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File.1:千葉県某高校生徒失踪事件

 ー西暦2030年11月15日午前0時34分・千葉県■■■市■■町 千葉県立■■■■高校ー


side.佐野 正樹(民間人・高校生)

 夜の静まり返って明かり一つない学校、いやー!いい雰囲気だ!

 そしてそこに古典的だがトイレの窓を開けておいて侵入!いやはや、古くから続くロマンだ・・・

「よーし、潜入成功だ。よくやったぞ、悟。」

「いうてトイレの窓を開けただけだが。・・・それより英里さん、大丈夫か?」

「い、いや・・・大丈夫だけどさ。ここ男子トイレじゃん?あんまり長居したくないっつうか・・・」

「おっと、それもそうだな。さっさと出るぞ。」

 おっとと、ここにいる5人のうち2人は女子なのを忘れてた。さっさと出ないとな・・・

 そんなことを思いつつ俺・・・いたって普通の男子高校生、佐野正樹は扉を開ける。よしっ、巡回は来てなさそうだ。

「よし、いいぞ。さぁ、早く調べようぜ。期待で身体がうずうずしてんだ。」

「部長は相変わらずですね。怪異に目がない。」

「あったりめぇだ。怪異なんてロマン溢れるもの見なくてどうするってんだ。」

 俺がそう言うと、ここの窓を開けてくれた同学年、そして腐れ縁の男子・・・鎌田 悟以外がため息をつく。

「・・・相変わらず子供だねぇ、正樹。」

「なぁ、英里。そいつは酷くねぇか?」

 そう言ったのは男子トイレに長居したくないって言ってた金髪の女子・・・宮本 英里だ。悟のやつと同じく10年ほど前から付き合いがある腐れ縁だ。

「まぁまぁ。それより部長、早く行きませんか?」

「・・・ほんとに大丈夫かな。なんか、すごく嫌な感じするんだけど・・・」

 次にそう言ったのは一つ下の男子で同じ部の仲間、高石航平と少しばかり特殊・・・んや、俺たちにもしもがあった時の切り札の女子、中村 雪がそれぞれ言う。

 ・・・しかし、そんな中村が嫌な感じと言うのは洒落にならんな。あいつは寺の出だ、霊感持ちな上に簡単な霊術が使える。俺たち”オカルト研究部”の切り札で今までの活動で助けられたことも一度や二度じゃない。危うきに近づくべからず・・・とか言うらしいが、中村は好奇心が強いみたいで割とおてんば娘、とでもいう性格だから俺たちと一緒に色んな怪異を見たり、会ったり、時には戦ったり。そんな奴なわけだが、そんな言葉を聞いたのは始めてだ。

「まぁ、大丈夫じゃない?ほら、さっさと行きましょ。あんまり長居して警備員とか来たら困るし。」

「・・・んー、ま、それもそうだな。とりあえず行こうぜ。とりあえずの目的地は職員室だな、鍵を取ってこねぇと。」

「そうですね・・・今回は”武道館の笑う声”でしたっけ。今までトイレの花子さんとか、動くベートーヴェンの肖像画とか・・・ようやく7つ目の七不思議を見つけたっていうのに、案外つまらなさそうな怪異ですよね・・・」

「おいおい、つまらないなんてこたぁねぇだろ。しかも、これに関しちゃ証人がいた。確実に怪異がいるかもなんだぜ?」

「確実に、かも、は矛盾だぞ、正樹。」

「っるせ!」

 そう、今回に関しては証人がいた。三日前、学校に肝試しで侵入した奴らが誰もいないはずの体育館の中にある武道館の方から笑い声が聞こえたという。そいつらは不気味な笑い声に逃げ帰ったらしいが、それを聞いた俺たちは色々過去の記録やらを漁り、人生の大先輩方にインタビューした所、50年ほど前はこの高校に武道館に関する怪異があったらしいのだ。

「しっかし、鍵なんて盗んで大丈夫なんですか?」

「ま、朝までに返せば大丈夫だろ。」

 そんなことを話しつつ懐中電灯をつけて、職員室へ歩く。

 さーて、探検の始まりだ!


