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パワハラ領地を任されたので、怒鳴らず仕組みで立て直します 〜元社畜の異世界再建記〜  作者: 神崎ユウト


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第11話 数字で測れないもの

 週次報告書を提出してから、二日後だった。


 役所に呼ばれ、応接用の机を挟んで、セルグと向かい合う。

 彼の前には、俺がまとめた書類がきれいに揃えられていた。


 「まず、労をねぎらわせてください」


 セルグは、いつもの穏やかな声で言った。


 「この短期間で、これだけの改善を数字に落とし込んだのは立派です」


 褒めている。

 言葉だけを聞けば、何の問題もない。


 だが、視線は書類から離れない。


 「ありがとうございます」


 そう答えながら、胸の奥がわずかに硬くなるのを感じた。


 「ただ」


 来た。


 「いくつか、確認したい点があります」


 セルグは、一枚の紙を指で叩いた。


 「水路の復旧率。

 前週比で、伸びが鈍化していますね」


 「はい。

 現場の判断待ちが増えた影響です」


 「判断待ち、ですか」


 セルグは、眉をひそめるでもなく、淡々と聞き返す。


 「再建官殿が不在の時間が増えた、とも読めます」


 否定できなかった。


 「報告書作成のため、役所にいる時間が増えています」


 「なるほど」


 セルグは頷き、別の項目を見る。


 「住民稼働率。

 数値自体は悪くありません。

 ですが――」


 少しだけ、間が空いた。


 「期待値を下回っています」


 期待値。


 その言葉が、引っかかった。


 「基準は、どこに」


 「他領地の再建事例です」


 即答だった。


 「似た規模の領地では、

 この段階で、もう一段階上の数字が出ています」


 ……似ている?


 ここは、恐怖で縛られていた領地だ。

 人が、人を信じるところからやり直している最中だ。


 同じ基準で測れるはずがない。


 「住民の協力は、確実に増えています」


 俺は、出来るだけ落ち着いて言った。


 「自発的な参加も――」


 「数値に反映されていません」


 セルグは、きっぱりと言った。


 責める口調ではない。

 だが、切り捨てるには十分だった。


 「報告書上では、

 “再建官主導の一時的改善”と読めます」


 胸の奥で、何かが沈む。


 一時的。

 その言葉は、前世でも何度も聞いた。


 「再建官殿の努力を否定するつもりはありません」


 セルグは続ける。


 「ですが、中央が求めているのは、

 “再現性のある成果”です」


 再現性。


 それは、俺自身が大切にしている言葉だ。

 だからこそ、今の言い方が刺さる。


 「現場の変化には、時間が――」


 「時間も、資源です」


 遮られた。


 声は穏やかだが、明確だった。


 「期限付きの再建である以上、

 速度は評価に直結します」


 正論だった。


 反論は出来る。

 だが、通るかどうかは別だ。


 セルグは、書類を閉じた。


 「次の報告では、

 数値の改善を、もう一段階示してください」


 「……承知しました」


 それしか言えなかった。


 応接室を出ると、廊下がやけに長く感じられた。


 外に出ると、ちょうど水路の方から声が聞こえる。

 作業は続いている。

 確かに、止まってはいない。


 だが。


 ――数字では、伝わらない。


 ダルクが、遠くでこちらに気づき、軽く手を上げた。


 俺は、応えることが出来ず、視線を逸らした。


 夜、机に向かい、報告書の修正を始める。


 数字をどう並べれば、

 “正しく見える”のか。


 その考えが、頭を占め始めていることに、

 気づいてしまった。


 「……違うだろ」


 小さく呟く。


 やりたいのは、数字を良く見せることじゃない。

 現場を、良くすることだ。


 それなのに。


 書類の山の向こうに、

 水路の流れが、見えなくなりつつあった。


 セルグの言葉が、静かに残る。


 ――再現性。

 ――速度。

 ――期待値。


 殴られない。

 怒鳴られない。


 だが、間違いなく、

 追い込まれている。


 俺は、ペンを置いた。


 このままでは、

 数字のために、現場を失う。


 それだけは、

 はっきりと分かっていた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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