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ルームメイト

 カナは扉を潜り中へと入るとすぐにキッチンがあった。寮には食堂も備え付けられているらしいがそれとは別に部屋ごとにキッチンが備え付けているようだ。扉をノックした際の物音もの原因もどうやらキッチンからの様だ。

 キッチンにはお茶を入れそうとしてそのまま落としたのか割れたティーポットやティーカップの破片が散乱し茶色い液体が湯気を上げながら床を濡らしている。

 カナと同い年ぐらいの栗毛をボブに切りそろえた少女が慌てた様子で片付けようと手に持ったタオルで床に零したお茶に手を伸ばし「熱っ!」と小さな悲鳴を上げている。まだ湯気を漂わせてるのだ、熱くて当然だろう。

 片づけようと必死過ぎて破片で指までそのうち切りそうだ。

 カナは静観している場合ではないなと室内に踏み込むと栗毛の少女に声を掛ける


「大丈夫?」

「え!?あ、大丈夫だよ!今すぐ綺麗にするから‼」


 相当動揺しているのかもともとそそっかしいのか、えへへっと誤魔化す様に笑いながら今さっき火傷しかけたお茶にまたも手を伸ばし「熱っ!」と同じリアクションをする。


「ちょっと待って」

「え?あっ!熱いから触ったら危ないよ!?」

「大丈夫、ちょっと待っててね」


 観ていられなくなったカナが無造作に零れた茶に手を伸ばすと栗毛の女の子が慌てて止めに掛かるもカナは意に返さずにまだまだ熱いお茶に手を触れ魔力を籠め魔法を発動させる。簡単な冷却魔法を使い液体の温度を人肌よりも若干低い程度まで瞬時に冷却する。


「もう熱くないから大丈夫だよ」

「あ、そっかぁ魔術で冷やせばよかったんだ...ありがとう!...えっと..」

「私はカナ。今日からよろしく」

「カナちゃんだね!私はリナよろしくね!それとありがとう!」

「どういたしまして、さて。二人で早く片付けよっか」


 厳密に言えば魔法と魔術は違うものではあるも態々訂正するような事でも無いし、お互い名前すら知らないままの方が不便かと簡単に名乗り自己紹介を終わらせ早速片づけに移る。

 最初こそリナは手伝いの申し出を断ろうとしたが、カナが押切なし崩し的に二人で片づけをすることとなる。

 その最中リナが破片で指を切るなどのアクシデントもあったがカナが治癒魔術で治すことで対処しつつが無く片づけを終わらせることが出来た。

 ひと段落ついた所で二人でリビング兼寝室に移り改めてリナが入れてくれた紅茶をに口を付ける。

 何も入れて無くても紅茶の香りが引き立ち仄かに甘味もある。それでいて紅茶の苦みがアクセントになっている。


「美味しい」

「よかったぁ、気に入って貰えて、昔から紅茶を淹れるのだけは得意だったんだ!」

「そこら辺の店より美味しいし、落ち着くなぁ」


 リラックスした様子のカナを見てリナの肩に入った力も徐々に抜けた。初対面での失敗を少し引きずっていたのだろう。

 弛緩した空気にリナの「あ!」という少し間の抜けた声が響き、カナもリナに視線を向ける。


「カナちゃんごめんね!入寮したばっかりで荷物の整理もまだだよね?私も手伝よ!」


 ふんすと鼻息でも聞こえてきそうな雰囲気で力こぶを作るかの様に腕まくりをし、気合を入れるも先ほどの様子を見るに少し、いやかなり頼りない。

 そんなルームメイトについ苦笑いを浮かべてしまうも落ち着いた様子で紅茶を一含みしカナは口を開く。


「その辺は大丈夫かな、荷物は基本アイテムバックに入れて持ち運んでるから」

「でもそれらしいものも見当たらないけど」

「ほらこれ」

「指輪?随分高そうだけど......ま、さか?」

「そのまさか」


 アイテムバックとはとある魔道具の通称だ。基本的には袋やカバン、時には箱など持ち運べるサイズの収納容器に魔術で内部空間の拡張を行い容量を見た目以上にしたものを指す。

