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パワハラ領地を任されたので、怒鳴らず仕組みで立て直します 〜元社畜の異世界再建記〜  作者: 神崎ユウト


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第8話 恐怖はもういらない

 水路の修繕を始めて、三日目だった。


 完全ではないが、水は安定して流れている。

 畑の土も、昨日より黒さを取り戻していた。


 その変化は、小さい。

 だが、この領地では十分すぎるほど目立つ。


 だから――来るだろうとは思っていた。


 昼前、石を積み直していると、背後から足音がした。

 複数。重い。


 振り返ると、元私兵の男たちが三人、立っていた。


 昨日、兵舎で見た顔だ。


 「おい、再建官」


 一番前の男が、顎をしゃくる。


 「勝手なことしてるらしいな」


 ダルクの動きが、一瞬止まった。


 俺は、手を止めるが、立ち上がらない。


 「領地の設備を確認しています」


 事実だけを言う。


 「修繕だろ」


 男は笑った。


 「誰の許可を取った」


 「必要ですか」


 空気が、ぴりっと張りつめる。


 男は、一歩近づいた。


 「ここじゃあな、俺たちが許可だ」


 ……分かりやすい。


 周囲を見ると、遠巻きに人影がある。

 昨日より、数が多い。


 皆、見ている。

 そして、何も出来ない。


 「水路は、勝手に触るな」


 男が言った。


 「壊れたら、責任取れるのか」


 俺は、ようやく立ち上がった。


 ダルクを、背にかばう位置だ。


 「壊れた原因は、調査中です」


 「は?」


 男が眉をひそめる。


 「直したらいいだろうが」


 「直した“ことにする”のは、もうやめます」


 一瞬、沈黙。


 次の瞬間、男が笑った。


 「……殴られたいのか」


 拳が、わずかに動く。


 その時だった。


 「やめろ」


 低い声が、割って入った。


 中年の男――昨日、少しだけ手伝った住民だ。

 震えながらも、前に出ている。


 「水は、来てる。

 今年、初めてだ」


 私兵の男が、舌打ちした。


 「引っ込んでろ」


 「……殴るなら、俺を殴れ」


 声が、かすれている。


 この瞬間、はっきり分かった。


 ――今までと、違う。


 恐怖はまだある。

 だが、沈黙は崩れ始めている。


 俺は、静かに言った。


 「手は出さないでください」


 私兵の男が、こちらを見る。


 「何だと」


 「今、あなたがここで暴力を振るえば」


 俺は、一歩も引かずに続けた。


 「それは“事故”でも“揉め事”でもありません」


 男たちの表情が、わずかに変わる。


 「証人が、これだけいます」


 周囲の人影を、視線で示す。


 誰も声は出さない。

 だが、逃げもしない。


 「……チッ」


 男は、剣から手を離した。


 「忠告だ。深入りするな」


 それだけ言って、私兵たちは去っていった。


 場に残った空気が、重く沈む。


 誰も、すぐには動けなかった。


 「……すみません」


 中年の男が、俯いて言う。


 「余計なことを……」


 俺は、首を横に振った。


 「いいえ。助かりました」


 その言葉に、男は目を見開いた。


 ダルクが、ぽつりと呟く。


 「……あいつら、焦ってるな」


 「なぜですか」


 「水が来ると、困る」


 短い言葉だったが、重かった。


 その日の夕方、俺は役所に向かった。


 誰も使っていない部屋で、散らばった書類を一枚ずつ拾う。


 古い徴税記録。

 私兵への支払い。

 修繕費として計上された、存在しない工事。


 「……なるほど」


 全部、繋がった。


 恐怖で黙らせ、

 手抜きで誤魔化し、

 金を吸い上げる。


 壊れていたのは、水路だけじゃない。



 その夜だった。


 見回りの途中、ダルクが俺を呼びに来た。


 「……来い」


 水路に近づいた瞬間、嫌な予感がした。


 昼間まで、確かに積み直したはずの石が――ずれている。

 いや、ずらされている。


 崩落じゃない。

 壊し方を、知っている人間の手口だ。


 「……」


 俺は、しゃがみ込み、黙って確認した。


 石の配置。

 外された楔。

 踏み固められたはずの土に残る、複数の足跡。


 ダルクが、低く唸る。


 「夜に来たな」


 「ええ」


 俺は、怒鳴らなかった。

 拳も握らなかった。


 ただ、手帳を取り出し、月明かりの下で書き留める。


 壊された箇所。

 方法。

 時間帯の推定。


 「……直しますか」


 ダルクが言う。


 「明日でいいです」


 即答だった。


 「今は、記録を優先します」


 ダルクが、俺を見る。


 「……怒らないのか」


 「怒っています」


 それだけ答えた。


 そして、続ける。


 「これで、揃いました」


 ダルクは、何も言わなかった。

 だが、その目には、覚悟の色があった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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