5.礼拝堂巡り
やっとコーヒーが出てくる回。
――翌朝。私はナディアと一緒に王宮の礼拝堂に向かった。
日課である創竜神様への祈りを捧げる時間だ。
部屋からほど近い場所に在る礼拝堂に入ると、入り口には既にフィルが立って待っていた。
私はきょとんと小首を傾げて尋ねる。
「あれ? 礼拝堂には週末にしか来ないって言ってなかった?」
フィルは肩をすくめて応える。
「今日からは、なるだけ毎日来ようと思っただけですよ」
「ふーん? きちんとお祈りを捧げるなら、信徒としては良い事だね!」
私は祭壇前に跪き、いつもの様に祈りを捧げる。
フィルとナディアが、私の隣に跪き祈りを捧げ始めた。
私はちらりと横目でフィルの横顔を覗き見る。
――創竜神様、ちょっと聞いていい?
『朝からどしたのー?』
――竜の寵児って、恋愛できないのかな?
『禁止はしてないなー。したかったらしていいよー。結婚も出産も、したければすればいいよー』
――でも、竜の寵児はお役目があるよね?
『それはきちんとやってー。大切な事だから、忘れんといてー』
――私のお役目は、いつ終わるのかな?
『それはまだわかんないなー。ごめんなー』
――私はいつまで、ここに居られるのかな?
『何年かは居てもらうかなー。どれくらいになるかも、まだわかんないかなー。ごめんなー』
――なんで私は、ここに居なきゃいけないんだろう?
『まだ知らない方がいいかなー。それでも知りたいー?』
――んー、知らない方がいいなら、今はいいや!
『ほいよー。んじゃ今日も頑張ってなー』
――はーい。
祈りを捧げ終わり、目を開けて立ち上がると、既に祈りを捧げ終わったフィルとナディアが椅子に座って待っていた。
ナディアが椅子から立ち上がりながら私に尋ねる。
「いつもより時間がかかっておいででしたね。どうかされましたか?」
「ちょっと聞きたいことを聞いてただけ。大したことじゃないよ――それよりフィル、昨日の事は陛下から何か言われなかった?」
フィルはにこりと笑った。
「”お前に女を攫う甲斐性があるとは思わなかった”と大笑いされましたよ。夜会は父上や兄上がまとめて下さったので、問題にはならなかったそうです」
そうか、私は会場から攫われた形になるんだよね。
昨日のお姫様抱っこを思い出して、思わず顔が熱くなった。
そんな私を、フィルはニコニコと楽しそうに見つめている。
……見つめられるほど顔が熱くなる気がするから、やめて欲しいんだけどな。
「殿下、そろそろ予定の礼拝堂巡りの時間ですよ。お仕度なさって下さい」
手を叩いて空気を断ち切ったナディアに、背中を押されるようにして私たちは礼拝堂を後にした。
****
――私たちは馬車に乗り、街の礼拝堂巡りをしていた。
大きな市場や公的施設にある礼拝堂を順次巡っていく。
どこに行っても人が多くて、やっぱり大きな街なんだなーと思う。
巫女の数も多くて、私が竜の巫女のローブを着ていても目立つという事もない。
竜の寵児が着るローブは、他の巫女のローブと一緒。純白に銀の刺繍が入った共通の物。
一目で寵児と分かる訳じゃないから、みんなに注目される事もない。
私の年齢で礼拝堂に来る巫女は珍しいけど、背の低い巫女が居ない訳じゃないしね。
なんでローブが真っ白かというと、創竜神様が純白の竜だから、ということらしい。白竜教会という名前も、それが理由らしいと教わった。
大きな議会所の礼拝堂で祈りを捧げ終わった私は、馬車に乗り込み次の場所へ向かう。
「ねぇナディア、次はどこ?」
「昼食を挟んで、午後はフェティーネ魔導学院です。本日はそこで終了です」
魔導学院か。寵児が祈りを捧げる礼拝堂があるんだから、大きな学校なんだろうな。
「ねぇフィリップ王子、そこはどんな学校?」