 それから職員室で鍵を回収して体育館の鍵を開けて、中に入ったのだが・・・

「・・・なにか、聞こえるか?」

「・・・いや、なにも聞こえないわね。」

「同じくです・・・部長、あの話ほんとなんですか?」

 なにも、聞こえないな・・・何故だ?

「いえ、私には聞こえます。・・・これは、泣き声?いや、笑い声?・・・それより、なに?この濃すぎる邪気・・・」

「同じく、聞こえるな。・・・なぁ、正樹。とんでもなく嫌な空気がする。なんとなくだが、この前の廃寺以上にやばい感じがするぞ。」

 どうやら俺、英里、高石にはなんも聞こえてないが、悟には聞こえてるし中村は邪気?とかいうのが見えてるらしい。

「なぁ中村、邪気・・・ってなんだ。」

「霊能者にしか見えない穢れです。この空間は邪気が充満してる・・・下手に悪霊が取り憑いた程度じゃ、こうはなりません。このレベルだと悪霊ではなく・・・もはや妖怪、いや、大化生がいてもおかしくは・・・」

 そう邪気の説明をしつつ中村がポーチから数珠を取り出す。あれは・・・たしか中村の破魔道具だ。そして、それを取り出すということは・・・

「進みますか?帰りますか?・・・まだ、決められます。」

 進むか、逃げるか。普通なら逃げるべきだ。間違いない。だが・・・

「・・・進むぞ。そんなに危険なのだとしたら、俺たちだけの問題じゃねぇ。この学校に通ってる全員が危ねえだろ。そして、証拠がなきゃ警察も動いてくれねぇ。・・・俺たちが、証拠を撮るんだ。そのための、オカルト研究部だ。」

「・・・ま、お前ならそう言うか。嫌な予感しかしないが、付き合うぞ。」

「そだね。ここまで来たら当たって砕けるだけよ。」

「えぇ、オカルト研究部の存在意義を示してやりましょう!」

「はぁ・・・ま、そうなりますよね。わかりました。護衛は任せてください。一度、天狗とやりやったことはあります。大化生相手でも時間稼ぎくらいはやりますよ。」

 よし、俺たちの心は一つだ。

「よし、行くぞ。」

 俺たちは歩みを進めだした・・・


side.宮本 英里(民間人・高校生)

「はぁ、はぁ、はぁ・・・うぐっ・・・うぅ・・・」

 どーして!どーして!こんなことに・・・

 私は走る。この高校から500mもいかない位置に警察署がある。そして、あそこは数人だけど、怪異対策のための警察官の人達がいる警察署!

 後ろは、怖くて振り返れない。

 後ろからなにかが追いかけてきている気がする。・・・嫌だ、正樹たちの犠牲を無駄にしちゃいけない!

 口の中が血の味がする。急げ!急げ!

