5-18 エルウィンの師匠
「離せっ!シュミットッ!スティーブッ!あいつ…叩き切ってやるっ!」
「大将っ!落ち着いて下さいっ!」
「ええ、そうですっ!エルウィン様、彼の挑発に乗ってはいけませんっ!」
暴れるエルウィンを抑え込むスティーブとシュミット。それを鼻で笑うオズワルド。
「本当に…貴方と言う方は血の気の多い方だ…。さすがは『戦場の暴君』と言われるだけの事はある。こんな暴れん坊が我が城主とは…情けない」
「何ぃっ?!」
エルウィンは今にも飛び掛かる寸前である。そして今のオズワルドの言葉に流石のスティーブも黙ってはいられなかった。
「何だと…?貴様…。もう一度言ってみろ…」
「ああ、何度でも言ってやる。わが城主は戦うことしか能の無い人物だとな」
オズワルドが挑発的な笑みを浮かべた。
「貴様…っ!」
エルウィンがシュミットを振り解こうとしたその時…。
「おやめくださいっ!」
彼らの背後から声が響き渡った。現れたのはアイゼンシュタット城の治安部隊の騎士達だった。彼らの団長はエルウィンの祖父の代から治安部隊に身を置く初老の男である。
「エデルガルト…」
彼を見てようやくエルウィンは落ち着きを取り戻した。彼はエルウィンが幼かった時の剣の指南役でもあったのだ。
「チッ」
オズワルドが舌打ちをする。彼はこの男を苦手としていた。勿論、それはこの場にいる全員に言えることであった。それほど、このエデルガルトという老人は一目置かれていた。
「エデルガルト様、来ていただけたのですね?」
シュミットが頭を下げる。
「ああ、勿論だ。この城のもめ事を解決するのも我ら治安部隊の役目だからな」
「…」
エルウィンはバツが悪そうにうつむいている。
「とりあえず…ランベール様のご遺体をいつまでもあのままにしておくわけにはいかないでしょう。まずはきちんと状況を調べないと」
エデルガルトはその場にいる全員に言い聞かせるように見渡した―。
****
その後、治安部隊の調べで、ランベールは鉄格子のすぐそばで胸を貫かれて死亡したことが分かった。何故なら鉄格子には血痕が付着していたからであった。そしてこの犯行は誰にでも実行出来るものであり、城中の者を取り調べた者の疑わしき人物は浮上してこなかったのであった―。
「師匠…申し訳ありませんでした」
執務室でエデルガルトと2人きりになったエルウィンは頭を下げた。
「何を仰っておるのですか?エルウィン様。貴方は3年前から城主として頑張っておられる。確かに少々血の気は多いかもしれませんがね?私はエルウィン様の祖父と父君に仕えておりましたが、貴方が一番領民達の事を思っておられる。乱暴に見えるかもしれないが、本質は心優しきお方だと思っております」
「…よして下さい。ほめ過ぎです」
エルウィンは少しだけ頬を赤らめた。
「いえいえ…事実です。しかし…ランベール様の事は流石に驚きましたな。あの方の派閥だった城の者達はかなり焦っております。越冬期間が過ぎれば追い出されるのではないかとびくびくしている者もおりました。城の規律も厳しくなるのではないかと恐れていましたよ」
「風紀の乱れだけは是正させるつもりですよ。叔父上のせいで、アイゼンシュタット城の騎士や兵士たちの評判はガタ落ちですからね」
エルウィンはニヤリと笑い…次にためいきをついた。
「それにしても…誰が叔父上を殺害したのだろう…」
城中の者達を取り調べた者の、ランベールを殺害したと思しき人物は1人も浮上してこなかったのだ。勿論エルウィンはすぐに除外された。何故ならランベールが殺害されたとみられる時間帯は大勢の騎士達と酒を酌み交わしていたからである。
「ランベール様は敵が多い方でしたからね…。彼の死を望んでいる者は大勢いましたし。一部では死んでくれたことを喜んでいる者達もおります。ここだけの話、あの方がいるだけでアイゼンシュタット城の品位を損なっていましたからね。もう犯人を上げるのはやめても問題はないでしょう。それよりも彼の死を悼み、早々に葬儀を執
り行うべきだと思います。そして城の警備を強化した方が得策でしょうね」
「ええ、勿論そうするつもりです。全ての城の警備を強化させますよ」
エルウィンは頷いた―。