フィルはこちらを向かず、真顔で黙って外の景色を見ている。
「……フィル、教えて?」
途端に爽やかな笑顔でこちらに振り向き、フィルが説明してくれる。
「王侯貴族が通う、王立の学校ですよ。僕も今はそこの中等部に通ってますし、春からはそこの魔導学部に進みます。礼拝堂も大きいですし、ゲルダさんもそこに通われてはいかがですか?」
「……いちおー、今の私は公務の最中なんだけど? なんで愛称で呼ぶのかな?」
「僕はプライベートですし、愛称呼びしてはならない場でもありませんね。なら何の問題もないのでは?」
ナディアが懐からレースのついた水色のハンカチを取り出し、自分の目に当てて泣く振りをした。
「ああ、殿下の口から公務なんてお言葉が出てくるとは……私、感激いたしました」
「泣き真似してまで言う事かな?! 今までだって公務なのは分かってたよ?!」
「……そのご公務からこっそり抜け出す常習犯が、なにか仰いましたか? 昨日の神殿への挨拶もご公務なのですが」
「イイエ、ナンデモアリマセン」
そんな私とナディアのやりとりを見て、フィルは笑いを我慢しているようだった。
私はふぅ、と溜息をついてから窓の外を眺める。
昼近くなり、街の活気はいよいよ増している。
馬車道の傍の歩道は行き交う人で溢れ、人々の顔も活気に満ちていた。
これほど大きな街に来ることも珍しかったから、やっぱり新鮮な感じがする。
今までは小さい国を巡る事が多かったんだよねー。
このまま馬車は食事が出来る場所に一度向かい、昼食を取ったら魔導学院に向かうことになる。
「フィルが通うような学校かー。私に通えるのかな」
私が呟いた一言に、フィルが優しくこたえてくれる。
「潜在魔力が規定値以上あれば、あとは家柄のみが求められます。ゲルダさんも王族ですし、王家が推薦状を出しますので、それで問題ありませんよ」
「その潜在魔力って、どうやったら分かるの?」
「専用の計測器具を使います――あ、そうか。竜の寵児の潜在魔力なんて、通常の計測器具では測れないかもしれませんね。そこは王宮魔導士に相談しておきます」
うーん、私の潜在魔力ってどのくらいなのかな?
全く想像つかないや。
****
昼食は繁華街のカフェテラスに立ち寄ってそれぞれが好みのオーダーを取る。
私は固いパンに燻製肉と新鮮な葉野菜を挟んだ物を頼んだ。
もっきゅもっきゅと歯ごたえを楽しみつつ、紅茶を含んで喉の奥に流し込んでいく。
フィルは私と同じパンを頼みつつ、意外なことにコーヒーを口にしていた。しかもストレートである。
「フィルって、コーヒー派だったの?」
「そういう訳ではありませんが、王宮に居ると飲めませんからね。街に居るときはコーヒーを選ぶ事が多いだけです」
コーヒーは比較的新しい飲み物で庶民の嗜好品とされているらしく、確かに王宮の様な場所で出された覚えはなかった。
神殿でもお茶ばかりだし、私はコーヒーを飲んだことがない。
知っているのは、独特の良い香りがするけどとても苦いという事と、普通はお砂糖と牛乳を混ぜて飲むものだ、という事くらいだ。
私は恐る恐るフィルに聞いてみる。
「ねぇフィル、それ苦くないの?」
「苦いですよ?」
「でも美味しそうに飲んでるね?」
「美味しいですよ?」
「……苦いのに美味しいの?」
さっぱりイメージできない。苦いって美味しくないの仲間じゃないの?
フィルがクスリと笑い「一口、飲んでみますか?」とカップを私の前に置いた。
私が恐る恐るカップに手を伸ばそうとしたところで、ナディアがカップを私の前から遠ざけた。
「……はしたないですよ殿下。フィリップ王子も、そういう軽率な行為は控えてください」
言葉の意味が分からない私はきょとんとしてしまう。
はしたない? 何が?
