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九、黒夜叉

「良くも悪くも修太朗の戦い方だったな」

 そう言うと師匠に軽く肩を叩かれた。

「敵に向かい真正面から斬り込む。一対一でしか戦っておらぬからそれしかできぬ。圧倒的な力の差があればそれもまた良いであろう。その後の立ち回りもなかなかだったと褒めておく」

「……でも、最後は不覚をとりました」

 そう言ってうなだれると、

「お主は集中すると視野が狭まる。また、集中して『領域』に至るまでの時間が長い」

「……それが課題ですね」

「如何に乱戦の中で『領域』に至れるか、お主の『領域』の力は人並外れておる。それを会得すれば小鬼程度、無双できように……。今日は少々疲れたであろう。戻るがよい」

 そう言うと、師匠は姿を消した。


 あの乱戦の中でどうすれば技を放てるほど集中することが出来るのか。自問自答を繰り返しながら帰路についた。

 建屋が近づいている。ユリはひなたを籠に寝かせて外に出ていた。

「ただいま」

 そうユリに声を掛ける。

「おかえりなさいま……」

 ユリがこちらを見て絶句した。

「どうした?」

新右衛門しんえもん……様」

 か細い声でささやくと、ユリは修太朗に抱きつき大声をあげて泣き出した。

 急なことに戸惑いながら、何か事情があるのかもしれないと思い、修太朗は優しくユリの背を撫で続けた。

ひとしきり泣くことで落ち着きを取り戻したのか、ユリは少々気恥ずかしそうにしながら、

「お恥ずかしいところをお見せしました」

 と、修太朗に詫びを入れた。

「別に構わないけど……。大丈夫?」

「はい。その刀を修太朗さんが携えているのを見て、主人を思い出してしまいました」

「ご主人……」

「はい。その刀は私の主人である新右衛門しんえもん様の愛刀で、私が主人の死後預かっていたものです。修太朗さんに使って貰おうと、しづか姉様にお預けしておりました」

「……その、かなり貴重な刀だと聞きましたが、いいのですか?」

「はい。いくら貴重な刀でもさやから抜きもせずしまっているだけでは何の役にも立ちません。それに、私が扱うには刀が大きすぎます。また、その刀は誰でも抜けるものではありません。刀が修太朗さんを認めたのなら、そのまま愛刀にして頂ければ主人も喜ぶと思います」


 ユリさんとご主人の想い……。自然に頭が下がっていた。

「有難うございます。生涯大事にさせて頂きます」

 そう言うと、ユリはまた涙ぐみながら、

「天下無双の豪刀、黒滅刀こくめつとう……。その銘を黒夜叉くろやしゃと申します」

 と、告げた。

黒夜叉くろやしゃ……」

 修太朗がそう復唱した途端、黒滅刀こくめつとうは辺りの景色を一変させるほどの光を放つと修太朗の鳩尾みぞおちに向かって吸い込まれていった。

 驚く修太朗に向かって、

「修太朗さんに名前を呼ばれて力を取り戻したようですね。その手に刀を顕現けんげんさせるように念じてみてください」

 ユリに促され、一つ息を吐くと、

「来い、黒夜叉くろやしゃ

 と、呟く。


 修太朗の右手に現れた黒夜叉くろやしゃは先ほどとは比べ物にならないほど巨大になっていた。長身の修太朗と変わらぬ長さに伸び、子供なら十分乗せられそうな程幅広な黒光りする刀身に走る稲妻のような白銀の線、さらに神気を纏った美しい刃紋、流麗な反りを整え、それら全てが、この刀が紛うことなき神刀であることを証明していた。

「振ってみろ」

 黒夜叉にそう告げられた気がして、修太朗は柄尻つかしりを左手で握り込む。驚くことに黒夜叉くろやしゃは全く重みを感じさせず、柄は図ったかのように修太朗の手に馴染んだ。

 目を瞑り、開いた。

 空を切る黒夜叉くろやしゃの軌跡は白銀の残滓ざんしを残しながらきらめき、一切を断ち切ろうとするかの如く一陣の風を荒野に漂わせた。



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