18-8 思いがけない偶然
「何だ?随分外が騒がしくなってきたが……?」
シュミットが首を傾げる。
宿屋の外からはガラガラと鳴り響く馬車の音に、大勢の人々のざわめきが聞こえる。
「クソ!こんな時に何事だ!」
スティーブは再び宿屋を飛び出し、目を見開いた。
「な、何故……ここに王族の馬車が……?」
広場には王族の紋章が刻まれた黒塗りに金の縁取りの馬車が止められている。そして王宮の近衛兵たちの姿があった。
その数はおよそ30人はあろうかと思われる。
いきなり辺鄙な村に現れた王族の馬車と近衛兵たちの姿。外に出てきたアイゼンシュタットの騎士たちは勿論、『ウルス』の村人たちも何事かと集まっている。
「一体これはどういうことだ……?何故王族の馬車が……。だが、なんてツイているんだ。こんな偶然はない!」
スティーブは黒馬車に駆け寄ると、途端に近衛兵達が立ち塞がった。
「一体何事だ!いきなり馬車に駆け寄ってくるとは!」
口髭を生やした男がスティーブに乱暴に声を掛けてきた。
「これは失礼致しました。私はアイゼンシュタットの第一騎士団長のスティーブと申します。是非ともこちらの馬車にお乗りの方にお目通り願いたく、駆けつけてしまいました。ご無礼をお許し下さい」
すると、馬車の中から声が聞こえてきた。
「何?アイゼンシュタットの騎士?」
馬車の扉が音を立てて開かれると、1人の青年が馬車から降りてきた。
「私の名はマクシミリアン・レビアス。レビアス王国の第一王子だ。一体私にどんな用事があるのだ?」
青年……マクシミリアンはスティーブに笑みを浮かべた――。
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「何だか外が騒がしいね」
『ウルス』の村の集会所で村人たちと食事をしていたウリエルが窓の外を気にしている。
「ええ、そうですね。一体何事でしょうか?」
アリアドネが頷くと、窓の外を覗いていた村人が声を上げた。
「な、何だ?!見たこともないような立派な馬車が広場に止まっているぞ!それに騎士たちの姿も見える!」
「何だって?」
「よし、見に行ってみよう!」
村人たちは食事の手を止め、次々と外へ出ていく。
「リア、僕達も見に行こうよ」
ウリエルがアリアドネに声を掛けてきた。
「え?ええ……分かりました」
そしてアリアドネもミカエルとウリエルに続き、外へ出た。
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「何?辺境伯がカルタン族の毒にやられて死にかけている?あのエルウィン殿がか?」
マクシミリアンは驚きで目を見開いた。
「はい、さようでございます。今この村の宿屋で手当を受けていますが……どの解毒薬も効かないのです。城の薬士たちの話によりますと、王宮には『生命の雫』と呼ばれる液体があるそうですね?何でも体内に溜まった毒素を吐き出す効果があるとか……」
「ああ、そう言われているな。成程……確かにあれなら解毒が出来るだろう」
マクシミリアンの言葉にスティーブの顔がほころぶ。
「それでは恐れ入りますが、エルウィン様の為にどうか『生命の雫』を分けて頂けないでしょうか?どうか宜しくお願い致します!あの方はこの国の要、どうぞお命をお助け下さい!」
スティーブはマクシミリアンに頭を下げた。
「成程……しかし、何という偶然なのだろうな。まさかアイゼンシュタット城に行くつもりが、このようなことになっていたとは……」
「そう言えば、何故王太子殿下がこちらにいらっしゃったのですか?」
スティーブは顔を上げた。
「ああ、大事な用があってやってきたのさ」
「大事な用……?」
スティーブが首を傾げたその時――。
「え?!お、王太子殿下!」
アリアドネの声にマクシミリアンは振り返った――。




