15 - 殺しの許可証
夜の闇に沈んだ子爵ヴォルガスの執務室は、冷ややかな高揚感に満ちていた。
卓上で揺れる蝋燭の炎が、届いたばかりの書状を不気味に照らし出している。
教会の紋章が刻まれたその紙には、たった一行、無慈悲な事実が記されていた。
「……『保留』、か。くく、あの老いぼれも、実に食えないことをする」
ヴォルガスは口角を歪め、琥珀色の酒をゆっくりと喉に流し込んだ。
彼の正面には、顔を深いフードで隠した三人の男たちが、気配を消して直立している。
ただの兵士ではない。ヴォルガスが私財を投じ、暗殺ギルドから呼び寄せたその道のプロたちだ。
「聖女とも魔女とも断じず、庇護も与えぬ。それはつまり、あの小娘が今夜この地で無様に首を跳ねられたとしても、教会は『預かり知らぬこと』と平然と白を切るという公式な声明だ」
ヴォルガスはグラスを卓上に叩きつけた。
氷のぶつかる鋭い音が、静まり返った室内に響く。
「教会はメンツを守り、私は目障りな小娘を排除できる。……あの大司教、私に『殺せ』と合図を送ってきたわけだ。この上ない殺しの許可証を添えてな」
彼は立ち上がり、背後の壁に掲げられた領地の地図を指差した。
その先にあるのは、スズネたちの身を寄せる伯爵邸だ。
「よいか。相手は正体不明の術を使う。だが、所詮は年端もいかぬ小娘だ。教会という後ろ盾を失い、恐怖に震えている今こそが好機だ」
ヴォルガスの瞳に、どろりとした憎悪が宿る。
「行け。一人も生かして帰すな。あの小生意気な奇跡ごと、跡形もなく闇に葬り去れ。……死体すら残す必要はない。夜明けと共に、あの小娘が存在した痕跡をこの世から消し去るのだ」
「御意」
フードの男たちが一斉に膝をつき、次の瞬間には影が壁に溶けるようにして姿を消した。
ヴォルガスは再び酒を注ぎ、窓の外、伯爵邸のある方角を見つめて低く笑う。
「……せいぜい、死ぬ間際までキラキラと着飾っているがいい。お前の神話は、今夜ここで終わるのだから」
冷たい風が吹き抜け、蝋燭の火が消えた。
伯爵邸が、ヴォルガスの放った「剥き出しの殺意」に包囲されるまで、もはや一刻の猶予も残されていなかった。




