21 - やっぱりごめんで済ませたい
「あああああああああああああ!!」
深夜の静寂を切り裂く、あたしの絶叫。
時速数百キロ、いやもっと出てるかもしれないパステルカラーの彗星が、懐かしの街並みに向かって一直線に墜落していく。
『スズネ! 見てよ、地上の信仰心が最高潮だよ! みんな夜空を見上げて、君の「聖なる帰還」を涙を流して喜んでる!』
「喜んでるんじゃなくて、怖がってるだけでしょぉぉぉ!! ってか止まって! アル、これどうやって止まるのよ!!」
『止まりたい場所に、心の中で「ただいま!」って強く念じるんだ!』
そんな精神論で止まれるかぁぁぁ!!
眼下には伯爵邸。
そしてその前にある、この街のシンボルである巨大な噴水が迫る。
あたしは必死に目を閉じ、ヤケクソで念じた。
――ただいま! っていうか止まれええええええ!!
ドォォォォォォォン!!
衝撃。
そして、凄まじい水の爆音。
破壊のジェットコースターと化したあたしたちは、街の中央広場の噴水に直撃した。
粉っ端微塵。
それでも勢いは止まらず、今度はスケートのように石畳を削りながら滑走する。
最後は伯爵邸の外壁をぶち抜き、豪華な客間のど真ん中に突っ込んで、ようやく停止した。
…………。
沈黙。
舞い上がる土煙と、遅れて降り注ぐ噴水の水飛沫。
瓦礫の山と化した客間の惨状を前に、あたしは真っ白に燃え尽きていた。
「......こ、これ......ごめんなさいだけじゃ、ダメなやつだよね……?」
舞う埃を払いながら震える声で呟く。
「見事な……突撃でしたわ、スズネ様。街の象徴を消し去ることで、ご自身こそがこの街の新たな象徴であることを誇示されるとは……」
「違うから! ただのブレーキ故障だから!!」
「恥ずかしさに震えるお姿も素敵ですが……」
リナはうっとりと息を吐く。
「ああ……自らの過失で街を蹂躙し、その罪悪感と懺悔に身を震わせるスズネ様……なんと神々しく、美しいことか……」
うっとりと頬を染めて悶えるリナを見て、あたしは天を仰いだ。
「スズネ様、ご安心を。この程度の『聖なる破壊』、私が完璧に隠蔽……いえ、正当化してみせますわ。民草には『旧時代の悪しき噴水を浄化した』とでも刷り込んでおきますので......」
リナ、あたしの苦しむ姿を見て喜んでやがる......。
このどSメイドめ!
ふと見ると、騒ぎを聞きつけた住民たちが、松明を片手に集まってきている。
「……お、おい……女神様だ……」
「……俺たちの噴水、先週塗り直したばっかりだったよな?」
痛い。
住民たちの視線が、物理攻撃より痛い。
そこへ、伯爵邸の奥から弱々しい足取りで伯爵が近づいてくる。
「女神様、これは一体....」
弁解のしようもございません!!
「えっとですね、ヴォルガスをぶっ飛ばしたまでは良かったんだけど……。その、着陸がちょっと、不可抗力というか、物理の限界というか……」
あたしがしどろもどろに言い訳を並べていると、伯爵の背後からもう一人の影が飛び出してきた。
「サクラ様ぁぁぁ!!」
腕に包帯を巻き、片足を引きずるカイルの姿があった。
ただ、その笑顔は、怪我人のものとは思えないほど、どこか危うく輝いていた。
「カ、カイル!? 無事だったのね。ごめんなさい、あなたの主の家をこんなに……」
「何をおっしゃいますか! 見ましたぞ、スズ......いやサクラ様! 夜空に映ったあの勇姿、そして今、この邸宅を粉砕して降臨された圧倒的なお姿……っ! それゆえ私は悟ったのです!」
カイルはあたしの前に到達するなり、迷いなく水浸しの地面に膝をついた。
「私のような汚れし騎士は、あなた様のその聖なる御足の下で、ゴミのように踏まれてこそ幸せなのだと! さあ、遠慮はいりません! 街も屋敷も粉砕したその力で、私を思う存分踏みつけて罰してくださいませ! さあ!!」
えええええええええ!!
爽やかなイケメン騎士が、水溜まりの中で全力で「踏まれたい」と懇願している。
それを見た伯爵が、さらに一歩、弱々しく後ずさった。
「カ、カイル……お前……」
伯爵の目が泳いでいる。
壊れた屋敷と、変態化した忠臣を見つめヘナヘナと崩れ落ちた。
住民の白い目。
ドSなメイド。
ドMと化した騎士。
そして、限界寸前の伯爵。
……気まずい。死ぬほど気まずいわよ、これ!!
おかしい、なんでこうなった?
あたしは街を救った......よね。
あたしは、瓦礫の上で再び天を仰いだ。
今すぐ、収納ブレスレットの中に自分を仕舞って、どこか遠くへ消えてしまいたかった。




