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異世界★魔法少女― 転生初日に聖女扱いされましたが、変身が罰ゲームすぎます! ―  作者: もりやま みお
第2章 魔法少女は海賊の夢を見るか?【貿易都市ポルターナ編】
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魔法少女は海賊の夢を見るか?

 実際に地下水路の入り口に立った瞬間、あたしは自分の選択を秒で後悔した。


「……っ! うげぇ、何この匂い! 無理、一歩も入りたくないわよ!」

 入り口から漏れ出す、カビと汚泥が混ざり合った悶絶級の激臭。あたしは鼻を押さえて後ずさった。


「ね、ねえアル……。

 ひょっとしてこれ、魔法で浄化すれば一瞬で終わるんじゃない?

  ほら、ここなら誰も見てないし!」


『確かに可能だね。

 変身を繰り返して君の魔力量も増えてるし、浄化なんて楽勝だよ。

 じゃあ、久々に変身してみるかい?

  ミリィはスズネの変身を見るのは初めてだし、きっと喜ぶと思うよ?』

 アルが肩の上で、ニヤリと不敵に笑った。


「お姉ちゃん、変身できるの? すごい、すごい! ミリィ、見たい!」

 ミリィがキラキラした瞳で、あたしの服の裾をぶんぶんと引っ張る。


 その無垢な期待が、今のあたしには何より重い。


「あ、いや、そんなに大層なものじゃないっていうか……」


「久しぶりに女神様の降臨を拝めるのか。

 このカイル、その雄姿を一生の誉れとして眼底に焼き付けましょう」


「ふふ、私も胸が高鳴りますわ。

 スズネ様の清らかな魔力が、この澱んだ空気をどう塗り替えるのか……」


 カイルは聖戦に挑む騎士のごとく跪き、リナはうっとりと両手を頬に当てている。


 ……ちょっと待って。なにこの「伝説の目撃者」みたいな空気。

 たかがドブ掃除よ?


(……なんかガン見されてて、すっごい恥ずかしいんだけど!)


 沈黙。

 期待に満ちた視線が、逃げ場を塞ぐ。


 あたしは助けを求めて肩の毛玉を睨んだが、アルは「さあ、早く。みんな待ってるよ?」とでも言いたげに、ニヤニヤと喉を鳴らしているだけだ。


 ええい、ままよ!

 臭いのも嫌だし、この期待の眼差しに耐え続けるのも限界よ!


「……っ、い、いくわよ! 変身(マジカル)!!!!(トランスフォーム)

 ヤケクソで叫んだ瞬間、地下水路を爆発的なピンクの光が埋め尽くした。


 渦巻く光の粒子があたしの体を包み、服を組み替えていく。


 まず頭上に現れたのは、巨大なピンクの羽根飾りが風に揺れる、贅沢すぎる船長帽。

 背中には、裏地に金糸の刺繍がびっしりと施された、ド派手な船長マントが重厚な音を立てて(ひるがえ)る。


 胸元は、黒とピンクのコントラストが眩しい本格コルセットがキュッと締め上げられ、その下にはフリルが幾重にも重なった、驚くほど短いティアードミニスカート。

 仕上げとばかりに、絶対領域をこれでもかと強調するピンクの編み上げニーハイブーツが脚を包み込み、腰にはハートの宝石が埋め込まれた黄金のサーベルがカチャリと収まった。


 光が収まったあと、そこには「完璧にコンセプト化されたピンクコーデの女海賊」が立っていた。


「…………な、何よこれぇええええ!!」

 あたしは自分の姿を見下ろし、絶叫した。


 海賊。どこからどう見ても海賊。


 しかも、ただの海賊じゃない。

「魔法少女が無理やり海賊のコスプレをさせられた」感1000%の、甘々で派手派手な衣装だ。


「ってかこれ、このための『桃色海賊団(ピンクパイレーツ)』だったのね!?

 あんた、最初からこの格好させるつもりだったでしょ!!」

 顔から火が出るどころか、全身が沸騰しそうなほどの羞恥心。


 あたしは必死に、短すぎるスカートの裾を両手で押さえ込んだ。


 この変身、毛玉がつけた「乱暴な言葉を可愛らしい台詞に自動変換する」なんて余計な機能が備わっているんだけど……今のあたしの怒りは、そんな軟弱なリミッターを余裕でぶち抜いていた。


(悪いけど、今のあたしの羞恥心は魔力の制御すら上書きするのよ!)


『あはははは......。いやあ、素晴らしい。

 ポルターナの伝説と魔法少女の融合、まさに「君だけの新伝説」だ。

 ほら、みんなスズネに拍手を!』


 アルの先導で、三人の拍手が地下水路に鳴り響いた。


 あたしが真っ赤な顔で震える中、真っ先にミリィが声を上げる。


「お、おねえちゃん……すごいっ! ピンクの海賊さん、すっごく可愛くてかっこいいっ!」

 その目は、夜空の星を全部詰め込んだみたいにキラキラと輝いている。


 純粋無垢な大絶賛。


 やめて。それが、今のあたしには一番突き刺さる。

 ミリィの濁りのない瞳で見つめられると、このふざけた格好を否定することすら罪悪感を覚えるじゃない。


「……っ、うう、ありがとうミリィ。でもこれ、ちょっと派手すぎっていうか……」

 あたしが、モジモジしていると、後ろから「……素晴らしい」と呻くような声がした。


 振り返ると、リナが手を地面につけ四つん這いであたしを見上げており、その瞳は獲物を狙う暗殺者のように鋭く、同時に頬は桃色に染まっていた。


「……素晴らしい。

 海賊に扮してドブを清めるという、その倒錯した美学。

 まさに現代の救世主。スズネ様、そのままの角度で三秒停止を。

 この目に、魂に、その勇姿……いえ、その煽情(せんじょう)的な……

 ああっ、お嬢様の絶対領域が黄金比すぎて、目が……!」


「リナ、あんた今『煽情(せんじょう)的』って言ったわよね!?

 ってか下からのアングルで見るのやめてくれる!?」


 鼻息を荒くするメイドを必死に手で制していると、最後の一人カイルが、おもむろに剣を抜き放ち、それを捧げるようにして深々と頭を下げた。

「……スズネ様。その不敵な装い、しかと見届けました」


「カイル……? あんた、どうしたのその深刻な顔」

「……理解いたしました。海賊とは、自由を求め既存の法を打ち破る者。

 つまりスズネ様は、大教会の古き教義を叩き潰すという覚悟を、このお姿で示されたのですね。

 全てはスズネ様の御心のままに!」


「違うから!

 そこまで深い意味、一ミリも込めてないから!ただの毛玉の悪ふざけだから!!」

 全肯定なのに絶望的に話が噛み合わない三人の反応に、あたしは眩暈がした。


『さあ、スズネ。絶賛の嵐を全身に浴びたところで、そろそろお仕事の時間だよ。

 ほら、その黄金のサーベルステッキを抜いて、イメージするんだ。

 一気に浄化しちゃいなよ!』


 肩の上でケタケタ笑うアルに、あたしは涙目でサーベルの柄を握りしめた。

いつもこの作品をお読みいただき、ありがとうございます。


スズネたちのふざけたドタバタ劇を

引き続き楽しんで読んでもらえたら嬉しいです。


少しでも面白いと思っていただけましたら、

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