 私は目の前に見えてきた光の中に飛び込む。警察署が、自動ドアで良かった。もう、疲れた・・・

「ん?君、どうしたんだい、こんな時間に?」

「あ、の・・・ケホッ、ケホッ・・・う・・・」

 あ、駄目だ・・・立ってられない・・・足が、震える。

「ちょ、大丈夫かい?!こちら加藤!女の子が飛び込んできて倒れました!誰か寄越してくれ!」

「うっ・・・うぅ・・・」

 話さなきゃなのに、声が出ない。涙が溢れてくる。

「落ち着いて、深呼吸するんだ。ほら、落ち着いて・・・」

「あ、の・・・うっ、あの・・・」

「どうしたんだい。一体、なにがあったんだ?」

「あの、怪異・・・が。」

「え?」

「怪異が・・・いたん、です!」

 私の声が、警察署の窓口に響いた。


 ー西暦2030年11月15日午前9時30分・千葉県千葉市中央区 千葉中央警察署ー


side.Non

 ここは千葉県警の中枢たる千葉中央警察署。そんな警察署の一室にて十数名の警察官が集まっていた。

「皆、落ち着け・・・静かにしてくれ!よし、状況を伝えるぞ。」

 そして、会議室に映されたプロジェクターの画面の前に立つ男がそう言うと警察官たちが男の方をみる。

「事件発生だ。そして、君たちが招集された理由は分かるだろう。」

「・・・俺たち怪異対策部、それも第一課が呼ばれたのは、そういうことですかな?郷田警視正?」

「うむ。そういうことだ、羽川警部。」

 そう言葉を交わしたのは千葉県警怪異対策部部長の郷田勝斗警視正、同じく千葉県警中央警察署怪異対策部第一課・課長羽川翔斗警部である。

 二人は同郷であり、階級差を感じさせないほど仲も良いのだがそのような関係を一切感じさせないほど彼らの言葉には冷たく、緊張の糸が張り詰めていた。

「今から約8時間前、駆け込み通報があった。高校にて、怪異が現れたとな。」

「高校・・・?」

「おいおい・・・冗談でしょう?高校は建設時に地質調査とかの時に怪異存在も含め調査するはずでしょう?」

「残念ながら冗談ではない。あの高校は建立200年は立っている。調査されなかったか、はたまた・・・まぁそれはさておき、既に調査課を招集し調査を終えているレベルで捜査は進んでいる。・・・本格的に説明を始めようか。」

 郷田警視正の言葉に千葉県警における対怪異戦闘を担っている第一課の刑事(ツワモノ)たちの顔が一気に緊張する。

「事件発生はおおよそだが、本日の午前1時。事件現場となった高校のオカルト研究部とかいう部活のメンバーが、深夜に同高校に忍び込み、なにやら”武道館の笑う声”とかいう噂を調べに行った。」

「その結果、悪意ある怪異に返り討ちにされたと?」

「まぁ、そんなところだろう。被害者はこの四人だ。」

 そう言うと郷田警視正はプロジェクターに四人の写真を映し出す。

「まず左上からオカルト研究部の部長をしていたという佐野正樹くん18歳、次にその幼なじみの鎌田悟くん18歳、研究部に所属しているという高石航平くん16歳、そして・・・この高校の近くの寺の住職を代々務めている中村家の1人娘、中村雪さん17歳だ。」

「おい、それこそ冗談だろ。中村家の坊さんの娘さんっていえばあの地域の名家の一つじゃねぇか。噂じゃ警視庁の怪異対策部第二課すら楽々務まる霊能力者と聞いているぞ。」

「残念ながら、これも確認の取れている事実だ。捜査は覚悟をしといた方がいいかもな。」

「そういうレベルじゃねぇでしょう?東京の第二課っていえば霊能力は必須、ある程度怪異戦闘をまともに出来なければ第三課に降ろされるような部署だ。千葉県警(うち)の第一課とほぼ変わらない。俺たちじゃ最悪ボコボコにされて終わるぞ。」

「そうですよ!流石に俺たちだけじゃ・・・」

「・・・同感だな、郷田。流石に無茶が過ぎるぞ。」

 この会議室にいる刑事たちが口々に小さな文句を言いつつ、最後に羽川警部が郷田警視正に”考えなしではないだろうな?”という視線を送りつつそう言うと、郷田警視正は小さく頷く。

