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1 尾上家の埋蔵金

 夢学無岳様、成宮りん様、深森様から頂いた羽黒祐介の挿絵になります。※「名探偵 羽黒祐介の推理」「紫雲学園の殺人」「五色村の悲劇」より


 挿絵(By みてみん)


 挿絵(By みてみん)


 挿絵(By みてみん)


 こちらの作品は、名探偵 羽黒祐介シリーズ第一作「青月島の惨劇」(2017年)の完全改訂版(2023年)です。

 どうかお楽しみください。ご感想、レビュー、評価等お待ちしております♪


 挿絵(By みてみん)

表紙絵制作 Kan

(埋蔵金を欲する愚か者たちよ、殺戮の刃に戦慄することだろう、あの孤島に上陸すれば、鮮血で日本海が真っ赤に染まることになる。今まさに始まりを告げる、青月島の惨劇が……)



           *


 リビングに集まったのは十一人。古い長時計がかかっていて、カチリカチリと音を立てている。長方形のテーブルを囲むように一同は座った。


「ご承知の通り、父は我々に埋蔵金の場所を示しているという暗号文を残しました。それがこれです」


 十人の視線が、一斉にその和紙に集まる。そこには、筆でしたためられた四行ばかりの文章があった。


  天狗の鼻が突き出すところ

  極楽へ向かえ

  右の手に

  青月の夜


「狂った遺言だわ」

 一同の視線がひとりの女性に集まる。

「だって、そうでしょう? 違った?」

 そう言ってから、女性は不機嫌そうに視線を背けた。


「見つけた埋蔵金は分配するのですか!」

 ひとりの男性は不安とも恐怖ともつかぬ声で叫んだ。


「しない!」

 もうひとりの男性が、殺意のこもったような声でそう叫んだ瞬間、空気が一気に張り詰めた。


          *


 静けさの中で響いてくる足音があった。それを聞いて、ふたりの人物が慌てて立ち上がった。誰かがこちらに歩いてくる。


 その足音はだんだんと大きくなり、暗闇に馴染んだ目によって、鍾乳洞の曲がり角を曲がって、一つの人影がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。その人影の片手には懐中電灯が、もう片手には日本刀のようなものが握りしめられていた。


 ふたりの人物は何も言えないまま、その光景を食い入るように見つめていた。


          *


 しばらくの後、ここは真っ暗闇の中……。


 突然、落とされた懐中電灯の明かりが点き、鍾乳洞の中が一気に照らし出された。

 これによって、三人の人物の位置関係が分かった。いつの間にか、ある人物の目の前に日本刀を持った影が立っていた。

 その途端、その人物は日本刀を構えると、目の前の人物めがけて日本刀を振り下ろした。





           *




 青月島(せいげつとう)と呼ばれている孤島をご存知だろうか。それは新潟県沖にひょっこりと浮かんでいる、世間一般では、知る人の少ない小島である。

 個人が所有する島としては、極めて面積が大ききなもので、九平方キロメートルもあった。


 青月島の中心部には、鬱蒼とした森が広がっており、その真ん中を貫くように、切り立った烏帽子型の岩山が、天高くそびえ立っている。沿岸部にはごつごつと隆起した岩場が広がっていて、見たことも聞いたこともないような奇岩が、無数に転がっているということである。


 それらの岩は、天狗の鼻が突き出した天狗岩だとか、十二支の動物たちが彫り込まれた十二支岩だとか呼ばれるもので、江戸時代に、付近の漁師がこの島に立ち寄った際に、信仰物として祀っていたものと伝えられている。


 この青月島を所有しているのは、山梨県の武家の末裔である尾上(おがみ)家である。


 さて、尾上明安(おがみめいあん)は、戦前にいつの間にやら巨万の富を手に入れた。それは、一体どういうものであったのかよく知られていない。それが徳川の埋蔵金か、自家に伝わる宝物だったのかも分からない。ただ明安は、いつの間にやら、巨万の埋蔵金をどこからか入手したものらしく、尾上家の蔵には純金の宝物や小判の入った千両箱が無数に収まっていたという。


