた、毎回何してんのよ!!」
あたしの怒号も、ゴーゴーと鳴り響く空気清浄の爆風にかき消される。
そうしている間にも、浄化の余波は足元の水路にまで及んでいた。
濁った泥水が光の粒子に触れるたび、不純物が消滅し、一瞬で底まで見通せるほどの透明な水へと書き換えられていく。
爆風が収まったあと、そこには鏡のように磨かれた床と、水晶のような清流、そして肺の奥まで洗われるような完璧な空気が残されていた。
「……地味にハイテクなことになっちゃったわね」
あたしは新品の空気で満たされた地下水路で、捲れたスカートを整えながら、深いため息をついた。
ふと、その透き通った水底で、何かがキラリと反射した。
「ん?あんなところにゴミが。これじゃ『完璧な清掃』にならないじゃない」
あたしはサーベルの先で、その「泥が落ちて不自然に輝きだした古い金属の棒」を拾い上げた。
奇妙な意匠が施されているけれど、今のあたしにはただの掃除の残骸だ。
「はいはい、不燃ゴミね」
あたしはそれを、海賊服の大きなポケットに無造作に放り込んだ。
「……はぁ。やっと、やっと終わったわ。変身解除!」
光と共に、あの重苦しいドレスも帽子も消え去り、あたしはようやくいつもの姿に戻った。
解放感に浸りながら、あたしたちはギルドへの報告を済ませ、宿へと続く細い路地を歩いていた。
だけど、あたしは気づいていなかった。
ギルドでミリィを連れていた姿が、奴隷商の息がかかったものたちの目に「高級な商品」として映ってしまっていたことに。
「おい、止まれ。……そのガキをこっちへ渡してもらおうか」
路地裏の影から、禍々しい殺気を放つ男たちが五人、あたしたちを包囲するように現れた。
「あ……ああ、あのおじさんたち、ミリィを……」
隣で、ミリィの体が恐怖でガタガタと震えだす。
あたしは震える彼女をそっと、けれど力強く抱き寄せた。
「……うちの妹になにか用かしら?」
腕の中のミリィを優しく包み込みながら、あたしは冷ややかな視線で男たちを射抜いた。
その低い声に合わせて、二人の従者が静かに一歩前へ出る。
「リナ、カイル。邪魔よ。片付けて」
「御意」
「はっ!」
それは戦闘と呼べるものでもなかった。
カイルは抜剣すらしない。
鞘に収めたままの剣で男たちの鳩尾を正確に突き、瞬時に三人を悶絶させる。
残る二人が怯んだ隙に、リナが影のように踏み込み、手刀一つで意識を刈り取った。
わずか数秒。
地面に転がる男たちを見下ろしながら、あたしは「さ、帰りましょうか」と歩き出そうとした。
その時。あたしの裾を掴むミリィの手に、指先が白くなるほどの力がこもった。
ミリィは地面に倒れた男たちと、それを一瞬で退けたカイルたちの背中を、何度も交互に見つめていた。
まるで、今見た圧倒的な強さを信じていいのか確かめるみたいに。
「……おねえちゃん」
震える声だった。ミリィは顔を伏せ、必死に言葉を絞り出そうとしていた。
あたしが屈みこんで目線を合わせようとすると、ミリィはバッと顔を上げた。
その大きな瞳からは、溜まっていた涙が溢れ出していた。
「おねえちゃん、お願い……っ!
まだ、あの中に……暗くて、冷たいところに、みんなが残ってるの!」
その必死な瞳を見て、あたしは悟った。
この子は自分だけが助かったことをずっと悔やんでいて、今のカイルたちの強さを見て、ようやく希望を見つけたんだって。
「ミリィのお友達……みんなを、助けて……!
おねえちゃん、お願い!!」
あたしは天を仰いだ。
目立ちたくない。平穏に過ごしたい。大司教から逃げ切りたい。
あたしの脳内にある「安全第一プラン」が、ミリィの涙という決定打によって粉々に砕け散っていく音が、はっきりと聞こえた。
それと同時に沸々と怒りが湧き上がる。
ミリィはもうあたしの妹だ。
妹を泣かせるやつはなんであろうと赦しはしない!
「わかったわ。……やるわよ、リナ、カイル。
あたしたち『桃色海賊団』は、これより奴隷商人から奴隷を開放し、
ミリィの仲間たちを救出する!」
うちの妹を泣かせた奴らに、たっぷり後悔させてやる。
この街のゴミ掃除の始まりよ!
あたしが掲げたのは、誰よりも不本意で、そして誰よりも輝かしい『桃色』の反旗だった。
いつもこの作品をお読みいただき、ありがとうございます。
スズネたちのふざけたドタバタ劇を
引き続き楽しんで読んでもらえたら嬉しいです。
少しでも面白いと思っていただけましたら、
ブックマークや評価【☆☆☆☆☆】で応援していただけると、
作者のモチベーションが魔法のように回復します!




