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45 ダイイングメッセージの意味

 根来と祐介が聞いたのは、元也の悲鳴だった。二人が悲鳴が聞こえた方向へ走ってゆくと、先ほどの水場の端に、背中と首から血肉を噴き出しているうつ伏せの元也の死体が転がっていた。

 根来は、元也の死体に駆け寄ると、悔しそうに目を背けた。

「おい、羽黒。犯人はまだこの近くにいるぞ!」

「ええ、間違いありません」

 根来は目を血走らせて、周囲を見回す。この洞窟の広間の見えている範囲に、犯人らしき人物が潜んでいる気配はない。しばらく、あたりの様子を伺っていて、奇襲される心配のないことがわかると、二人は黙ってその場に佇んでいた。


「根来さん。お話ししたいことがあります」

 祐介が突然、そんなことを言ったので、根来は目を瞬かせて、祐介を見つめた。

「どうしたんだ?」

 祐介は、根来の顔をじっと見ると、

「根来さん。事件の真相が分かりました……」

 と言った。


 その言葉に根来は驚いて、祐介の顔をもう一度見直した。緊迫した状況のせいで、ついに馬鹿になってしまったのじゃないかと思ったのだ。しかし、祐介の表情は落ち着いている。それを見ている内に、祐介が本当に事件の真相にたどり着いたのだということが、根来にもだんだんと分かってきた。

「分かったのか……じゃあ、教えてくれ……この事件の真相を!」


 祐介は頷き、このように語り出した。

「分かりました。実際に発生した順番とは、前後しますが、第四の事件からお話ししましょう。第四の事件で、富美子さんが殺害された時、富美子さんはダイイングメッセージを床に残してきました。そして、僕はこのダイイングメッセージの意味をすぐに理解したんです。しかし、それが真相であるとすると、かえってあまりにも不可解な事実が生じてしまう為に、僕はその説を取りませんでした。ところで、ダイイングメッセージは逆三角形が二つ並んでいましたね」

 確かに、ダイイングメッセージは「▽▽」というものだった。

「確かにそうだな。それで?」

「富美子さんは死に際に、ある重要な事実を僕たちに伝えようとしていたのです。根来さんに思い出していただきたいのは、この血文字の逆三角形の下の先端が、真横に途切れていたということです。僕は、そこには元々、なにか紙のようなものが置かれていたように思えるのです。そして、その上から、富美子さんが血文字を書いたから、その紙からはみ出した文字の上半分だけが残って、血文字の下半分は、その紙ごと持ち去られてしまったのではないかと考えたのです。

 犯人がダイイングメッセージに気付いて、隠蔽する為に、その紙ごと持ち去ったという推理は成り立ちません。その場合、紙を持ち去るのではなく、血文字そのものを消してしまったはずです。しかし、上半分は消さなかった。だから犯人は血文字の存在には気づかなかったと言えるのです。地下室は薄暗く、犯人が気づかなかったとしてもおかしくありません。

 そうして考えてみると、そこに紙のようなものが置かれていて、犯人がダイイングメッセージとは関係のない理由で持ち去ったと考えれば、それはきっと双葉さんの暗号文だったろうと考えられます。実際に、犯人が現場から持ち去る理由があり、現実からなくなったものは、双葉さんの暗号文しかありませんからね。

 また、ダイイングメッセージ自体が犯人の偽造であったという説もありえません。もしも、犯人がダイイングメッセージを偽造しようとしたら、もっとシンプルな方法で、容疑をなすりつけたい人物の名前を残しておくはずです。

 この点を考えてゆくと、富美子さんは床に落ちていた暗号文の上に、血文字を書いた。犯人はそれに気付かずに暗号文を持ち去った。そして、床には暗号文からはみ出した血文字のみが残ったと言えるのです。そうして、僕は関係者の名前を見てゆきました。そして、漢字の上半分だけを切り取った時に、残された形が「▽▽」になる名前を発見しました」


 根来はぐっと祐介を睨む。

「誰なんだ、その犯人は!」

 祐介はすぐさま答えた。

「支倉双葉……書かれていた血文字は双葉の「双」の字です!」

 祐介が言い放った言葉を聞いて、根来はあまりの衝撃にめまいがした。

「そんな馬鹿なっ!」

「馬鹿ではありません。これは事実です。富美子さんは、犯人は支倉双葉だと伝える為に、血文字を書いたのです。おそらく、元也さんにその危険を伝えようとしたのでしょう」

 しかし、根来はもう訳が分からなくなって、叫ぶように言った。


「そんな……だって双葉は死んだじゃないか! 浜辺にあった死体を俺はちゃんと確認している。あれは間違いなく本人だった」

「ええ。あれは本人でした。少なくとも、我々と同じ船に乗ってこの島にやってきた、東三公認の「双葉と名乗る男」本人に違いありません。しかし、我々はそもそも双葉とはどういう人物なのかまったく知りません。これまでも、英信さんからの情報を鵜呑みにしていました。その実、我々は双葉のことを何も知らないのです」

 根来はふらふらしてきた。どうも、心臓に悪い話である。


「だからこそ、双葉のことをどれだけ正確に知っているのか確認する為に、僕は英信さんに尋ねたのです。ところが、英信さんも双葉のことを実際あまり知らなかったみたいです。してみると、尾上家の人間というのは、英信さんからの情報のみで、東三と双葉の人物像を理解しているわけですし、その点、僕たちも英信さんを信じ切っていました。ところが、そのせいで、英信さんが彼らのこと勘違いをしていれば、尾上家の人間や我々はそれに疑いを持つことがない、そのまま同じ勘違いを鵜呑みにしてしまう状況を作り出されることとなったのです」


 祐介があまりにも淡々と恐ろしいことを述べるので、根来は目を覆いたい気分だった。

「それじゃあ、あの男は偽物だと言うのか」

「ええ。あの男の鞄の中から葉書が出てきましたね。そこには、双葉から尾上家当ての葉書の書き損じが出てきました。おそらく荷物に紛れ込んでしまったものでしょう。あの葉書を見て、僕はすぐに違和感を覚えたのです。あそこには「長」という文字が書かれていて、それが書き損じの原因と思われる。あそこには本来、名前が書かれるはずだったのだろうと思いました。つまり「支倉双葉」という名前ですね。いいですか。ハセクラソウヨウです。このハセクラという名字が問題です。実際には支えるという意味の「支」という文字が正しいのですが、ハセクラといえば長谷寺のハセ、あるいは長谷部のハセの字を使って「長谷倉」と書かせる苗字もあるものです。そこで僕は、この葉書を書いた人物がはじめ「支倉」という文字を「長谷倉」と書いてしまって、書き損じたのだと気付きました。しかし、よくよく考えても見てください。そもそも自分の苗字を書き間違える人がいますか?」

 根来は頷いて、重い口を開いた。

「そうだな、別人だったんだ……」

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