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大学病院に行く

作者: まこも

私が目の手術を受けたのは大きな大学病院だった。

2歳にもなってなかったので、入院当時の記憶は全くない。


中学生になる頃まで、経過観察のため半年に1度くらいの頻度で母に連れられて通院していた。

その大学病院のある土地までは家の近くの地元駅から列車で2時間くらい。

当時は電車など走っていなかった。もちろん今も走っていない。

その頃の私は車酔いが酷かった。

バスに乗ればもう少し早く行くことができるけど、長時間となると酔ってしまう。

なので、比較的マシだった列車の鈍行に揺られて病院通いをしていた。

通院は平日なので小学校に欠席の許可をもらって行く。

同級生が勉強しているのに私は列車に乗ってお出かけ。

病気で休んで家でテレビを見ている時とは違った優越感。

目的地は病院なのだが。


大きな駅に到着すると路線バスに乗り、大学病院まで行く。

少しの距離ならバスや車でも酔わずに乗ることができたので、受付時間に間に合うように行きはバスで。

家族旅行など数えるほどしかしてこなかった私にとって、通院でも母と一緒にでかけるのは楽しかった。


後から母から聞いたのだけれど、この受付時間、これに間に合わせるのが一苦労らしかった。

もっと幼い頃の私が受付時間ギリギリになって「お手洗いに行きたい」と言い出した。

もう少し待てないかと話しても「どうしても行きたい!」と。

仕方なくお手洗いを済ませて急いで戻ったが、受付は終了していた。

オーマイガー!!!

理由を話してもダメ、遠方から来ていると説明してもダメ。

もっと遠くから来られている患者さんもおられますから、と一蹴されて、その日は診察せずに帰ったということだった。

今となっては笑い話だけど、交通費と時間の無駄だったな。


さて病院に着いたら受付をすませ、眼科の待合に行く。

当時の大学病院は古く、広い石造りの廊下がドーンと、その両サイドに診察室がずらりと並んでいた。

診察室前の廊下には長椅子がたくさん置いてあって、そこに座って待つ。

予約時間とはこれいかに。

とにかく待つ、待って、待って、待ち続ける。

母は読書したり、居眠りしたり。

でも、私は退屈で退屈でじっとしていられない。

広く長い廊下を端から端まで歩いてみる。

廊下の突き当りにはこれまた広い階段があり、踊り場まで駆け上がると背伸びしてやっと外が見られるくらいの高さに大きな窓があった。


実は一度迷子になりかけたことがあった。

階段を下りたり上がったりしているうちに、眼科の待合がどこだったのかわからなくなってしまった。

どの階も同じように見えた。

背中がぞわっと冷たくなり、自分は一人ぼっちになってここから帰れなくなる、建物から出られたとしてもお金がないのでバスにも列車にも乗れない、どうしよう…

そんなことまで考えて一人で勝手に怯えていたことがある。

その時はなんとか自力で眼科の待合まで戻って来られた。

それ以来なるべく違う階には行かないように、行くのは踊り場までと決めた。

その日も踊り場で出来る限りの背伸びして窓から外の様子をうかがっていると、犬の鳴き声がしたように感じた。

しかも1匹、2匹ではなく、多数の犬の鳴き声。

でも、姿は見えない。

不思議に思い、外を見渡してみるけどやっぱり犬はいない。

その時、母が呼びに来た。私の診察の順番が来たのだ。

犬たちはまだ鳴いていた。




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