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異世界★魔法少女― 転生初日に聖女扱いされましたが、変身が罰ゲームすぎます ―  作者: もりやま みお
第1章 ごめんで済んだら聖女はいらない【ディスカール伯爵領編】
18/21

18 - 聖女の行進

 深夜、伯爵邸の庭園。

 露出度過剰な魔法少女の姿に変身させられたあたしは、怒りで全身を震わせていた。


 あたしの瞳に宿る逆ギレ気味の殺意を見て、肩に乗ったアルが「ニヤリ」とあざ笑う。

『いい意気込みだねスズネ! この間、ヴォルガスにマーキングを施しておいたので居場所はバッチリ。でも、ヴォルガス子爵の領地はここから数十キロ先だよ? 馬車でも丸一日はかかるけど、どうする?』


 ……。

(……え、そうなの?)


 一気に毒気を抜かれたあたしに、アルはもふもふの尻尾をパタパタと振って、不穏な提案を持ちかけた。

『大丈夫! 魔法少女には魔法少女らしい「移動手段」があるんだ。……名付けて、「月の光の道(ルナ・ロード)」!』

(何よそれ。嫌な予感しかしないんだけど......)


『空に魔法で月の光を固めた超高速レーンを作るのさ。スズネはそこを走るだけ! ほら、背中のリボンを見てごらん?』


 言われて背中に手を回すと、オーガンジー素材の特大リボンが、意志を持っているかのようにギチギチと音を立てて広がり始めた。

 それは瞬く間に、透き通った光の翼へと変形していく。


「ちょっと、勝手に広がらないで! 目立ちすぎるでしょこれ!」

『あはは、目立ってナンボだよ! さあ、出発だ!』


 アルの言葉をトリガーにして、足元から爆発的なパステルカラーの魔力が噴き出した。

 あたしの体は砲弾のように夜空へと射出される。

 その刹那、足元の影から伸びた光の触手が、地上で呆然としていたリナを強引に絡めとった。


(ちょ、リナまで連れていく気ぃぃぃ!?)

『一人じゃ寂しいでしょ?ヴォルガスの悪事の証拠を掴むには彼女が必要かと思ってね』


 あたしたちは時速数百キロの猛スピードで「月の光の道(ルナ・ロード)」へと乗り上げる。

 だが、あたしたちの誤算はそれだけではなかった。

 あまりに純度が高すぎる魔力の奔流は、通過する周囲の大気を激しく励起させ、夜空を覆う薄雲を巨大なスクリーンへと変えてしまったのだ。


「……ああ……っ! なんという……なんという『聖域』の輝き……っ!」

 光の泡に包まれて並走するリナが、熱に浮かされたような瞳で空を仰ぐ。


 そこには、風圧に晒され、必死に短いスカートの裾を両手で押さえ、涙目で絶叫するあたしの姿が、巨大なホログラムとして夜空一面に映し出されていた。

 後日聞いた話だと、地上からは実際、あたしが思っているほど大きくも鮮明でもなく、むしろ神々しい「奇跡」として目撃されていたらしい。


「リナ! 見てないで助けてぇぇ! 領地中の人があたしの太ももを凝視してるじゃないのぉぉ!!」


「いいえスズネ様! これはまさに『聖女の行進』として後世に語り継がれる奇跡です。天には巨大なスズネ様、眼前には羞恥に震える実物のスズネ様……。これほどまでに濃密な『聖なる福音』の波状攻撃、一画たりとも逃さず、この魂に刻み込みます!」


「リナぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 あたしの羞恥心ごと、速度は加速していく。


(そういえばこれ?どうやって止まるの??)

 あたしの脳裏をよぎった最悪の予感。


 それを肯定するように、肩の上のアルが、片目をウインクしてみせた。


(バカなの!? 死ぬ! 死ぬわよあたしたちぃぃぃ!!)

 あたしの悲鳴を置き去りにして、眼前に市街地が近づいてくる。


 ヴォルガス子爵領の街なのだろう。

 深夜だというのに、夜空に投影されたあたしの巨大な「羞恥ホログラム」に気づいた人々が、次々と窓を開けて空を仰いでいるのが見える。


「スズネ様! 前方に不浄な気配を放つ巨大な建造物を捕捉しました! あれこそが諸悪の根源、ヴォルガスの居城に違いありません!」

 横を並走するリナが、風圧で髪を振り乱しながらも、獲物を見つけた猛禽のような鋭い眼光で叫ぶ。


「わかってる、わかってるけど止まれないのよぉぉ! どいてぇぇ! 街の人たち、そこをどいてぇぇぇ!!ぎゃあぁぁぁ!!」


 あたしの叫びは空気を震わせ、巨大な残響となって街中に降り注ぐ。

「危ないので今すぐ屋内に避難してください!」


 衝突まで、あと数秒。

 街の灯りが、一斉に息を呑んだように静止した。


 アルが楽しげに声を張り上げた。

  『さあスズネ、ブレーキの代わりに最高の一撃を叩き込むんだ! 右手に力を込めて!』


 あたしがヤケクソで右拳を握りしめた瞬間、拳の周りの空間がパチパチとピンクの放電を始めた。


 さらに加速を増したあたしたちは、一筋のパステルカラーの彗星となり、ヴォルガス邸を目指して、文字通り「物理的に」突っ込む。


止まって(マジカル)ぇぇぇぇぇぇぇぇ(ナックル)!!!!」


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