フィルはとても楽しそうに笑っている。
「ははは! 冗談ですよ! なにより、初心者がいきなりストレートで飲んでも美味しく感じることは難しいでしょう。僕らの年齢でこの飲み方をする人は珍しいくらいだ。少なくとも、僕の周囲には居ませんからね」
「フィルは最初からその飲み方だったの?」
「好奇心で試しに飲んでみたら、意外と口に合ってたんですよ。混ぜ物がない方が、味がシンプルになって後味も良い。独特の香りと苦みだけを味わう、そんな飲み方ですね。紅茶も、混ぜる物で香りや後味が大きく変わるでしょう? それと全く一緒です」
確かに、ストレートティーとレモンティーとミルクティーは別物くらいに味も香りも後味も違う。なるほどそんな感じか……
好奇心……私の胸の奥でもうずうずと疼いている。想像もつかない味を試してみたい気がする。
そんな私の気持ちが顔に現れていたのか、ナディアが溜息をついてからフィルと同じものをオーダーしてくれた。
そうして今、私の前にはストレートのコーヒーが置いてある。
確かに独特の香りは紅茶と違う心地良さを感じる。少し焦げ臭いかな?
「焦げ臭いのは、そういう作り方をしているからですね。同じ原料でも作り方次第で大きく味を変えることが出来ます。これは紅茶も同じですね。この店のコーヒーは結構苦めですので、少し口に含むぐらいにしておいた方がいいですよ」
おそるおそるカップに口を付け、コーヒーをわずかに口に含む――苦い?!
慌てて紅茶で流し込むけど、舌の上から苦みが消えてくれない。
ナディアが水を用意してくれたので、追加で水を飲んでようやく苦みが消えていった。
「――はぁ。やっと苦くなくなった……フィルはなんであれが美味しく感じられるの?!」
私はわずかに口に含んだだけで我慢できなかったというのに、フィルはごくごくと美味しそうに喉に流し込んでいる。
「好みの差、ですかね。大人になると飲める人は増えるらしいですよ?」
舌がお子様だ、と言いたいのかな……ぐぬぬ、同い年の癖に生意気な!
****
馬車が大きな建物の敷地に近づいていく。
王侯貴族が通うというだけあって、警備はかなりしっかりしているみたい。
高い柵の外側のあちこちに兵士が立って、周囲を見回っていたりする。
馬車が正門を抜け、白亜の建物の前で止まった。
フィルに手を取ってもらいながら馬車を下り、建物を見上げる。
「わぁ、今日見てきた施設の中で一番立派かもだね」
「格式の高い学校ですからね。生徒数も多いですし、通っているのは貴族子女がほとんどです。相応に建物も立派になります」
フィルが応えてくれている間に、玄関前で私たちを待っていた学校関係者が数人、私たちに近づいてきた。
「本日はご足労頂き感謝いたします、アデラガルト殿下――フィリップ殿下? 本日は学院を欠席なさったとお伺いしていますが、何故こちらに?」
フィルは苦笑を浮かべて学校関係者に応える。
「今日はアデラガルト殿下の付き添いで欠席したからね。欠席しておきながら学院に来ることになるとは、私も思わなかったが――ゲルダさん、彼が学長のモーリスですよ」
ピシッとした濃紺のスーツに身を包んだ男の人が、改めて私に向き直った。
白髪の混じる琥珀色の髪の、ちょっと渋いおじさまだ。
「ご紹介に預かりました、フェティーネ魔導学院の学長を務める、モーリス・フーデマンと申します。では早速礼拝堂に向かいましょう」
モーリス学長の後ろを歩きながら、私はフィルに尋ねる。
「ねぇフィリップ王子、ここでもその呼び名なの?」
フィルはまっすぐ前を見ながら、黙って私の横を歩いている。
「……フィル、どういうつもりか教えてもらえる?」