 ところが、太平洋戦争が始まる少しばかり前から、明安はこれらの宝物を青月島に船でこそこそと運び入れるようになった。この戦争によって、軍に埋蔵金を没収されるのを怖れたのだとか、色々なことを噂されているが、その真意は未だに分かっていない。そして、その時に孤島のどこかに隠されたとされている埋蔵金は、いまだに見つかっていないのである。


 さて、明安と妻の早苗の間にはついに子供が産まれなかった。そこで、明安は養子として和潤(わじゅん)を引き取った。ところが、明安は生まれ持っての遊び人で、方々に愛人をつくるのに必死なあまり、和潤を息子として真摯に愛するということがなかったのである。


 このようにして和潤は、明安に息子として認めてもらえず、また和潤自身も明安を親として認めなかったのである。

 明安は死する時、きわめて奇妙な遺言を残した。勿論のこと、尾上家の資産は実の息子である和潤のものとなった。しかし、あの巨万の埋蔵金だけは、尾上家の者であるか、この和潤の血を受けたものであれば、誰にでも相続権が与えられているというのである。


 ところが、実際に埋蔵金を相続をすることが許されるのは、孤島の埋蔵金を発見した者一人のみ、としたのである。


 明安はこのような不可思議で酔狂じみた遺言を残して、この世を去っていった。そして和潤は、明安から埋蔵金が隠されている場所を指し示しているという謎の暗号文を受け取っていた。

 しかし、和潤はその生涯で、ついに暗号文を解くことができずに、この世を去っていったのである。


 さて、その和潤も血の繋がらない父の影響をどこかで受けていたのであろう、彼もまた、ひどく遊び人であった。その為、やはり方々に愛人をつくるのに夢中であった。

 彼の正妻は(ともえ)であった。彼は巴との間に一人、子を授かっている。名を英信(ひでのぶ)と言う。それと和潤には愛人が三人ほどいて、その愛人の間に一人ずつ子供を授かっていた。


 さて、ある噂によれば、和潤と巴の婚約はあくまでも形式的なものであり、英信が和潤と巴の間に産まれた子供であるかは極めて疑わしいというのである。

 巴にも他に想いを寄せる人がいて、その人との間に産まれた子供こそが英信なのではないか、ということが想像できた。


 その証拠には、和潤は明安から受け取った埋蔵金の暗号文を、正妻巴との間に産まれた子である英信にではなく、愛人との間に産まれた潤一(じゅんいつ)にのみ、手渡していた。

 そして、和潤は一族の者にこのように言い残している。



 あの青月島には決して近寄ってはいけない。あの島に近寄れば、一族の間で、埋蔵金をめぐる血で血を洗う凄惨な抗争が巻き起こることであろう。あの島の管理は他人に委ねて、尾上家、またこの和潤の血を受け継ぐ者は一人として、あの島に訪れてはいけない。



 これが尾上和潤の遺言であった……。


 さて、謎の暗号文を受け取った潤一もまた年若くして病に倒れ、山梨県の病院で、息を引き取ろうというところである。

 潤一は、震える声で自宅の机の中に暗号文があることを訴えた。これを聞いた知人が、潤一の自宅の机の引き出しを開けると、そこには暗号文が入っていた。それはボロボロの和紙に筆でこのように書かれていたものである。



  天狗の鼻が突き出すところ

  極楽へ向かえ

  右の手に

  青月の夜



 知人はこの暗号文を、潤一と血の繋がりのある人物に届けようと思って、潤一の葬式に訪れた、これもまた愛人との間の子供である、東三(とうざん)という男に手渡したのである。

 東三はしばらく、この和紙の文面を睨んでいたが、途端に顔がぱっと明るくなったかと思うと、急いで帰宅し、尾上家本家への手紙を書きだした。


 その手紙の内容は、一族の者が近づくのを禁止されていた青月島に、相続権を持つ人間たちを集めようとするものであった……。

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