 その値段もピンキリで内容量が二倍程の手提げ袋で一般市民からして高いけれど手が出ない訳ではない程の価格で買えるが容量が大きくなる程青天井に値段が上がっていく。

 容量が十数倍のトランクケースならそれなりの街でそれなりの一軒家が買える程の値段になるだろう。

 更にカナの持つアイテムバックは特別製でその基本からかなり逸脱している。いま取り出した大きな蒼い宝石が埋め込まれた指輪こそがそのアイテムバックだ。

 収納容器の形をしていないアイテムバックはそれだけで特殊で使用するには使う本人が魔力を扱えなければならない物や特殊な操作を要求する。

 またこの手のアイテムバックを作成できる者が現代では限りなく少なく、出回っている殆どが遺跡等から発見された遺物(アーティファクト)であり機能面を除いても歴史的な価値から非常に高値で取引される。運に恵まれて売られてる所に出くわしても殆どの者に手が出る物ではない。

 その辺りは流石にリナも把握していたのかどんどん顔色が悪くなり声も震わせ全身から冷汗が流れ出る。


「え~と、カナちゃ...様はどこかの王族や貴族だったり」

「しないしない、ただの冒険者だから、あんな連中と一括りにしないで。これも知り合いから貰った物だし」

「ほ、ほんとに?」

「本当に、様付けももうしないでよ?」

「よかったぁ...貴族相手に無礼を働いたんじゃないかと冷や冷やしたよ...」


 貴族かとの問いをウンザリした様に語気も強く遮る。その顔のには心底嫌だと書かれている。嫌悪感を隠す気すらない。

 そんな様子から本当に王侯貴族じゃなさそうだと安堵する。

 この学院にいる内は大丈夫かもしてないが貴族に無礼を働いたら後々何されるか分かったものではない。


(冒険者って貴族とトラブルになることも少なくって聞くし、カナちゃんや周りで何かあったのかな?それにあの指輪貰ったって言ってたけど...もしかして高位の冒険者だったりするのかな...まさか、ね)


 冒険者は魔物の討伐から素材採取に遺跡の調査、果ては護衛なども果たす何でも屋の側面も持ち荒くれ者も多く周囲とのトラブルも少なくない。

 その反面高位の冒険者は街や時には国すら滅ぼしかねない危険な魔物の討伐、撃退など英雄視されることも少なくない。

 リナは冒険者だと安堵したものの、あんな貴重品を持っているならそんな英雄たちの一人かもしれない可能性あるのではないかと頭を過るもそれはそれで確かめる勇気は持てなかった。

 関りがあるのならばまた違うのだろうが一般市民がらすれば貴族も英雄も雲の上の人物に違いない。


(もしかしたら高位の冒険者の子供とかかもだし!うん!きっとそう!)


 リナは迷走に迷走を重ねた思考で高位の冒険者ではないと思い込んで自分を納得させる。

 果たして貴族の子弟と英雄の子供にどれ程の違いがあるのだろうか。

 そんな葛藤を抱いていたリナの向かいで静かに紅茶を飲んでいたカナは最後の一口を飲み干すをカップをシーソに置き小さくカチャリと音を鳴らす。

 そのまま流れる様に手を組み小さく伸びをする。


「ご馳走様。美味しかったよ、ありがと」

「どういたしまして」


 先ほどの会話が後を引いたのか普段通りに見えつつもどこか硬さの残るリナに苦笑いしながらも椅子を引き席を立とうとする。


「あれ?どうしたの?」

「時間もあるからぶらつきながら校内でも見て回ろうかなと」

「なら私が案内するよ!さっき助けてもらったし!」

「じゃあお願いしようかな」


 自分の中で一区切り付いたのか、問題を棚上げしただけなのか、食い気味で立ち上がり案内を申しでたリナに少し面食らいながらも一瞬考えて、学院に詳しい人がいた方が助かるかなと結論を出し、了承する。


「ちょっと待ってて、準備してくるから!」


 言うが早いか駆け出し早速転びそうになるリナを少し眺めカナは先に部屋を出た。


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