異世界での目覚め 〜魔法少女の取り扱いについて〜
「ここは……」
どうやらあたしは、大きな木にもたれ掛かるようにして眠っていたらしい。
重い瞼をこじ開けて辺りを見渡してみるが、視界に入るのは木、木、そして木。
「まさに森。 ――いや、漢字の成り立ちに感心してる場合じゃない!」
そうだ。
あの訳のわからん神様もどきに、異世界転生とかいうので生き返らせてもらったんだった。
(ということは、ここが異世界?)
とにかく現状確認だ。
間違いないのは、あたしが屋上から落ちて死んだということ。
そして今、知らない場所で森の成り立ちを感心したこと。
スーッと大きく息を吸い込んでみる。
肺に、澄んだ空気が入る。
……よし。
とりあえずは生きてる!
「ふむ」と、立ち上がったあたしの前を、小さな影が横切った。
『おはよう。 よく眠れたかい?』
なんだか聞き覚えのある声の主は、あの時屋上にいた、猫たぬきだった。
「おかげさまで。 あのまま、永遠の眠りにつくところだったけどね」
『ふふ……。 起きてすぐにそんな皮肉が言えるなんて――君、なかなかいい性格してるよ』
あたしは猫たぬきを、キッ、とにらみつけた。
改めて見ると、確かに新種の猫のようなタヌキのような、絶妙にあざとい姿をしている。
黒目がちな瞳に、もふもふの毛並み。
中身はさておき、悔しいけれど見た目だけは愛くるしい。
……ぶん殴る前に、色々と聞き出さなきゃ。
ここは我慢だ。
「ちょっと、あんた何なのよ。 人の話最後まで聞かないわ、勝手に話進めるわ。 そもそも、ここはどこよ? って、聞いてる?」と、マシンガンのようにまくしたて、分かったことは以下の通り。
自称・神様もどきの名前はアルテマ。
全宇宙の思念体だか何だか知らないが、今ここにいるのは実体化させた一部に過ぎないらしい。
おまけに「魔法少女にはペット役が必要でしょ?」とか言って、あたしがこの世界に慣れるまでガイドとして付いてくるという。
まあ、正直言って、ウザさはカンストしている。
けれど、右も左も分からない異世界だ。
話し相手さえいない孤独に耐えられるほど、あたしのメンタルは強くもない。
悔しいけど、背に腹は代えられない。
あたしは溜め息混じりに、この自称・神様ガイドの同行を許可することにした。
ただ、一つだけ条件を出した。
「あんた、さっきアルテマとか言ってたけど、そんな強そうなラスボスみたいな名前、そのタヌキみたいな見た目には不釣り合いすぎない?」
ラスボスみたいな名前で「くぅ~ん」なんて鳴かれても、こっちの調子が狂うだけだ。
「だから、今日からあんたの呼び名はアル。 いいわね? ――短いし、呼びやすいし、なによりあんたの胡散臭さにちょうどいいわ」
『アル、か。シンプルでいいね。 気に入ったよ、鈴音』
アルはそう言って、左右に尻尾を振ってみせた。
そのあざといまでの愛くるしさに、あたしは思わず舌打ちをした。
さて、ここからが本題だ。
あたし、桜井鈴音、18歳。
現役女子高生にして、青春真っ盛りのちょっと可愛いだけの普通の一般人。
そんなあたしが、晴れて無事に、可愛い魔法少女になりました!
って、アホか!
いや、本気でふざけるなと言いたい!
何が悲しくて、選挙権すら手に入れたこの年齢で、魔法少女にならなきゃいけないのよ。
「ねえアル。魔法少女って、もっとこう……小学校低学年とか、せめて中学生くらいまでがやる仕事じゃないの?あたし、もうすぐ高校を卒業するの。来年から大学生よ?」
アルからの返事はなく、あたしの悲痛な声な、皮肉なほどに澄み切った異世界の青空に吸い込まれた。
こうして、あたしは18歳の魔法少女という、ネットの掲示板なら確実に叩かれる設定を押し付けられてしまったのだった。
そして、肝心の見た目だが、変わるのは変身後だけらしい。
鏡がないから確認できないけど、今のあたしは、死ぬ前と何ら変わらないちょっと可愛い姿のままだ。
泣ける……。
とびきりの美少女に生まれ変わって、イケメンに囲まれる「ぐへへな計画」が、開始からたった数分で、ものの見事に崩れ去った。
おまけに、左手には見覚えのないブレスレットがガッチリ装着されていた。
こいつが変身アイテムらしいんだけど、どうやらあたしの体の一部として認識されているらしく、この世界のどんな手段を使っても外せないんだとか。
『耐衝撃、防水、防塵! ドラゴンのブレスでも破壊できない強度だよ!』
アルは通販番組の司会の様な口調で説明する。
「G-SH○CKか!」と、あたしは全力でツッコむ。けど――
え……?
この世界、ドラゴンいるの!?
『このブレスレットは収納機能もあるんだ。 いくつかマジカルグッズを入れておいたから、後で説明するよ。 イメージすれば異空間から出し入れできる、例の四次元のアレみたいなものさ』
さらに追い打ちをかけるような驚愕の事実。
変身前のあたしは、すぐに死なない程度に丈夫にはなっているものの、それ以外のステータスは転生前と何も変わらないらしい。
……これ、完全に異世界転生詐欺じゃないの?
『君は魔法少女なんだから、戦う時は変身すればいいのさ』
アルが、さも当然だと言わんばかりに尻尾を振る。
え、あたし異世界で戦うの?
そんなの初耳なんですけど!?
それからたっぷり時間をかけて、魔法少女(笑)についてのレクチャーを受けた。
……無理。
一回で覚えられるわけがない。
説明書プリーズ!
あたしの暗記力の弱さを舐めないでほしい……。
思わず、天を仰ぐ。
異世界でも、地球と同じように、太陽が燦々と降り注ぎ、穏やかな空に雲がゆっくりと流れている。
あぁ……。
こっちの世界の空も、無駄に綺麗だ……。
あたしが無理やり現実逃避を決め込もうとした、その時だった――
『鈴音、この先で馬車が襲われている!』
アルの声が鋭くなった。
「え? 馬車!? 何も見えないけど……」
キョロキョロ見渡しても、視界にあるのは木だけだ。
『君には見えなくても、僕には感じ取れるのさ!』
なんか誇らしげなアルの顔が、無性にムカつく。
「……で? まさかあたしに助けに行けって言うの?」
『当たり前だろ?君は魔法少女なんだから。さあ、行くよ!』
それだけ言うと、アルはサッと森の奥へと駆け出した。
(誰が魔法少女にしてくれなんて頼んだのよ……!)
「って、ちょっと! 一人にしないでよぉ!」
目に少し涙を浮かべ、仕方なく追いかける。
そんなあたしの足取りは、間違いなく、18年の人生で一番重いものだった。
第2話までお読みいただきありがとうございます。
この穏やかな日常が、あと2話でどう崩壊していくのか。
第4話に待ち受ける「スズネの変身」と、その代償となる凄惨な運命の幕開けを、ぜひ見届けてください。
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