「安心しろ、対応済みだ。警視庁の怪異対策部第一課に応援要請をした。」

「で、その要請は受け入れられたんでしょうね?」

「あぁ。状況を説明したら重大事案の可能性ありとして第一課のホープを送ってくれるらしい。到着は今日の夜か明日の予定だ。」

「ホープ?期待の新入りってことですか?」

 その1人の刑事の声に集まっている怪異対策課の刑事たちが不安げな顔を見合わせる。それを気付かないふりをしつつ郷田警視正が声を出す。

「らしいな。今年4月に第一課へ異動したらしい。」

「異動?警視庁の第一課にか?」

「あぁ、元々怪異対策部には居たらしいが・・・色々あってデスクメインの境界課から警察官に任官されて1年で第一課に異動になったらしい。」

「そりゃまた異例の・・・まて、任官されてから1年?」

「うむ・・・1年らしい。」

 羽川警部の問に郷田警視正がそう答えた、その声に会議室内が静まり返り、刑事たちの不安げな表情がさらに濃くなる。

「・・・なぁ郷田。一つだけいいか?」

「どうした、羽川。」

「そいつは今何歳だ?」

「・・・いいことを教えてやる、羽川。ここだけの話だが応援で寄越されるのは・・・」

 それからどこか呆れたような、それでいてどこか不安のような、色んな感情が混ざったようなため息を吐いた後に郷田警視正が吐き出す。

「・・・18の少年だ。」

 そう言ってプロジェクターと繋がっているパソコンを郷田警視正が操作すると、1枚の写真と人事書類が映し出される。

 そこにはこの会議室にいる人間より圧倒的に若い顔と、飛び級を繰り返してきた異色の経歴が文字列として表示される。それを見た刑事たちの胸に一抹の不安が過る一方で、郷田警視正が頭を掻く。

「まぁ、安心しろ。警視庁の怪異対策部、それも第一課にいるってことは、そういうことだろ。さ、俺たちは俺たちで捜査を始めるぞ。まずは現場の捜査からだ。徹底的に調べ上げるぞ。行方不明者、それも子供が四人もいるんだ。やれることはやろう・・・さぁ、仕事を始めるぞ!」


 ー西暦2030年11月15日午後4時20分・千葉県千葉市中央区 千葉みなと駅ー


side.???(???・???)

 東京駅から揺られてくること1時間。上から千葉県警の怪異対策部から緊急応援要請とのことで急いでやって来たのは千葉県の中央区、そこにある千葉みなと駅。

 新港・中央港方面出口から出ると海が見える、良い駅だ。

 僕の出身は山だから海を見ると今も少し気分が高揚する。・・・まぁ、僕の横にいる少女たちも嬉しそうだし、少しばかり海を眺めてるくらいは良いかな?ホントなら早めに中央警察署に行ったほうが良いのだろうけど。

「少しだけ、散歩でもしていこうか。・・・いいかな?」

(わらわ)は良いが・・・仕事で来たのじゃろう、良いのか?」

「いいんじゃないですか?ホントならもう少し遅く着く予定だったんだしさ、ね!薫!」

 全く・・・というほどでもないかもしれないけど逆のことを言った、僕の左右に立つ2人の少女の言葉が少しだけ面白く思えて思わず笑みがこぼれる。

「ふふっ・・・そうだね、じゃあ少しだけ歩こうかな。」

 僕は腰に差した二本の刀を確認しつつ、歩き出した。


 それから夕日が眩しい海辺を散策してから千葉県警、その本丸たる千葉中央警察署に入った・・・のだけど。

「ね、ねぇあれ・・・」

「あの刀、本物なのかな・・・?」

「テレビの撮影じゃないの?」

「でもあんな俳優さん見たことないよ・・・?誰なんだろう?」

 ・・・やはり周りの目線が痛い。ま、そりゃそうだよな・・・二日前に出張終わったばっかりで出勤予定じゃなかったから警察手帳は持ってるけど、私服だし・・・だけど刀は持ってるからな・・・はぁ、クリーニング出すんじゃなかったな・・・

「き、君!ここでなにしてるんだい!それ、本物じゃないだろうね・・・」

 そんなことを思っていると窓口の近くに居た警官の一人が叫んだのが聞こえる。・・・僕のことだよな、多分。

「大丈夫です、僕は・・・」

「止まりなさい!それからその腰の刀を下に置いて!こちら金田、入り口に刀を持った少年が・・・」

 おいおい・・・嘘だろ?

