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パワハラ領地を任されたので、怒鳴らず仕組みで立て直します 〜元社畜の異世界再建記〜  作者: 神崎ユウト


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第9話 怒鳴らない裁き

 朝、広場に人が集まり始めた。


 俺が呼びかけたわけじゃない。

 命令もしていない。


 ただ、「再建官が役所を開けるらしい」という噂が、

 いつの間にか広がっていただけだ。


 役所の扉は、久しぶりに全開にされていた。

 埃の匂いが、外へ流れ出す。


 俺は、机を一つだけ広場側に運ばせ、

 その上に、昨日集めた書類を並べた。


 「……何だ、これは」


 誰かが呟く。


 俺は、立ったまま、皆の顔を見回した。


 怒鳴らない。

 声を張らない。


 「今日は、確認をします」


 それだけを言った。


 しばらくして、私兵の男たちが現れた。

 三人。昨日と同じ顔ぶれ。


 「おい、何の真似だ」


 一番前の男が、不機嫌そうに言う。


 「確認です」


 俺は、同じ言葉を繰り返した。


 「誰が、何を、どれだけ持っていったのか」


 男は、鼻で笑った。


 「知る必要はねえ」


 俺は、机の上の紙を一枚、持ち上げた。


 「去年の徴税額です」


 そして、もう一枚。


 「同年の作付け面積」


 さらに、もう一枚。


 「修繕費として計上された金額」


 周囲が、ざわつく。


 「この数字は、両立しません」


 俺は、淡々と言った。


 「作れない量の穀物が、取れたことになっている。

 存在しない工事に、金が払われている」


 私兵の男が、舌打ちした。


 「だから何だ」


 「だから――」


 俺は、視線を上げた。


 「説明してください」


 一瞬、沈黙。


 「俺たちは、命令されただけだ」


 男が言う。


 「誰に」


 「……前の旦那にだ」


 「その旦那は、もういません」


 事実を述べる。


 「今、この領地の管理責任は、私にあります」


 俺は、書類を揃えた。


 「そして私は、

 この内容を“そのまま”中央へ提出します」


 空気が、変わった。


 「待て」


 男が一歩、前に出る。


 「話が違う」


 「何が違いますか」


 「内々で済ませる話だろうが」


 俺は、首を横に振った。


 「内々で済ませた結果が、今です」


 その言葉に、誰かが小さく息を呑んだ。


 俺は、新しい書類を一枚、机の上に置いた。


 「それと――昨夜の水路破壊について」


 ざわり、と空気が揺れる。


 「修繕途中の設備を、夜間に破壊。

 これは事故ではありません」


 私兵の男が、強く睨み返してくる。


 「証拠はあるのか」


 「あります」


 俺は、淡々と続けた。


 「壊し方。足跡。

 そして――」


 ダルクが、一歩前に出た。


 「石の外し方だ。素人じゃねえ」


 沈黙。


 逃げ道が、一つずつ消えていく。


 「選んでください」


 俺は、静かに言った。


 「ここで、不正を認めて職を退くか。

 それとも、中央の監査官の前で説明するか」


 私兵の男は、歯を食いしばった。


 周囲の視線が、完全に彼らへ向いている。


 「……クソ」


 吐き捨てるように言い、男は剣を外した。


 地面に落ちる、鈍い音。


 それが、終わりの合図だった。


 他の二人も、無言で剣を置いた。


 誰も拍手はしない。

 歓声もない。


 だが――

 空気が、確実に変わった。


 「本日付で、私兵組織は解散です」


 俺は、淡々と宣言した。


 「以後、暴力による統治は認めません」


 その言葉を聞いて、

 誰かが、泣いた。


 その日の午後、水路を見に行くと、

 人が増えていた。


 指示はしていない。

 だが、皆、黙って動いている。


 ダルクが、隣で言った。


 「……怒鳴らなかったな」


 「はい」


 「それで、勝った」


 俺は、水の流れを見る。


 まだ細い。

 だが、止まらない。


 「まだ、始まったばかりです」


 そう答えると、

 ダルクは、初めてはっきりと笑った。


 夕方、子どもが走ってきた。


 「もう、叩かれない?」


 俺は、少し考えてから答えた。


 「少なくとも、

 叩いたら、終わりだ」


 子どもは、意味を完全には理解していない。

 それでも、安心した顔をした。


 それでいい。


 夜、宿舎で一人になる。


 今日一日を、静かに反芻する。


 怒鳴らなかった。

 殴らなかった。

 でも、逃がさなかった。


 前世では、出来なかったやり方だ。


 俺は、灯りを消す。


 この領地は、まだボロボロだ。

 でも――


 恐怖は、もう主役じゃない。


 信頼は、今日一日で生まれるものじゃない。

 それでも――

 壊す話より、作る話の方が多くなった日だった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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