無自覚な加護と、身に覚えのない奇跡
昨日は丸一日、保護したばかりのミリィちゃんにつきっきりで世話を焼いていた。
深夜、ようやく戻ってきたリナから、例の「奴隷商人」に関する不穏な調査報告を聞き終えると、あたしは糸が切れたように泥のような眠りについた。
「……おはよう、スズネおねえちゃん!」
元気な声とともに、ベッドから勢いよく飛び出してきたのはミリィちゃんだった。
……え、ちょっと待って。
昨日まで栄養失調でガリガリだったし、体中傷だらけだったよね?
なんでそんな、体育の授業前の男子小学生みたいなテンションで走り回ってるの?
「え、ええっ!? ミリィちゃん、もう動いて大丈夫なの!?」
あたしは慌てて彼女を捕まえ、その細い腕をまじまじと見た。
驚いたことに、昨日あれほど酷かった痣や擦り傷、あの忌々しい鉄の首輪が食い込んでいた傷跡までもが、跡形もなく消えていた。
まるで、最高級のエステに一ヶ月通い詰めたあとのような、ツヤツヤのたまご肌に戻っている。
「ミリィちゃん、じゃなくてミリィでいいよ!」
そう言って、ミリィが満面の笑みであたしの腰にぎゅっと抱きついてきた。その体温の温かさに、あたしの心も少しだけ解けていく。
「……わかったよ、ミリィ。元気そうで安心したわ」
あたしは彼女の柔らかい頭を優しく撫でながら、傍らで平然と控えているメイドに視線を向けた。
「すごい……リナ、あんたの持ってきた薬ってそんなに効くの?
現代の製薬会社もびっくりレベルなんだけど」
「ゲンダイ? セイヤクガイシャ……?
すみません、お嬢様が時折口にする単語は難解で分かりかねますが。
私が使ったのは市販の軟膏のみ。
一晩で欠損した皮膚まで完治するなど、医学的にはあり得ませんわ」
リナが真顔で答える。
じゃあ、なんで?
あたしが首を傾げていると、部屋の隅で剣を磨いていたカイルが、自分の肩を回しながら立ち上がった。
「……そういえば、私もだ。
いつの間にか伯爵邸で受けた傷や、これまでの戦いの古傷まで消えている……。
それどころか、今までで一番体が軽い。」
「カイルまで何を言い出すのよ!
ってか、もっと早く気づきなさいよ! 伯爵邸から何日経ってると思ってるのよ!」
あんた、自分の体にもう少し関心を持ちなさいよ。
あたしたちが顔を見合わせていると、肩の上の毛玉――
アルが、わざとらしく「ふふん」と鼻を鳴らした。
『ようやく気づいたのかい?
全員、スズネの「毒」に当てられたんだよ』
「毒って何よ! 人聞きが悪いわね!」
喋る毛玉を初めて目の当たりにしたミリィは、鳩が豆鉄砲を食ったような顔で固まっている。
けれど、その大きな獣耳だけは、アルの言葉を漏らすまいとピクピク動いていた。
『冗談だよ。……いいかい、スズネ。魔法少女の本質は「無限の慈愛」なんだ。
君が心を許した者、守りたいと強く願った対象には、
そばにいるだけで強力な「加護」が与えられるのさ。
能力の底上げ、回復力の上昇。言うなれば――』
アルは一度言葉を切ると、もったいぶるように尻尾をひと振りした。
『リナ、カイル、ミリィの三人は、
スズネの「眷属」になったと言ってもいい』
……はぁ? 慈愛? 加護?
で、けんぞく……????
何そのオカルトな響き!
眷属って、魔王が引き連れてるモンスター的なあれ!?
あたしが呆然としている間にも、カイルとリナは「やはりスズネ様は……」と昨日よりさらに熱量の上がった視線を送ってくるし、ミリィは「おねえちゃん、魔法少女なの!?カッコいい!」とキラキラした瞳で抱きついてくる。
全然、自覚がない。
あたしはカイルとリナには毎日ツッコんでるだけだし、ミリィには早く元気になればいいなって、普通のお姉ちゃんをやってただけなのに。
「そう言えば、スズネ様。
ギルドにパーティー名の登録は既に済ませておきましたが、
ランク維持のため最低でも一つは依頼を受けなければなりません。
ギルド証も発行されているはずですので、
一度、様子を見に行かれてはいかがでしょうか?」
リナが、どこまでも完璧なメイドの所作で提案してきた。
「じゃあ、朝食食べたら、みんなでギルドに行きましょうか!」
あたしの威勢のいい号令に、カイルは「はっ、御意に!」と力強く頷き、ミリィも「うん! おねえちゃんとお出かけ!」と無邪気に拳を突き上げた。
これなら、新天地での「目立たない」平穏な暮らしも順風満帆。
あたしは一人、未来への希望に胸を膨らませる。
だから、あたしが背を向けた一瞬。
背後に控えるリナが、まるで獲物を罠にハメた捕食者のように、うっとりと歪んだ慈しみを宿した笑みを浮かべていたことなど、気づくはずもなかった。
いつもこの作品をお読みいただき、ありがとうございます。
おかげさまで1500PVを突破いたしました!
ほんとうにいつもご愛読いただきありがとうございます。
先日はブックマークを2つ、さらに評価(しかも☆5満点!)もつけていただき、感無量です!
リナ回の後だったのでリナのファン?とか勝手に思ったりしてます(笑)
ここから、2章は盛り上がっていきますので、引き続き楽しんでいただけると嬉しいです。
少しでも面白いと思っていただけましたら、
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作者のモチベーションが魔法のように回復します!




