19-15 セリアの説得 ②
エルウィンは少しの間、気難しい表情を浮かべていたが……ため息をついた。
「だが……アリアドネ専用の私室が無ければ、口やかましい王侯貴族たちに根も葉ももない噂を立てられるのは確かに癪に障るな」
「ええ、そうです。ただでさえエルウィン様は『戦場の暴君』と言われているのですよ?アリアドネ様のお部屋が無ければ私生活でも暴君呼ばわりされてしまいかねません!」
シュミットがきっぱり言い切る。
「何だと!?私生活でもか!?」
エルウィンはシュミットを振り返った。
「シュミット様の仰る通りです。エルウィン様は戦場での強さから暴君などと恐れられておりますが、本来は領民思いの立派な領主様でいらっしゃるではないですか?それなのに、日常的に暴君などと呼ばれるのは本意ではありませんよね?」
セリアの言葉に頷くエルウィン。
「ああ、そんなのは当然のことに決まっている」
「でしたら、お二人のお部屋は今まで通りに別々にされるべきです。その代わり寝室を一緒に使われれば良いのですから」
「「寝室……」」
シュミットの言葉に、エルウィンとアリアドネが互いを見つめ合い……頬を染める。
「「!!」」
当然その様子に息を呑むセリアとシュミット。
「う、うむ……た、確かにそうだな。寝室さえ一緒であれば……その、なんだ。も、問題は無いかもしれないな。アリアドネもそれで良いか?」
「は、は……はい……」
アリアドネは頬を染めて頷く。
「では、アリアドネ様のお引越しの件は無かったことにさせていただいて宜しいですね?」
これ以上仕事を増やされたくないシュミットは切実の思いをこめてエルウィンに訴えた。
「ああ、仕方がない。これ以上自分の悪い噂を広めたくはないからな。だが……俺とアリアドネの為に、とっておきの寝室を用意しろよ!二人の仲がより深まるようにな!」
ビシッとシュミットを指差すエルウィンは、臆面もなくきっぱり言い切った。その言葉の裏に隠されている意味を考えることもなく。
(エ、エルウィン様……な、なんと恐ろしい方だ!この方は自分の言葉の意味を理解されているのだろうか!?)
(やはりエルウィン様はシュミット様のお話していた通り、恋に狂ってしまわれているのだわ……!)
シュミットはおののき、セリアは衝撃を受ける。一方のアリアドネは恥ずかしくて居た堪れなかった。
(エルウィン様は何て言葉を口にされるのかしら?これではまるで夜の生活のことを話しているようなものだわ。は、恥ずかし過ぎる……)
「どうした?三人とも、何故黙ってしまう?」
けれど、色恋沙汰に全く無頓着のエルウィンには三人が何を考えているのか当然理解出来ていない。
「ゴ、ゴホン!僭越ながら……エルウィン様。あまり先程のような発言は……不用意に人の前で口にされないようになさって下さい」
「え、ええ。シュミット様の言う通りです。そのようなデリケートなお話はどうぞ、アリアドネ様と二人きりのときになさって下さい。で、ですが……寝室の件なら承ります」
どのみち、セリアはエルウィンとアリアドネ専用の寝室は必要だろうと考えていたのだ。
「そうか?流石セリアは物わかりが良い。誰かとは大違いだ。」
ジロリとシュミットを睨みつけるエルウィン。
「それで?話は今ので終わりか?」
エルウィンはセリアに視線を移した。
「いいえ、他にもまだあります。これからが話の本番ですので」
セリアはきっぱりと言い切った――




