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7-7 差し入れられた物は…

 その日の夜―。


 エルウィンはシュミットとスティーブ、それにエデルガルトを招き4人でささやかな晩餐会を開いていた。


「しかし、こうして皆で食事を囲むのも随分久しいですな」


エデルガルトはエルウィンたちを見ながら楽しげに笑みを浮かべた。


「いえ、師匠には叔父上の事でお世話になりましたから…お礼をさせて貰いたかったのです」


エルウィンは目の前のテーブルに乗せられた分厚い鶏肉をナイフで切り取り、皿の上に乗せるとエデルガルトの前に置いた。


「おお、これは七面鳥の肉ですね?」


エデルガルトが目を細める。


「はい、師匠の大好きな肉ですよね?」


「それにしてもオズワルドの奴には腹が立ちましたよ。俺たちだけなく、大将のことまで馬鹿にするのですから」


ワインを水のように飲みながらスティーブが眉間にシワを寄せる。


「確かにランベール様の側近の方々は少々口が過ぎましたね…。しかし、もう後ろ盾になる方もいないのに…エルウィン様にあの様な態度を取るのは賢いとは思いません」


そしてシュミットはパイ料理を口に運んだ。


「お?シュミット。お前にしては中々良いことを言うじゃないか?ああ、全く彼奴等は癪に障る。だが、もう叔父上はいないのだから今後は大人しくなるだろう」


エルウィンはチーズを口に入れた。


「果たして…そうでしょうか…?」


大好きな七面鳥料理を食べながらエデルガルトはポツリと言った。


「師匠、それは一体どういう意味ですか?」


エルウィンはエデルガルトに尋ねた。


「ええ。アイゼンシュタット城の正式な城主はエルウィン様、その次がランベール様でした。しかしランベール様はお亡くなりになられましたが…ミカエル様とウリエル様がまだいらっしゃいます。エルウィン様には…まだお子はおられませんから…そうなると次の跡取りはミカエル様とウリエル様が次の跡取りとなります」


「まぁ…確かにそうなりますね」


エルウィンはチキンを口にした。


「成程…それではランベール様の参謀達は…」


シュミットが口を開いた。


「そうです。恐らくミカエル様とウリエル様を後ろ盾に置かれるでしょう」


「成程…つまり、彼等はまだ幼いミカエル様とウリエル様を手懐けるつもりかもしれません」


深刻そうな表情を浮かべるエデルガルトにエルウィンは言った。


「師匠、考えすぎでは無いですか?あの2人は実の父親よりも俺を慕っていたのですよ?まさか彼等が謀反を起こし、城主の座をいずれ奪うつもりとでも考えているのですか?」


「いえ、まだそこまでは…」


「大丈夫ですよ。ミカエルもウリエルも素直な子供達ですから」


エルウィンは然程気にすることも無く、目の前の料理に手を伸ばした―。




****


 食後、エルウィンはシュミットと共に執務室へ戻っていた。


「全く、夕食後も仕事をしないとならないなんて…」


アルコールランプがゆらゆら揺れる側でエルウィンがふてくされた様子で書類にサインをしている。


「頑張ってください、後5枚だけサインをすれば今日の仕事は終わりですから」


シュミットがエルウィンの机に資料を置きながら声を掛ける。


「応援するくらいならお前も手伝ってくれ」


「ですから私もお手伝いしているではありませんか」


シュミットの机の上にはエルウィンの倍以上の書類が置かれている。


「フン!仕方ないな…」


その時―。


コンコン


扉をノックする音が聞こえた。


「おや?誰だろう?」


シュミットが扉を開けると、そこにはフットマンが立っていた。彼の手にはワインが握られている。


「夜分に恐れ入ります。オズワルド様から本日ミカエル様とウリエル様がお世話になったお礼にワインを頂いております」


「…そうですか。ありがとうございます」


シュミットはワインを受け取るとフットマンは恭しく頭を下げて、部屋を去って行った。



「どうした?シュミット」


丁度仕事を終えたエルウィンが背後から尋ねてきた。


「あ…。いえ、今フットマンが訪ねてきて、オズワルド様からエルウィン様にワインが届けられたのですが…いかが致しますか?」


「ワイン?…まさか毒入りか?」


エルウィンは不敵に笑う。


「さぁ…それはどうでしょう?」


「ふん、オズワルドも愚かだな。俺は子供の頃からありとあらゆる毒を体内に取り入れ、耐性をつけて来たというのに」


「取り敢えず…念の為に毒入りか調べてみましょうか?」


シュミットはポケットから毒を検知する試験紙を取り出した。


「よし、試飲ついでに試験紙で試してみるか」


ワインに目が無いエルウィンは立ち上がると、執務室に置かれたキャビネットからグラスを持ってきた。


「では試してみますね」


シュミットは開栓するとワインをグラスに注ぎ、試験紙を浸してみるも、全く変化は現れなかった。


「…どうやら毒では無さそうだな」


そしてそのままエルウィンはワインを飲んでしまった。


「あ!エルウィン様っ!」


慌てて止めるも遅かった。


「うん、美味いな」


「エルウィン様…なんてことをされるのです?」


シュミットは呆れた様子でため息をつく。


「大丈夫だ、毒は入っていないようだ。それに自室には解毒薬もあるから問題はない」


「では念の為にも…お部屋でお休み下さい」


シュミットはエルウィンの浅はかな行動にため息をついた。


「ああ、それじゃあな!」


エルインは小脇にワインを抱えると、上機嫌で執務室を出ていった。



この後、何が起こるか。


部屋に誰が待っているのかも知らずに―。




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