 あぁもう、気づいたら警官たちが集まってきてるし。

 相手も話を聞いてくれる感じじゃないし・・・その一方でどうしようか悩んでいる内に僕の左に立っている、所々に赤色の混じる短めの金髪が目立つ少女が数枚の椛の葉を取り出す。

「ねぇ薫、こいつら燃やしてもいい?」

「流石に駄目だよ、紅葉(クレハ)・・・瑠璃(ルリ)、刀は抜いちゃ駄目。」

 目から見て明らかに怒ってる少女・・・紅葉(クレハ)を軽く宥めてから右を見ると、ほぼ銀髪のような淡い青色の長髪、そしてその中にインナーカラーや、ポイントカラーのように混じる透き通った濃い瑠璃色が目を引く少女・・・瑠璃(ルリ)が彼女が持つ刀を抜刀しようとしていた。危ない、気づいてよかった。

 流石に2人とも目立ちすぎるから、軽く術で髪色とかを隠蔽してるとはいえ・・・刀とかは隠せないから、霊術使って刀を抜刀されると隠しきれないだろうからな・・・本当に、よかった。

 とはいえ、どうしたもんか・・・

「む、なんの騒ぎだこれは。」

「羽川警部!それが、先ほど帯刀した少年と少女が・・・」

 そんなことを考えてる内に後ろから誰か来たらしい。あーもう、どんどん面倒なことに・・・

「・・・まて、その顔に、刀。君、もしかして桜乃くんか?」

 ん?僕のことを知ってる・・・ってことは。ま、そういうことだよな。

 僕はそう判断して敬礼して名乗る。それから、空いてる左手で胸ポケットの警察手帳を取り出して開く。

「はい。警視庁怪異対策部第一課から派遣されてきました。桜乃薫警部補、ただいま到着しました。緊急の出動であったため私服ですがお許しください。」

「やはりか!よく来てくれた!」

「・・・ねぇ、あなた。」

 僕、桜乃薫が名乗ると、後ろから来た彼・・・多分、さっき話していた感じからして、ここに来る前の話で聞いていた羽川警部かな?・・・と思われる人が名乗ろうとすると紅葉が声を上げる。・・・やばいなぁ、この冷たい感じの声は怒ってる。

「随分な歓迎じゃなかった?どういうつもりなの?」

「・・・あぁ、すまなかった。少し忙しくてな。」

「はぁ・・・?」

 あぁー・・・まっずいなこれ。瑠璃はもっとだけど紅葉を怒らせるのも・・・非常にまずい。

 というか軽い怒りの沸点はとうに超えてるらしい。若干、神威か霊力が固まったものが火花のように紅葉の周りにパチパチと舞っている。小さいし、ほぼ目立っていないのが幸いだけど・・・

 それに瑠璃の方もやばそうだ。カチッ、っと刀に手をかける音が聞こえる。

「紅葉、大丈夫だから。」

「でもさ・・・!」

「と、いうよりも桜乃警部補。そこの・・・霊術を使っている、目立つお嬢さん御二方はどなたですか?同伴者が来るのは聞いておりませんが。」

 え?聞いてないのか?

 おかしいな、瑠璃と紅葉のことは僕の人事書類と一緒に送られるはずでは・・・さては送り忘れたか?

 ・・・というより、瑠璃たちを、多分霊術破って見れるぐらいはちゃんと霊力を持ってるだろうにお嬢さん呼ばわりって・・・どうなっても知らないぞ。

「・・・ここでは、少し人が多すぎるので、少々問題が・・・。それと、事件概要を聞かないまま来ましたので、ついでに説明を頂けるとありがたいです。」

「・・・了解した。桜乃警部補、ついてきてくれ。それと、各員持ち場に戻れ。」

 羽川警部だと思われる人がそう言うと部下を連れて、僕らを追い抜いて歩き出し、僕らを取り囲もうとしていた警察官たちは散り散りになって元いた場所に戻っていく。まだどこか訝しげな目を向けられてはいるが・・・まぁ、いいか。それよりも不機嫌になった瑠璃と紅葉が怖い。・・・ここの人達が叩っ斬られたり燃やされないことを祈ろう。なによりも呪われないことを・・・。


