19-12 手に負えない
エルウィンに引きつられてアリアドネとシュミットがやって来たのは彼の自室だった。
「え?こちらはエルウィン様の自室ではありませんか?一体どういうことです?」
シュミットが不思議そうに尋ねた。もはやアリアドネは諦めたのか、おとなしくしている。
「俺の自室だと……?違う!今日からは俺とアリアドネの部屋だ!!」
きっぱり言い切るエルウィンにアリアドネは顔を赤らめる。
「ええっ?!わ、私と……エルウィン様のお部屋ですか?」
「そうだ。俺たちはどうせすぐに結婚するんだ。今からお前もこの部屋で過ごせるように準備をするんだ」
うっとりした目つきでアリアドネに語るエルウィンにシュミットは途端に嫌な予感が頭をよぎる。
(同じ部屋……ま、まさか……!引っ越し作業を任せる気では……)
案の定、エルウィンは鋭い眼差しでシュミットに命じた。
「いいな、シュミット。今からアリアドネの部屋の荷物を全て俺の部屋に移すのだ。家具からドレス迄何もかも!余すことなくな!今日中にだ!!」
「無茶です!!」
シュミットは叫び返した。
「お前……今、考える間もなく即答したな?いい度胸だ」
エルウィンは闘気の宿る目でシュミットを睨みつける。その力で部屋の中が震える。しかしシュミットは言い返した。
「エルウィン様!こんなところで無駄に闘気を放たないで下さい!」
「チッ!」
舌打ちしたエルウィンは闘気をおさめると腕組みしてシュミットに問いかけた。
「一体、何が駄目なんだ?」
「御自分でご覧下さい!この部屋の様子を!」
「何か変か?」
エルウィンは自分の部屋をグルリと見渡すと首を傾げた。
「ええ、変ですとも!壁一面に剣が飾られているではありませんか!これではまるで武器庫です。どこの世界に女性が過ごす部屋に剣を飾っておくのですか!」
「そうか、なら剣は全て外そう」
頷くエルウィン。
「それに、とてもではありませんがアリアドネ様の部屋の物が全て入るとは思えません」
「それなら俺の持ち物は全て他に移動したって構わん!全てはアリアドネが第一優先事項だ!」
恥ずかしげもなく、腕組みしながらきっぱり言い切るエルウィンにシュミットはもはや返す言葉も浮かばない。
(な、なんてお方だ……アリアドネ様が第一優先事項だときっぱり言い切ったぞ?恥ずかし気も無く!)
するとアリアドネが恐る恐る声を掛けて来た。
「あ、あの……ここはエルウィン様のお部屋です。それなのに、私の荷物を全て運び入れる代わりにエルウィン様の部屋の物を全て別に移して頂くのは心苦しいです」
アリアドネはエルウィンとシュミットが険悪な雰囲気になって来たのを恐れていた。
「何言ってるんだ?俺の荷物など、どうでもいいと言っただろう?俺の第一優先は全てお前なのだから」
「ですが……」
エルウィンとアリアドネが話し合いを始めた頃合いを見計らって、シュミットはその場を逃げるようにこっそり出て行き……廊下を走り始めた。
(駄目だ!もう自分の手には負えない!こうなったら…‥あの方に説得して貰わなければ!)
シュミットは必死でその人物の元へ向かった――。




