2/2
氷の公爵との再会
リーナは広間の重たい扉の前に立たされていた。
この館に来てから数時間、何が何だかわからないまま連れてこられたが、やっと面会を許されるのだという。
扉が軋みを上げて開くと、冷たい空気が流れ込んできた。
玉座のような椅子に深く座る男の姿があった。
銀に近い白金の髪と、夜のように暗い瞳。
冷たく無表情なその瞳が、リーナを捉えた瞬間だけ、微かに揺らいだ。
「……リーナ」
その声は、驚くほど優しく、低く響いた。
「あなたは……公爵様?」
彼女が戸惑いの声を上げると、男はゆっくりと立ち上がる。
「久しいな。……ようやく、会えた」
そう言った彼の瞳は、まるで炎のように熱く、リーナに注がれていた。
(この人、私を……知ってる?)
胸の奥がざわめく。
リーナは知らなかった。
目の前の男が、十年前にただ一度出会ったあの少年だということを。
そして、その少年が、彼女のたった一度の優しさを胸に、十年という歳月をかけて彼女を探し続けた男――クラウス=ヴァルデンだということを。
運命が、音を立てて動き出した。