表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パワハラ領地を任されたので、怒鳴らず仕組みで立て直します 〜元社畜の異世界再建記〜  作者: 神崎ユウト


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/21

第20話 怒鳴らない再建官(最終話)

 朝の水路は、静かだった。


 流れは一定で、

 音も、色も、以前と変わらない。


 だが、レイには分かる。


 ――もう、止まらない。


 役所へ向かう途中、

 若い役人に呼び止められた。


 中央から来たばかりの男だ。

 少し緊張した顔で、書類を抱えている。


 「再建官殿」


 「はい」


 「この件ですが……」


 書類に目を落とす。


 倉庫の運用変更。

 水路の補修計画。

 畑の作付け調整。


 どれも、

 “誰か一人の判断”ではない。


 「どう判断すればいいでしょうか」


 若い役人の声は、真剣だった。


 以前のレイなら、

 その場で答えていた。


 今は、違う。


 「現場で決めてください」


 男が、目を見開く。


 「……え?」


 「記録を残して、

 関係者で確認して、

 それで進めてください」


 「それでも迷ったら」


 レイは、少しだけ考えてから言った。


 「止めます」


 「決めるんじゃなく、

 止める役です」


 若い役人は、

 何度か瞬きをしてから、深く頷いた。


 「……分かりました」


 その背中を見送りながら、

 レイは小さく息を吐いた。


 いつの間にか、

 自分の役割は変わっていた。


 昼。


 水路のそばで、

 ダルクが石を積んでいる。


 もう急ぐ様子はない。


 「見てたぞ」


 「何をですか」


 「今のやり取り」


 ダルクは、木槌を置いた。


 「いい顔してた」


 「そうですか」


 「怒鳴らない顔だ」


 レイは、苦笑した。


 「怒鳴らなくて済むように、

 やってきただけです」


 「それが、一番難しい」


 ダルクは、そう言って空を見上げる。


 午後。


 広場では、

 水路担当と畑代表が話し合っていた。


 意見は割れている。

 だが、声は荒れていない。


 倉庫番が、帳簿を開く。


 数字は、派手じゃない。

 だが、安定している。


 レイは、少し離れた場所で立ち止まる。


 呼ばれない。


 それが、答えだった。


 夕方。


 役所の机で、

 レイは最後の報告書を書いていた。


 中央宛だ。


 大げさな表現は、使わない。


 改善点。

 未解決の課題。

 次に必要な判断。


 すべて、淡々と。


 書き終えて、ペンを置く。


 窓の外では、

 水が流れている。


 恐怖で止められていた水だ。


 それが今は、

 誰の顔色も見ずに流れている。


 「……十分だな」


 独り言だった。


 夜。


 宿舎へ戻る途中、

 子どもが声をかけてきた。


 「ねえ」


 「はい」


 「ここ、もうこわくない?」


 レイは、すぐには答えなかった。


 怖さは、消えない。

 現実は、甘くない。


 それでも。


 「前よりは、ずっと」


 そう答えると、

 子どもは笑って走っていった。


 翌朝。


 レイは、水路のそばに立つ。


 流れは変わらない。


 だが、

 自分がいなくても、

 ここは回る。


 それでいい。


 怒鳴らなくても、

 殴らなくても、

 誰かを黙らせなくても。


 現場は、立て直せる。


 レイは、背を向けて歩き出した。


 もう、

 前に立つ必要はない。


 止める役として、

 支える役として。


 ――怒鳴らない再建官として。


完結

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


この物語は、

「強い主人公が全部解決する話」ではありません。

怒鳴らず、殴らず、誰かを黙らせることもせず、

それでも現場が少しずつ良くなっていく――

そんな再建の形を書きたいと思って始めました。


主人公のレイは、特別な力を持っていません。

頭が切れるわけでも、カリスマがあるわけでもない。

ただ一つ、

「怒鳴るやり方は、何も残さない」

という実感だけを持っています。


前の世界で、

正論で追い詰められた人。

善意を消耗させられた人。

現場より数字を優先された人。


もし、この物語のどこかで

「分かる」と思ってもらえたなら、

それだけで、この話を書いた意味はありました。


再建は、終わりません。

現場には、いつも新しい問題が生まれます。

だからこそ、

誰か一人が頑張り続ける形ではなく、

人が考え続けられる仕組みが必要だと思っています。


怒鳴らないことは、優しさではありません。

逃げでもありません。

一番、面倒で、時間がかかって、

それでも一番、長く残るやり方です。


この物語は、ここで一区切りとしますが、

もしまた続きを書くことがあれば、

それは「別の試され方」を描く時になると思います。


最後までお付き合いいただき、

本当にありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