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異世界★魔法少女― 転生初日に聖女扱いされましたが、変身が罰ゲームすぎます ―  作者: もりやま みお
第1章 ごめんで済んだら聖女はいらない【ディスカール伯爵領編】
17/23

月の光に導かれ

執筆中にブレーカーが落ちたけど中身は無事でした...

よかった...

 あたしの絶叫が響き渡った瞬間、室内の空気が一変した。

 窓から吹き込んでいた血生臭い夜風が、なぜか甘酸っぱいキャンディの香りに上書きされる。


 ちょっと、体が勝手に……

 心の中では全力でブレーキをかけているのに、指先は勝手に空中にハートを描き、光の粉を振りまいていく。

 あたしの「ふざけんな!」という怒声は、空気を震わせるときにはなぜか――。


月の光(ムーンライト)に変わってお仕置きの時間よ!」

 という、脳が溶けそうなほど甘ったるい「魔法少女の声」に強制変換されて屋敷中に響き渡っていた。


「あ、ああ……! 女神様……! 夜の闇を優しく照らす、至高の輝きだ……っ!」

 肩から血を流し、膝をついていたカイルが、その光景を恍惚とした表情で見上げている。


 一方で、背後にいるリナからは、今まで聞いたこともないような「はぁ……っ」という熱っぽい吐息が漏れていた。


「……素晴らしいです、スズネ様。その溢れんばかりの恥じらい……月夜に揺れる乙女の戸惑い……。これこそが私の求めていた『奇跡』の形……」

 リナは頬を赤らめ、うっとりとした手つきで、あたしが宙に浮く姿を指の間から凝視している。

 その瞳は冷徹な侍女のそれではなく、完全に「何か」に目覚めてしまった者の目だ。


 リナ!? あんた、今なんて言った!? ていうか、その目、何なのよぉ!


 あたしの抗議を無視して、光のフリルが幾重にも重なり、新たな衣装が形成されていく。

 だが、その全貌が見えた瞬間、あたしはアルに向かって絶叫した。


(ちょっとアル! なんで今回、こんなに足が出てるのよ! スカート短すぎるし、このガーターベルトみたいなの何よ! 変態!)


 今回の衣装は、前回のフリル地獄とはまたベクトルの違う「辱め」に満ちていた。

 胸元は大胆なハート形にカットされ、あろうことか背中側は腰のあたりまで大きく開いている。

 まるで月明かりを肌で直接受け止めろとでも言うような、心許ないデザインだ。


 何重にも重なったミニスカートの裾からは、一歩踏み出すごとに初雪のように白い太ももが露わになり、そこに食い込む銀のガーターリングが、嫌でも視線を集めてしまう。

 背中には、あたしの体格には不釣り合いなほど巨大な、オーガンジー素材のリボン。

 それが淡い燐光を放ちながら、あたしの意志とは無関係に、まるで蝶の羽のようにピコピコと動いていた。


『えー? 夜は暗いから、これくらい露出があった方が視認性が良くて安全なんだよ。それに似合ってるじゃないか、ムーンライト・サクラちゃん!』

 アルはもふもふの尻尾を振りながら、あざといウインクを返してくる。


 これじゃただの露出狂じゃないのぉぉぉ!!

 あたしが自分の体を抱きしめるようにして震えていると、背後から熱烈な視線が突き刺さった。


「……ああ、スズネ様。背中のラインが、まるで夜空に浮かぶ新月のようです。その……恥じらいに震えるお姿、これこそが真の『聖域』……」

 リナが、これまでにないほど雄弁に、そして情熱的に語りだす。

 彼女の瞳には、あたしを包む光よりももっと、どろりとした熱い輝きが宿っていた。


ああああ(お仕置き執行!)ああ!!!(ムーンライト・)もうやだああ(エクスキュー)あああ(ション)あ!!!」


 あたしの全身から放たれたのは、闇夜をパステルカラーに染め上げる光だった。


 さっきまで殺気を放っていたプロの暗殺者たちが、頬を赤らめ、とろけたような顔をして次々と床に沈んでいく。

 ……それでも、数名は歯を食いしばり、抗っていた。

 だが、次の瞬間、遅れて魔法が追いつく。

 物音ひとつ立てない完璧な無力化。

 静まり返った室内で、あたしはヘナヘナと座り込んでしまった。


「ちょ、ちょっと待って! 今の人たち、バタバタ倒れたけど死んでないわよね!? 大丈夫なの!?」

 慌てて倒れた男の一人に駆け寄ろうとすると、アルがひらりと肩に乗って、能天気にあくびをした。


『心配しすぎだよ。彼らは今、人生で一番幸せな夢を見ているだけさ。心拍数も呼吸も、びっくりするくらい安定してる。……まぁ、魔法が解けるまでは、絶対に起きないけどね』


(本当!? 夢見てるだけ!? あたし、人殺しになってないわよね!?)

『あはは、君は本当に心配性だね。死なせるより、意識を奪って「夢の中」に監禁し続ける方がよっぽど残酷かもしれないのに』

(……さらっと怖いこと言わないでよ!)


 安堵と恐怖が入り混じるあたしを余所に、背後ではリナが震える手で手帳にペンを走らせていた。

「……ムーンライト・エクスキューション……。敵の命を奪わず、精神を永遠のゆりかごへと誘う、残酷なまでの慈愛。……ああ、スズネ様。その透け感のあるレースの裾を揺らしながら放つ一撃、控えめに言って聖域の極みです……」


「リナ!? あんた、さっきから何なのよ! さっさとカイルの手当を手伝いなさいよ!」


 カイルはといえば、肩の傷から血を流しながらも、「私にも、お仕置き……を……」と、暗殺者と同じくらい幸せそうな顔で気絶していた。


「……もう、嫌だ。こんな姿、誰にも見られたくないのに……」

 背中の特大リボンが、あたしの落ち込みに合わせてしおしおと萎れる。

 だが、あたしの中の「怒り」は、まだ消えてはいなかった。


 ……ヴォルガス。あのアホ子爵……。よくもあたしに、こんな格好させて、こんな恥ずかしい台詞言わせてくれたわね……

 スズネの瞳に、暗殺者への恐怖を上回る、ヴォルガスへの「逆ギレ気味の殺意」が宿る。


 あいつの屋敷に殴り込みよ!絶対 逃がさない......

 純度百パーセントの怒りに屋敷の柱がミシミと音を立てた。



第17話をお読みいただき、ありがとうございます。


ここからクライマックスに突入していきます。

引き続き楽しんで読んでもらえたら嬉しいです。


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