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18-13 闇の中からの目覚め

 ハァッ!ハァッ!


 息を切らせながらエルウィンは暗闇の中を駆けていた。


(父上……!母上……!どうか御無事で……!)


 エルウィンは遠征中にアイゼンシュタットが襲われ、母親が人質になった知らせを受けた。

 戦況が有利になったことを見届けたエルウィンは急いで助けに向かったのだ。



『父上ーっ!母上っ!』


 闇の中、エルウィンの声だけが響き渡る。


『う……』


 その時、近くでうめき声が聞こえた。


『向こうか?!』


 声の聞こえた方向へ駆け寄ると、そこには2人の人物が倒れていた。


 その2人は……。


『父上!母上!』


 慌てて駆け寄ったときにエルウィンの足元に水音が聞こえた。



 ピチャン……


『え……?』


 足元を見ると、真っ赤な血溜まりが出来ていた。よく見ればうつ伏せに倒れた2人の身体には深々と剣が刺さっている。


『父上ーっ!母上ーっ!!』



 エルウィンが絶叫した途端、2人の身体はかき消えてしまう。


『え……?父上?母上?何処なのですか?!』



その時――。

 

『エルウィン様……』


 背後で自分の名を呼ぶ声が聞こえた。振り向くと悲しげな顔のアリアドネが立っている。


『アリアドネッ!!戻ってきてくれたんだな?!』


 エルウィンはアリアドネに駆け寄ると力強く抱きしめ、耳元で訴えた。


『アリアドネ……父と母が……いなくなってしまったんだ……。お前だけは俺の側にいてくれるよな?お願いだ……何処にも行かないと言ってくれ……』


『申し訳ございません……エルウィン様……』


 しかし、アリアドネは悲しげに答える。


『駄目だ!お前は絶対に何処にも行かせない!頼む……どうか側にいてくれ……』


 エルウィンはアリアドネを抱きしめたまま、まるで子供のように首を振った。


『さよなら、エルウィン様……』


『え……?』


 腕の中のアリアドネはまるで霞のように消えていく。


『駄目だ……行くな……お前まで俺の前からいなくなるのか……?!頼む!行かないでくれ……!アリアドネーッ!!』





****

 

「……ハッ!」


 突然エルウィンは目が覚めた。


 気付けばオイルランプの揺れる部屋のベッドに寝かされている。そして周囲には自分を心配そうに見つめるエデルガルト達の姿があった。


「大将!!目が覚められたのですね?!」

 

 真っ先に声を掛けてきたのはスティーブだった。


「あ?ああ……」


 状況が全く理解できないエルウィンは頭をピロウに付けたまま返事をする。


「良かった……意識を取り戻されたのですね……」


 シュミットが安堵のため息をつく。


「エルウィン様、本当に……ご無事で何よりでした。やはり『生命の雫』のおかげですな。お身体はいかがですか?」


 エデルガルトが尋ねてきた。


「え……?身体……?」


 その時、エルウィンは思い出した。アリアドネを庇って弓矢を受けたことを。


「そ、そうだ!アリアドネはっ!」


 ガバッと身体を起こした途端、背中に激痛が走る。


「うっ!」

 

 たまらず、苦しげに顔を歪める。


「いけません、エルウィン様!貴方は猛毒の毒矢に射られ……10時間近くも意識を失っておられたのですよ?!普通だったらとっくに死んでもおかしくない状況だったのですから!」


 シュミットがエルウィンの身体を支えた。


「お、俺のことなど……ど、どうでもいい……。そ、それよりもアリアドネは……?アリアドネは無事なのか?」


 荒い息を吐きながら、エルウィンは皆を見渡した。


「ええ。勿論です。アリアドネ様なら……」


 エデルガルトが口を開きかけた時、マティアスが室内に飛び込んできた。


「た、大変ですっ!アリアドネ様が……。あ!エルウィン様!意識が戻られたのですね?!」


 マティアスが身体を起こしているエルウィンに気付いた。


「マティアス……。ア、アリアドネがどうしたのだ……?言えっ!」


 背中の痛みに耐えながらエルウィンが怒鳴りつけた。


「は、はい……アリアドネ様が……王太子殿下に連れ去られてしまいました!」


「「「「何だってっ?!」」」」



 その場にいる全員が声を上げたのは言うまでも無かった――。

 





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