フィルが嬉しそうな顔で私に振り向いた。
「学校内も半ばプライベートですから、何の問題もありませんね。愛称で呼び合う生徒は珍しくありません。親しい仲に限られますけどね」
「……私はフィルとそこまで親しくなった覚えはないんだけどな?」
「僕はゲルダさんと昨日、とても仲良くなった覚えがあるのですが、勘違いでしたか? 手を繋いで一緒に神殿まで歩きましたよね」
「あれは君が手を放してくれなかったからでしょー?!」
「絡んできたゴロツキを”親切な人”と判断する危なっかしい人の手を離せる訳がないでしょう? それに、昨晩の夜会で私が貴方を会場から攫った事は、おそらく学校中で噂になっていますよ? あの会場には生徒たちの父兄も大勢いましたからね」
私の会話を先頭で聞いていた学長が振り向き、笑いだした。
「ははは! 昨晩の殿下たちの行動は、確かに学校中で噂になっておりますよ。その御様子ですと、噂もあながち間違っていない、というところですかな?」
私はモーリス学長の目を見ながら、恐る恐る聞いてみる。
「……噂って、どんな噂なの?」
モーリス学長は微笑まし気に応えてくれる。
「”フィリップ王子とアデラガルト王女が恋仲だ”、という噂ですね。既に深い関係だという、やや行き過ぎた噂もあります。さすがに不敬になる噂は、教師たちの方で戒めさせておりますからご安心ください」
やっぱり恋仲って噂は出ちゃってるんじゃないか……フィルは気にしてる様子はないけど、大丈夫なのかな?
だけど、深い仲ってなんだろう? 恋仲以上に深い関係ってどういう意味かな?
私はきょとんとしてナディアに尋ねてみる。
「ねぇナディア、”深い関係”ってどういう意味なの?」
「殿下がそれを知る必要はございません――モーリス学長、くれぐれもそのような噂が蔓延らぬよう、しっかり押さえつけてください」
「もちろんですとも。このような噂は珍しい訳ではありません。対応には慣れておりますのでご安心ください――さぁ、こちらが本学院の礼拝堂です」
学校の建物の隣に、王宮の礼拝堂よりも大きな白亜の建物が建っていた。
入り口には真っ白な創竜神様の彫像が置いてあって、建物のあちこちに竜の模様が彫り込んである、典型的な白竜教会の礼拝堂だ。
今度は私を先頭にして、礼拝堂の中に入っていく。
中に人の姿はなくて、静まり返っていた。
「誰も居ないんだね」
「授業時間ですからね。月に一回、神殿から神官がやってきて、生徒たちの悩みを受け付けていますよ」
フィルから説明を受けながら祭壇前に辿り着く。
祭壇の奥にも創竜神様の彫像が置いてあって、私はその祭壇前に跪き、いつもの様に祈りを捧げ始める。
わぁ、この礼拝堂、力が強いな。思わずびっくりしてしまった。今日巡った中でも一番力が強い場所だ。
礼拝堂にも格があって、祈りを捧げる時にそれが分かる。
祈りの力が創竜神様に届きやすい感じがする、と言えばいいのかな。
それがどういう事なのか、創竜神様に聞いたことがあるけど”太い霊脈に置いてある程、力が強いんよー”と言っていた。霊脈の意味は”調べればすぐわかるよー”とだけ教えてくれた。
その土地で一番力が強い場所には神殿が作られるらしいんだけど、ここは神殿を作ってもおかしくないくらい力を強く感じる気がする。
――創竜神様、ちょっと聞いていいかな?
『どしたんー?』
――この礼拝堂はどうかなぁ? この学校なら、通ってもいい?
『あー、そこなら充分いい感じだなー。毎日の祈りをそこでもやって欲しいくらいかなー。王宮より力が強いっしょー?』
――確かに、王宮の礼拝堂より強いね。わかったー! ちょっと相談してみるね!
