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パワハラ領地を任されたので、怒鳴らず仕組みで立て直します 〜元社畜の異世界再建記〜  作者: 神崎ユウト


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第17話 理解できなかった男

 セルグ・ヴァルドールの異動は、正式文書で通達された。


 簡潔な文面だった。


 > 地方監査官補佐 セルグ・ヴァルドール

 > 中央行政局付への配置転換を命ずる


 理由は書かれていない。

 書かれないこと自体が、理由だった。


 役所の応接室で、最後の確認が行われた。


 机を挟み、レイとセルグが向かい合う。

 もう監査という雰囲気ではない。


 「私の評価が、甘かった」


 セルグが、最初に口を開いた。


 声は淡々としているが、

 以前よりも、どこか硬い。


 「あなたを、

 “現場に入り込みすぎる再建官”だと

 判断していました」


 「否定はしません」


 レイは、正直に答えた。


 「最初は、そうでした」


 セルグは、わずかに目を細める。


 「だから、

 型にはめれば是正できると考えた」


 「それが、正しい場合もあります」


 「……ええ」


 セルグは、短く頷いた。


 「ですが、

 あなたは“型”を壊したわけではない」


 「増やしただけだ」


 その言葉には、苛立ちよりも困惑があった。


 「評価項目を増やすことは、

 管理の放棄に近い」


 「そう見えますね」


 レイは、視線を逸らさない。


 「でも、

 減らすと壊れる場所が、確かにありました」


 セルグは、黙り込んだ。


 机の上には、

 例の“現場記録”が置かれている。


 「あなたのやり方は」


 セルグは、ゆっくり言った。


 「中央では、広げられない」


 「分かっています」


 「だが、ここでは機能している」


 矛盾した二つの事実が、並ぶ。


 「……だから、理解できなかった」


 セルグの声は、低かった。


 敗北宣言ではない。

 理解不能の表明だ。


 「あなたは、

 管理対象を“人”として見すぎる」


 「あなたは、

 “制度”として見すぎていました」


 一瞬、空気が張る。


 だが、セルグは否定しなかった。


 「私は、

 間違っていたとは思っていません」


 「ええ」


 「だが、

 あなたが間違っているとも言えない」


 セルグは、立ち上がった。


 「中央では、

 あなたのやり方は評価されないでしょう」


 「承知しています」


 「それでも?」


 レイは、少しだけ考えた。


 「ここでは、

 これが一番、長持ちします」


 セルグは、しばらくレイを見つめた。


 そして、初めてはっきりと笑った。


 「……厄介な再建官だ」


 それは、最大限の賛辞だった。


 別れ際、セルグは扉の前で立ち止まる。


 「一つだけ、忠告を」


 「何でしょう」


 「あなたの仕組みは、

 “善意”が前提だ」


 「それがない相手が来たら、

 通用しない」


 レイは、静かに頷いた。


 「その時は、

 別の仕組みを考えます」


 セルグは、何も言わずに去っていった。


 夕方、水路のそばで、

 ダルクが石を並べていた。


 「行ったか」


 「ええ」


 「分かり合えたか」


 レイは、首を横に振った。


 「分かり合えませんでした」


 ダルクは、鼻で笑う。


 「上等だ」


 水は、安定して流れている。


 誰かが来なくなっても、

 止まらない流れだ。


 「……次はどうなる」


 ダルクが聞く。


 レイは、空を見上げた。


 「次は、

 この領地が“試される”番です」


 守られる段階は、終わった。


 理解されなくても、

 残る形を作った。


 それだけで、

 十分な勝利だった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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