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パワハラ領地を任されたので、怒鳴らず仕組みで立て直します 〜元社畜の異世界再建記〜  作者: 神崎ユウト


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第19話 善意のない相手

 問題は、数字よりも静かにやってきた。


 倉庫番の男が、眉をひそめて報告に来る。


 「……木材が、届いていません」


 「遅れている?」


 「いえ。

 “止められています”」


 その言い方で、察しがついた。


 「誰に」


 「マルコス子爵領です」


 やはり、来たか。


 レイは、すぐに動かなかった。


 怒りもしない。

 使者も出さない。


 「他には」


 「塩もです。

 価格が、三割上がっている」


 物資。

 価格。

 噂。


 やり方が、完全に変わっている。


 ――善意は、最初からない。


 その日の夕方。


 広場に人が集まった。


 レイが呼んだのではない。

 自然に、集まった。


 「どうする?」


 「前みたいに、我慢するか?」


 不安は、ある。

 だが、怯えはない。


 ダルクが、前に出た。


 「確認だ」


 低い声だった。


 「誰か、殴られたか」


 首が、横に振られる。


 「脅されたか」


 また、首が振られる。


 「なら、今までと違う」


 それだけで、空気が変わる。


 倉庫番が言う。


 「代替はある」


 「量は減るが、

 別の商人がいる」


 畑の代表が続ける。


 「塩は、

 しばらく自前で回せる」


 「保存食も、ある」


 完璧じゃない。

 だが、止まらない。


 レイは、口を開いた。


 「正式な手続きを取ろう」


 「交易妨害として、

 記録を残す」


 誰も、異論を唱えない。


 かつてなら、

 “揉め事は避けろ”で終わっていた。


 だが今は、違う。


 「やるべきことを、やる」


 それだけだ。


 三日後。


 中央から、問い合わせが来た。


 「交易の停滞について、

 確認したい」


 レイは、書類を揃えて応じる。


 数字。

 記録。

 経緯。


 感情は、挟まない。


 その二日後。


 マルコス子爵から、使者が来た。


 「誤解があったようだ」


 便利な言葉だ。


 「物資は、通常通り回す」


 条件は、付かない。


 それが、答えだった。


 夜。


 水路のそばで、

 レイとダルクが並んで立つ。


 「……終わりましたね」


 「いや」


 ダルクは、首を横に振った。


 「分かっただけだ」


 「何が」


 「善意がない相手でも、

 殴られずに済む方法がな」


 レイは、水の流れを見る。


 揺れはある。

 だが、止まらない。


 「俺が前に出なくても、

 大丈夫でした」


 ダルクは、鼻で笑った。


 「前に出てたら、

 負けてた」


 その言葉が、静かに刺さる。


 翌朝。


 畑で、子どもたちが走っていた。


 それだけで、十分だった。


 レイは、空を見上げる。


 この領地は、

 もう“守られる側”じゃない。


 試されて、

 耐えた。


 それが、何よりの成果だった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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