6-13 ランベールの葬儀
ランベールの葬儀は越冬期間という事もあり、式に参列したのはアイゼンシュタット城に住まう者たちのみであった。その人数は僅か200名ほどであり、何とも寂しい葬儀となった。
その参列者たちを前に、エルウィンは立派に喪主を務めていた―。
礼拝堂の最前列にはランベールの側近であったドミニコ、バルド、オズワルドの姿があった。
「…全く、仮にも前城主の弟という身分でいらしたランベール様の葬儀がこんなに質素だとは…」
ドミニコが忌々しげにエルウィンの姿を見つめながら口に出した。
「ああ、本当にその通りだ。しかも犯人だってまだ分かっていないのにあっさり捜索をやめた挙げ句、さっさと葬儀をあげてしまうとはな…」
剣を掲げて弔事の言葉を述べるエルウィンを忌々しげに睨みつけながらバルドは拳を握りしめた。
「…」
しかし、オズワルドだけは一言も口を開かず腕組みをしながらただ黙ってエルウィンの様子を眺めていた。
「おい、オズワルド。黙っていないでお前も何か心に思うことが無いのか?」
隣に座るバルドがイライラした様子でオズワルドに声を掛けた。
「…皆さん、先程から私語が多いですねぇ…仮にもランベール様の葬儀なのですから少し口を閉じられてはいかがです?ほら、御覧なさい。城主様の姿を…青二才のわりになかなか見事に喪主をつとめているではありませんか」
「なっ…?!き、貴様…騎士のくせに生意気な…っ!」
ドミニコが怒りの目をオズワルドに向ける。
「そうだ!何様のつもりだ!」
バルドもオズワルドを睨みつける。
「…お静かに。我々は派閥争いに負けたのです。これからのことを考え、自分の身の振り方を考えることですな」
オズワルドは静かに言う。
「「…」」
その言葉にバルドとドミニコは口を閉ざし、オズワルドは視線を移した。
彼の視線の先には別の席に座るまだ幼いランベールの息子たちがいる。2人の少年達の側には彼らが慕っている侍女の姿があった。
「…」
オズワルドは少年たちと侍女を不気味な視線でいつまでも見つめていた―。
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午後3時―
「ふ〜…疲れた」
礼服を脱ぎ、いつも着慣れている騎士団の制服に着替えたエルウィンは乱暴に執務室の椅子に座った。
「お疲れさまでした。エルウィン様。とてもご立派でしたよ」
シュミットはエルウィンの前にコーヒーを置きながら声を掛けた。
「お、コーヒーか。これはいいな」
エルウィンは嬉しそうに笑みを浮かべると、早速カップを手に取った。
「…うん、いい香りだ。シュミット、お前ますますコーヒーを淹れる腕があがったな?」
カップに鼻を近づけ、香りをかいだエルウィンは早速コーヒーを口にした。
「…うん、美味い」
そして長ソファの上で腕組みをして不機嫌そうに座るスティーブをチラリと見ると、シュミットを手招きした。
「いかが致しましたか?エルウィン様」
「一体、スティーブはどうしたんだ?随分機嫌が悪そうじゃないか?」
エルウィンはシュミットに耳打ちするように尋ねた。
「ええ…その事なのですが、葬儀に参列したときからずっとあの調子なのです」
シュミットも囁くように答える。
「何?そうなのか?」
「ええ…私にもさっぱり…」
シュミットは首を傾げる。
「全く…こっちは慣れない葬儀の喪主を務めて疲れているっていうのに、室内にあいつの殺気が充満して息苦しくたまらん…」
エルウィンはため息をつきながらコーヒーを口にした。
「…」
シュミットはいらついているスティーブを見つめた。
(スティーブはエルウィン様の着替えが終わった後、アリアドネ様を連れて仕事場へ向かった…。恐らくそこで何か不快な出来事があったに違いない。あのスティーブをここまで苛つかせるなんて…)
そして次にエルウィンを見た。
エルウィンも慣れない葬儀の喪主を務めたことで、その顔には疲労が浮かんでいる。
(エルウィン様と剣でも交えればスティーブの気も紛れるし、エルウィン様の精神的な疲れも取れるかもしれないな…。よし、後ほどエルウィン様と剣を交えるように2人に声を掛けよう)
シュミットは自分の考えに頷いた―。




