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18-22 エルウィンの子供の頃の記憶 

「エルウィン様、お待たせ致しました。宿屋の方がスープを用意して下さいました」


 アリアドネがトレーに乗せてスープを運んできた。


「そうか……こんな真夜中に悪いことをしたな」


 ポツリと呟くエルウィンの姿にアリアドネは思った。

 

(戦場の暴君と世間では恐れられているお方だけど……本当は気配りの出来るお優しい方なのだわ)


 アリアドネはベッドサイドの椅子に腰掛けるとトレーに乗ったスープを膝の上に乗せた。


「どうした?アリアドネ」


 エルウィンはアリアドネがスープを渡して来ないので首を傾げた。


「はい、エルウィン様に食べさせて差し上げようかと思いまして」


「な、何っ?!」


 するとアリアドネは木のさじでスープをすくうと、エルウィンの口元に運ぶと声を掛けてきた。


「さ、どうぞ」


「な、何やってるんだ!ス、スープくらい1人で飲める!」


 思わずエルウィンの顔が真っ赤になる。


(この俺が女に食べさせてもらうなんて……そんな真似できるか!)


「そうですか……。ミカエル様やウリエル様の体調が悪かった時は……私がこうやって食べさせて差し上げたのですが……」


「何?ミカエルとウリエルには食べさせたことがあるのか?!」


 その言葉に何故か反応するエルウィン。


「はい、そうですけど?」


 アリアドネが首を傾げると、エルウィンがボソリと呟いた。


「……くれ」


「え?今、何とおっしゃいましたか?」


「お、俺にも……そ、その……スープを食べさせて……くれ……」


 赤くなった顔を見られないようにそっぽを向きながらエルウィンは言葉を口にした。


「はい、分かりました。ではお口を開けて下さい」


「あ、ああ」


 言われた通り口を開けると、アリアドネはスープをすくってエルウィンの口に運ぶ。


「……」


 エルウィンは黙ってスープを飲み込み……。


「美味い……」


 ポツリと呟いた。


「本当ですか?それは良かったです」


 ニコリと笑みを浮かべたアリアドネは再びスープをすくってエルウィンに食べさせる。

 そんなアリアドネの優しい心遣いが、エルウィンの過去のとある記憶を呼び戻すのだった――。



**


 スープを全て飲み終えるとエルウィンは視線をそらせながらアリアドネに礼を述べた。


「……ありがとう。スープ……美味かった……」


「お口に合って良かったですね」


 微笑むアリアドネ。


「お前にスープを食べさせて貰っていた時、昔のことを思い出した。随分昔の子供の頃のことを……」


「……」


 アリアドネは黙ってエルウィンの話を聞いている。


「あれは、多分5歳頃の記憶だったと思う。ここ、『アイデン』で流感が流行ったんだ。俺も流感にかかってしまい、何日もベッドから起き上がることが出来なくて……そんな俺に母が……今のアリアドネのように看病してくれたんだ……」


「そうでしたか……」


 アリアドネはエルウィンの両親が何故亡くなってしまったのか理由は知っていた。


(大切な御両親を一度に2人も亡くされるなんて……どれほどエルウィン様はショックだったでしょうね)


「アリアドネ……もう……突然俺の前からいなくなったりするな……」


 そしてエルウィンはアリアドネをじっと見つめた――。


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