19 - ごめんで済んだら魔法少女はいらない
ドゴォォォォォォォン!!
あたしの絶叫と共に、ヴォルガス邸の堅牢な屋根が、まるでお菓子の家のように木っ端微塵に弾け飛んだ。
パステルカラーの衝撃波が吹き荒れ、あたしたちは豪華な大広間のシャンデリアを粉砕しながら着地する。
……い、生きてる!助かったあああああ......
もう、羞恥心がどうとか言っている余裕はない。
煙の中から立ち上がったあたしは、涙目で、そして恐怖と怒りで全身をわなわなと震わせていた。
「な、なんだ貴様らは! 賊か!? 侵入者か!?」
混乱する館内に、完全武装の私兵たちが次々と集まってくる。
その数、数十人。彼らはあたしの姿を見るなり、一瞬だけ呆気に取られた。
それもそうだろう。
深夜に屋根を突き破って現れたのが、ピンクのツインテールに、フリルだらけのミニスカートを穿いた、露出度過剰な少女なのだから。
どう対応すべきか悩み、困惑する兵士たち。
だが、その上から下まで舐めるような視線があたしに突き刺さる。
「|ちょっと何見てんのよ!!《マジカル・パンチ》」
あたしは近くにいた兵士に、反射的に右のジャブを叩き込んだ。
ドシュッ! という鋭い音と共に、顔を歪めながら派手に吹き飛ぶ兵士。
なんだ、普通に戦うこともできるんじゃん!
拳に確かな手応えを感じ、あたしは光明を見出した。
この理不尽な格好も、戦うための「装備」だと思えば……いや、思いたくないけど、今は背に腹は代えられない!
「よし!いける!アル、リナ、あたしの後に隠れてて!行くよぉぉぉ!!」
あたしは地を蹴った。
魔法少女の身体能力は、もはや人間のそれではない。
瞬時に兵士の懐へ飛び込んだあたしの右拳が、眩い光を放つ。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!」
あたしは義経の八艘飛びのように、跳ねるように左右へ踏み替えながら、確実に、そして致命的な一撃を繰り出していく。
ただ、真面目なあたしの攻撃と裏腹に、なぜか攻撃の度にキラキラとしたエフェクトが周囲に飛び散るのが、気になって仕方がなかった。
(アル! なんなのよ、このこれ見よがしなキラキラは……っ!)
『気に入ってくれた?君の活躍をより華やかにするためのおまけみたいなものさ!』
アルは背筋をピンと伸ばして誇らしげだ。
(気に入る訳ないでしょ!!)
内心で毒づきながらも、あたしは確実に目の前の敵にヒットを重ねる。
……まあ、今のだけで三十コンボってとこかな。
自分らしくない軽快な動きに驚きつつ、あたしは「……少しだけ、魔法少女も悪くないかも」なんて、一瞬でも思ってしまったのだ。
「スズネ様、素敵です……。その、絶望を怒りに変換して八つ当たりするお姿……まさに、踏みにじられる者の痛みを知る真の聖女……っ」
後ろからリナは、頬を紅潮させてあたしを見つめていた。
「もっとです、もっと汚物を見るような目で彼らを蹂躙してください……。ああ、そのスカートのひるがえり、しっかり目に焼き付けましたわ!」
「リナもいい加減にしなさいよぉぉぉ!!」
あたしは最後の私兵を、会心のアッパーで吹き飛ばすと、そのまま奥の執務室の扉を蹴り破った。
バァァァン!!
そこには、高級そうな椅子から転げ落ち、腰を抜かして震え上がるヴォルガス子爵がいた。
「な、なんだお前は!なぜここにいる!!」
「あたしがここにいたらおかしい??」
あたしは、まだパチパチとピンクの放電を繰り返す拳を握り直し、一歩、また一歩とヴォルガスを追い詰める。
「そりゃそうよね。本当だったら今頃、あんたが差し向けた刺客によって、あたしは消されているはずだもんね」
「な、なんのことだ……! 俺は何も知らん! しょ、証拠はあるのか!」
「証拠? そんなの今さら必要ないわ。あとでリナが隅から隅まで探してくれるから」
「……はい、スズネ様。すでに数名、吐きそうな側近を確保しております。じっくり可愛がって書類の在処を吐かせますので、ご安心を」
背後でリナが、暗殺者より恐ろしい笑顔で会釈する。
ちょっと、きみ......有能すぎない?
というか、いつの間に捕まえてたの!?
ヴォルガスはひっと短く悲鳴を上げ、さらに無様に後ずさった。
「ま、待て! 金なら出す! 聖女に認めてもらえるよう、教会にも取り計らおう……。だから頼む、命だけは!」
は? 何言ってんの、こいつ。
さんざん刺客を送っておいて、バレたら金とコネで解決?
カイルにも怪我を負わせておいて....何をふざけたことを......
ごめんで済んだら、警察も魔法少女もいらないんだよ!!
ヴォルガスは視線のやり場に困ったように視線を泳がせながら、必死にあたしの許しを請うているようだった。
……けれど、その視線。泳いでいるわりには、さっきからあたしの胸元とか脚ばかり見てない?
あたしの中で、本日何度目か分からない「何かの糸」が、プツンと切れた。
羞恥心が限界を超えると、人間って逆に冷静に「こいつ殺そう」って思えるのね。
……ああ、もう無理。お母さんごめんなさい。あたし、人を殺しちゃうかもしれません......
「このエロジジイがあああああ!!」
あたしは嫌悪と羞恥を右拳に込め、ヴォルガスの顔面に叩き込んだ。