 それから少し歩いて会議室、扉の横に”■■■■高校・高校生失踪事件捜査本部”と書かれている部屋に入る。

 中に入るとパソコンを触っている人や、恐らく捜査結果の報告をしてる人たちがいた。・・・それも、僕の前にいる人達がプロジェクターのスクリーン前に着くまでだったが。

「第一課、今戻った。それと、やっと応援が来てくれたぞ。今後の捜査予定を決める、各員席に着け!桜乃くんはそこに座ってくれ。」

 相変わらず自己紹介すらしてくれてないので確定してないけど、恐らく羽川警部と思われる人がそう言うとここにいる警官全員が席に着く。多分、彼がこの事件捜査の陣頭指揮を執っているのだろうか。

 とりあえず僕は指定された席に着く。たまたまなのか左右の席が空いていたから瑠璃と紅葉がそれぞれ座る。

「・・・そういえば自己紹介を忘れていたな。桜乃くん、自分は羽川翔斗という。千葉県警中央警察署の怪異対策部第一課、その課長を務めている。」

 やっぱりあの人は羽川警部であっていたらしい。

「ついでだ。ここでこの捜査をする面々の顔合わせと行こうか。桜乃くん、自己紹介をお願いしていいかな?そこのお嬢さん御二方を含めてね。」

「・・・了解しました。」

 なーんか、子供扱いされてる気がするし若干舐められてるような気がしないでもない。君呼びだし。それに、ここにいる千葉県警怪異対策部の人達の何人かは明らかに侮りが目に浮かんでる気がする。・・・嫌な目だ、あの人達みたいな・・・

 とりあえず気にしないことにして立ち上がる。・・・少し、驚かしてやろうかな。

「警視庁怪異対策部第一課・特別捜査班”旭”所属、桜乃薫警部補です。微力ながら、捜査に加わらせて頂きます。よろしくお願いします。」

「え・・・?」

「お、おい、”旭”って・・・」

「あ、”旭”?嘘だろ・・・」

 ・・・うん、予想通り刑事たちの顔が驚愕に染まってる。まぁそりゃそうだよな。

 ー特別捜査班”旭”

 この特捜班を知らない人は怪異捜査をしている以上、ここにはいないだろう。ただえさえでも人数の少ない警視庁怪異対策部第一課の中でも、更に怪異の捜査ではなく”討滅”に特化した刑事を集めた特捜班、それが”旭”だ。

 まぁ、色々あってそんなところに僕は所属している。普段はタッグを組んでいる先輩曰く、”君みたいに若くて、しかもほぼ純粋な人間で、しかもしかも境界課から旭に直接来たのは見たこと無いよ〜”とのことで、まぁ相当な異例なのだろうが。

「恐らく人事書類が送られているはずなのでご存じかと思いますが・・・念の為に。僕の討滅具を申告しておきます。」

 討滅具・・・要は怪異と戦うための武器。刀や鉈、槍、弓、妖術や霊術を使うための札や媒介物がこれにあたる。怪異対策部の警官は警察手帳を持っていて警官であることを証明できる時に限りだが、普通なら銃刀法に違反するこれらの携帯が許可されている。

 そして、討滅具の共有は捜査の時には必須だ。お互いの対怪異戦闘する時の隙を埋めたりする戦略的・戦術的行動のためには使う武器の共有が必要なのだ。・・・それに一課の、それも旭の捜査員は破壊力の高い武具や術を使うことが多いので仲間を殺さないためにも、ね。

