19-5 二人だけの世界
翌朝5時――
「う……ん……」
いつもの習慣でアリアドネは目を開け……傍らにエルウィンが眠っている姿を見て驚いた。
(エ、エルウィン様?!)
そして次の瞬間、昨夜のことが蘇り……途端にアリアドネの顔が真っ赤になる。
(そ、そうだったわ……。私は昨夜……つ、ついにエルウィン様と結ばれて……)
あの時は訳が分からないままエルウィンに身を委ねたが、冷静になった今ではこの状況が恥ずかしくてたまらなかった。
何しろ2人とも生まれたままの姿でベッドの中なのだ。昨夜まで乙女だったアリアドネからすれば、ある意味とんでも無い状況だと言える。
アリアドネはそっと眠っているエルウィンの顔を見た。
朝日に少しだけ照らされたエルウィンの寝顔はまるで彫刻のように整い……美しかった。
(私みたいなのが、本当にエルウィン様のお相手で良かったのかしら……。でも眠っているなら今のうちよね……)
エルウィンが眠っているうちにベッドから抜け出そうとアリアドネは背を向けて身動ぎした時――。
「何処へ行くつもりだ?」
突然耳元でエルウィンが囁いてきた。
「!」
驚いたアリアドネが振り向くと、そこには頭をピロウにつけたままじっとこちらを見つめているエルウィンの姿があった。
「エルウィン様………!お、起きてらしたのですか?!」
「ああ、さっきからずーっと起きてたぞ?お前が俺の寝顔をじっと見てたことも気づいていた」
「あ……も、申し訳ございません……」
アリアドネは真っ赤になりながら謝罪した。
「何故謝るんだ?」
「そ、それは……か、勝手に見つめていたからで……っ」
すると突然エルウィンの腕が伸びてきてアリアドネを抱き寄せると、唇を重ねてきた。
(エルウィン様……)
少しの間口付けを交わすと、やがてエルウィンがそっと唇を離した。
「何故謝る?俺はお前の物なのだから、そんなことくらいで謝るな」
そして笑みを浮かべて、再度アリアドネの頬にキスをした。
「そ、そんな!恐れ多くもエルウィン様が私の物なんて……!」
耳まで真っ赤にさせながらアリアドネはエルウィンを見つめた。
「何だ?違うのか?俺はアリアドネを自分の物だと思っていたのだが……そう思っていたのは俺だけだったのか……?」
どこかすねたようなエルウィンにアリアドネは必死で弁明する。
「いえ!そ、そんなことはありません……。わ、私は……エルウィン様の物です……」
(ま、まさか……自分がこんな台詞を言うことになるなんて……)
思わず恥ずかしさのあまり俯く。
そんな姿がエルウィンは愛しくてたまらず、アリアドネを抱きしめ……ふと気になることを思い出した。
「アリアドネ……?そ、その……身体の方は大丈夫か……?」
出来るだけ優しく抱いたつもりではあったが、アリアドネの身体が気がかりでならなかったのだ。
その言葉に、更にアリアドネは赤くなる。赤くなるも……エルウィンの胸に顔を押し付けて首を振った。
「い、いえ。大丈夫です……ど、どこも平気ですから……」
「そうか、安心した。なら……またいいか?」
「え?!」
エルウィンの言葉にアリアドネは驚き……顔を上げた途端、再びエルウィンがキスをしてきた。
(エルウィン様……)
アリアドネは目を閉じるとエルウィンの首に腕を回し……2人は再び身体を重ねた。
結局、その後二人は部屋から一歩も出ることが無かったが……この日に限っては咎めるものは誰一人いなかった。
あの仕事に煩いシュミットでさえも――。