私は祈りを捧げ終わって振り返り、フィルとナディアに相談を持ち掛ける。
「ここはとても力が強いね。創竜神様がね、毎日の礼拝をここでもやって欲しいくらいだって言ってるんだけど、二人はどう思う?」
フィルが明るい笑顔で私に応える。
「それなら、尚の事都合がよいでしょう。ここに通いながら礼拝をすれば一石二鳥です」
モーリス学長が少し驚いたように目を見開いた。
「この学校に通われるのですか? 失礼ですが、竜の寵児は宣託で各地を転々と移動すると認識しています。通われてもすぐに移動するのであれば、在籍する必要まではないのではありませんか?」
フィルが学長に振り返った。
「アデラガルト王女は今回、数年間はこの地に滞在するよう宣託を受けているそうだ。ならば、魔導学部に通うくらいは問題がないと思う。まだ進級までは二か月ほどあるが、その間もここに通ってもらっても構わないだろう。モーリス学長はどう考える?」
「……そうですな。数年間であれば、魔導学部卒業までは滞在できる可能性も高いかもしれません。毎日礼拝に通いながら、進級までの間に学校に慣れて頂くのが良いでしょう。学院側としても、竜の寵児に毎日礼拝して頂くというのは大変光栄なことです。望めるのであれば、そうして頂ければ幸いです」
ナディアが少し厳しい顔でモーリス学長に尋ねる。
「殿下は通常の貴族子女と事情が異なります。私が傍仕えから離れる事を許すことは難しいでしょう。私が常に控える事になりますが、学院側はその対応が出来ますか?」
モーリス学長もなんだか難しい顔で応える。
「傍仕えを同伴、ですか。それは本学院内において、王族ですら許されていない事です。本学院は、子供たちの自律性を重んじています。それほどアデラガルト王女は心許ない方なのですか?」
「殿下は世俗と無縁のお方。他人の悪意にも疎い方です。殿下をお守りするのは私の務め。何かあってからでは遅い。そういう事です」
うーん、なんだか難しい話になってる気がする。
それに私、そんなに危なっかしいのかなぁ?
「ねぇナディア、私は学校ぐらい、一人でも通えるよ! 周りに居るのは同世代の子供たちだけなんでしょ? しかも貴族子女なんだし、王族の私に乱暴なことはされないと思うんだけど」
「今まで学校を経験なさっておられない殿下が、なぜそのように自信満々なのか。その根拠を是非お聞かせください」
うっ、痛い所を突かれてしまった……
でもなんとなく、この学校なら大丈夫な気がするんだよなー。
「この学校の敷地は創竜神様の加護が強いから、きっと創竜神様が守ってくれる気がするんだよ。それじゃダメかなぁ? 創竜神様もこの学校はいい感じだって言ってたし……」
フィルが苦笑しながら、私とナディアの会話に割って入ってくれた。
「ではこうしましょう。僕とゲルダさんを同じ学級に配属されるように学院側に配慮して頂く。学院に居る間は、僕がゲルダさんの身を守ります。これならどうですか?」
ナディアはまだ納得がいかないみたいで、眉をひそめてる。
「男性であるフィリップ王子では限界があるはずです――ですが、そうですね……妥協案として、我が国の侍女見習いを生徒として在籍させます。侍女見習いを殿下と同じ学級に配属して頂けるなら、私が傍に控えることは諦めましょう」
侍女見習いが生徒として私と同じ場所に割り振られるのかー。
まぁそのくらいなら私も特に不満はないかな。
フィルがモーリス学長に振り向いて確認を取る。
「どうだモーリス学長。この条件を飲めそうか?」
「そうですなぁ……私の一存では確たる返答は致しかねます。陛下に奏上あそばして判断を仰ぐべきかと」
「わかった、この件は私が預かり、父上に直接相談しよう。それで了承を得られれば、応じられるのだな?」
モーリス学長が頷いた。
「陛下がご承認されるのであれば、学院側に異存はありません」
フィルが私に振り向いて笑顔を向ける。
「――という事になりました。大丈夫、必ずゲルダさんの望む形に落とし込んで見せましょう」