「討滅具は刀二本。1本は”妖刀・冰桜”、もう1本は”銘刀・紅桜”です。それと冰桜を媒介に霊術も使いますので、射線上・・・僕の前に立たないようにお願いします。」

 僕がそう言う頃には・・・大丈夫かな、ちゃんと話が聞こえてるか微妙なんだけど。まぁ、いいや。

「それと、ついで2人・・・いや、2柱(ふたはしら)を紹介させてもらいます。」

 そう言うと僕の両端にいる瑠璃と紅葉が何も言わずとも静かに立ち上がってくれる。そして・・・

 瑠璃は小さくとも目立つ、枝分かれした龍の角と、その髪色と目を除けば、普通の少女の見た目にそぐわぬ大きな鱗尾を。

 紅葉は小柄な体躯に反して大きな狐の、彼女の髪色と同じ毛色の耳と尾を。

 それぞれヴェールを剥がすように現す。

 刑事たちがお互いに顔を合わせ、小声で話し出す。・・・そう、彼女たちは人ではない。

「伊吹の水神”伊吹瑞(イブキミナモ)源主姫(トヌシノヒメ)”、天狐”紅葉(モミジ)狐姫(ギツネノヒメ)”・・・彼女らの意向で瑠璃(ルリ)紅葉(クレハ)と呼ばせていただいていますが・・・お気をつけを。」

 そう、神々との関わり方は・・・気をつけたほうが良い。彼女らは機嫌一つで人を祟ることができる。そして、逆に護ることも・・・

そんなことを思う一方で夕日差し込む会議室にいる刑事たちは、もはや一言も発さず動かなくなっていた。


あとがきを使った用語紹介


・怪異対策部

この世界において怪異の蒐集管理を行なっている警察組織。元は警察ではなく軍直下に”大日本帝國怪異蒐集機構”が存在していたがWW2敗戦後解体され、怪異がGHQ管理下になったものの日本独自の怪異が多く、米軍の力で怪異を管理しきれなくなったGHQが日本に怪異技術を即座に軍事に転用させないように警察予備隊ではなく警察組織に直結した回収管理機関”怪異収集局”を発足させたことを始まりとする組織である。

現在は怪異対策部と改名し、封じ込めを担当する捜査一課から三課、偵察調査を担当する調査課、怪異の収集する回収課、神域を保護することを目的とする境界課、大学院などと共同で怪異技術の研究を行なっている解析課などの複数の課を有している。


・特別捜査班(通称・特捜班)

主に怪異対策部にて発足されている小組織。怪異の討滅や封印などに特化させた警官、捜査員を集めている。中でも討滅に特化した特捜班”旭”(東京都)、特捜班”百舌”(大阪府)、特捜班”月明”(福岡県)、特捜班”五稜星”(北海道)の4班が怪異討滅の切り札として知られている。

中でも”旭”は警視庁に配置されているだけあり、精鋭が集められているため討滅特化の特捜班の中でも特に怪異捜査の成功率が高く各地に派遣されることも多い。


・邪気

霊感のある人や霊能者が見る穢れ。悪意ある怪異や霊能者が多く放ち、危険な大化生や妖などがいる地域には邪気が濃く存在する。なお、これが濃い地域では濃縮され、一般人でも”瘴気”という形で目に見えるようになる。

この邪気や瘴気に当てられると神や妖が堕落したり、凶暴になるという結果を招くので、気をつけなければならない。


ここからは現実にもある(多分)言葉ですが、この世界での扱いや解釈です


大化生(ダイケショウ)

通常の妖怪よりも霊力が強い危険な妖怪のことを指す。とはいえ敵対的とは限らない、ということには気をつけるべきである。しかし一度敵対すれば凶悪な怪異であることは気をつけるべきであろう。


・飛び級

読んで字の如く。この世界においては日本にも飛び級制が取り入れられている。理由としては怪異の影響で思考能力や知識、知恵や肉体的に優れている人間が少なからずいるため、そんな彼らを活かすために飛び級制が取り入れられている。


・○柱

神様の数え方。神様は○人ではなく、はしら、で数えます。

現実もそうなのでぜひ覚えておきましょう。


・水神

水に関するもの、例えば池や川、海など水を司っている神のこと。本作においては神の中でも記紀神話(古事記・日本書紀)の神々に次ぎ、山神と並ぶ強力な神である。なお、山神も、であるが堕落し、人を襲うようになった場合非常に危険である。


天狐(テンコ)

現実では天に住む霊狐、霊力を持つ狐を指す。本作では霊力を持ち、神格化した妖狐のことを指す。例えば紅葉狐姫はとある地域で土地神となった神格妖狐である。

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