殺しの許可証
夜の闇に沈んだ子爵ヴォルガスの執務室は、冷ややかな高揚感に満ちていた。
卓上で揺れる蝋燭の炎が、届いたばかりの書状を不気味に照らし出している。
教会の紋章が刻まれたその紙には、たった一行、無慈悲な事実が記されていた。
「……保留か。 くく、あの老いぼれも、実に食えないことをする」
ヴォルガスは口角を歪め、琥珀色の酒をゆっくりと喉に流し込んだ。
彼の正面には、顔を深いフードで隠した三人の男たちが、気配を消して直立している。
ヴォルガスが私財を投じ、暗殺ギルドから呼び寄せたその道のプロたちだ。
「教会はメンツを守り、私は目障りな小娘を排除できる。 ……あの大司教、私に殺せと合図を送ってきたわけだ。 この上ない殺しの許可証を添えてな」
ヴォルガスはグラスを卓上に叩きつけた。
氷のぶつかる鋭い音が、静まり返った室内に響く。
彼は立ち上がり、背後の壁に掲げられた領地の地図を指差した。
その先にあるのは、スズネたちの身を寄せる伯爵邸だ。
「よいか。 相手は正体不明の術を使う。 だが、所詮は小娘だ。教会という後ろ盾を失い、恐怖に震えている今こそが好機だ」
ヴォルガスの瞳に、野望に満ちた憎悪が宿る。
「行け。 一人も生かして帰すな。 あの小娘が存在した痕跡をこの世から消し去るのだ!」
「御意!」
フードの男たちが一斉に膝をつき、次の瞬間には影が壁に溶けるようにして姿を消した。
ヴォルガスは再び酒を注ぎ、窓の外、伯爵邸のある方角を見つめて低く笑う。
「……せいぜい、死ぬ間際までキラキラと着飾っているがいい。 お前の神話は、ここで終わるのだから」
冷たい風が吹き抜け、蝋燭の火が消えた。
伯爵邸が、ヴォルガスの放ったむき出しの殺意に包囲されるまで、もはや一刻の猶予も残されていなかった。
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