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5-3 失われた機会

 エルウィンが寮長のビルと話している姿をダリウスも見つめていた。


彼は仲間達と一緒にお茶を飲んでいた所、エルウィンがやってきた事に気づいたのである。


(あ…あの人は辺境伯…。まさかアリアドネに会いに来たのだろうか…?一体何の為に…?)


「どうしたんだ?ダリウス」


その時、同じ領地からやってきた仲間の妻子持ちの男性が話しかけてきた。


「あ、いや…城主様が来ているなと思ってね」


「ああ。そうだな…珍しい事もあるものだ。あまり城主様はここに顔を出さないのにな。話によると、越冬期間中に溜まっていた書類の仕事が忙しいとかで、滅多に足を運ばないのに…今年は余裕があるのかな?領主になって3年目だし」


男性は笑いながら言う。


「そう…なのかな?」


そして残りのお茶を一気飲みすると席を立った。


「どうしたんだ?ダリウス。まだ休憩中だぞ?」


「ああ、分かってる。ちょっと知り合いの女性の所へ行ってくるんだ」


「ああ、あの娘か?しかし、いつの間にあんな若くて美人な女性が下働きとして働いていたんだろうな?2人は仲が良くてお前が羨ましいよ」


「いいのかい?奥さんも子供もいる人がそんな事言っても…」


ダリウスは冗談めかすように言った。


「え?じょ、冗談だって。本気で取るなよ?」


「分かってるって、それじゃちょっと行ってくる」


そしてダリウスはアリアドネの元へ向かった。




****


(エルウィン様がいらっしゃったなら…クラバットをお返し出来るチャンスかもしれないわ)


アリアドネはスカートのポケットを上から手でそっと触れた。この中にはエルウィンから借りた洗濯済みのクラバットが入っている。

いつ、エルウィンに会えるか分からなかったので、常に持ち歩いていたのだ。


(シュミット様がいらした時にお願いしようかとも思っていたけれども、あの方もお忙しいのか、ここ最近お見かけしなかったし…でも偶然ここでお会い出来て良かったわ)


以前のアリアドネなら、エルウィンの事を酷く恐れていただろう。

だが、あの時城内で2度も危ない目に遭いそうな所を助けてくれたこと。そして下働きの者達や領民達から慕われている事を知り…徐々にエルウィンに対しての恐れが無いくなっていた。

第一エルウィンには自分の正体がバレていない。それも救いだった。



「どうしたんだい?アリアドネ」


マリアがエルウィンの方を凝視している事に気付き、声を掛けてきた。


「エルウィン様にお借りしていたクラバットをお返ししようと思っていたのですけど…なかなかビルさんとのお話が終わらないなと思って」


「ああ、確かに話をしてるけど…別にいいんじゃないかい?多分雑談しているだけだと思うし」


イゾルネが言った。


「そうですね…。では私、お返しに行ってきます」


アリアドネが席を立とうとした時…。


「あらダリウスじゃないの?どうしたの?」


セリアが突然何かに気付き、口を開いた。


「え?」


驚いて振り向くと、ダリウスがこちらへ向かっている姿がアリアドネの目に映った。


「アリアドネ、ちょっといいかな?」


ダリウスはアリアドネの側にやってくると声を掛けてきた。


「ええ、いいわよ」


「本当かい?それは良かった。なら行こう」


ダリウスはアリアドネの右手を取ると立ち上がらせた。


「え?」


突然の事に戸惑うアリアドネ。


「まぁ…2人はまるで恋人同士みたいね」


からかうようにセリアが言う。


「そ、そんな恋人同士なんて…」

「ありがとうございます」


慌てるアリアドネに対してダリウスは正反対だ。


「向こうへ行こう、アリアドネ」


そしてダリウスはアリアドネの手を繋いだまま歩き出す。



(ん?あの後ろ姿は…)


その時、エルウィンはアリアドネがダリウスに手を引かれて歩いてる後ろ姿を見かけた。


(あれは…この間の領民か?一緒にいる男は一体誰なのだろう…?)


「エルウィン様、どうかされましたか?」


ビルが尋ねてきた。


「いや、何でも無い。それでは俺はそろそろ城に戻る。皆にクリームを配っておいてくれ」


「はい、承知致しました」


「それではな」


「はい、エルウィン様」


そしてエルウィンは背を向けると仕事場を後にした―。







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