18-1 危機の知らせ
「エルウィン様!!エルウィン様!!」
アリアドネが悲痛な声を上げながら地面に倒れたエルウィンに呼び掛ける。
「大将!!」
「エルウィン様っ!!」
スティーブ達が一斉に駆け寄り、エルウィンの様子を見た。マントの上から2本の矢で射抜かれた背中には血がにじみ出ている。
すると、片目を潰されたカルタン族のリーダーが大声で笑った。
「クハハハハ…‥‥ッ!!ざまぁみろ!辺境伯め!!その弓矢にはなぁ……この俺が作った猛毒が塗り込んであるのだ!!普通の人間なら30分もすれば全身に毒が回って死に至る!!しかも2本も弓矢で打ち込まれれば、貴様のような化け物でさえタダではすむまい!」
「黙れっ!!」
スティーブが言うや否や、剣を振るった。
シュッ!!
「ぐあぁああああ!!」
途端に男の太ももから血が飛び散る。
「エルウィン様……しっかりしてください……」
一方、アリアドネは涙を浮かべながらエルウィンの名を呼び続けていた。
「う……はぁ……はぁ‥…」
エルウィンは目を閉じたまま荒い息を吐いて身動き一つしない。その顔は青白く染まり、額には脂汗が滲んでいる。
「カルタン族に見張りをつけろ!弓矢を打った男は見せしめの為、片腕を切り落としておけっ!!エルウィン様を安全な場所に運ぶぞ!誰かついてこい!のろしを上げて城に状況を伝えることを忘れるなっ!!」
スティーブが騎士達に指示を下す。
『はいっ!!』
「大将、ちょっと失礼しますよ」
スティーブは今や完全に意識を無くしたエルウィンに声を掛け、担ぎ上げて背負うと駆けつけてきた4人の部下たちに命じた。
「とりあえずエルウィン様を宿屋に運び込むぞ!」
『はい!!』
「あの!エルウィン様は……!」
宿屋に向かおうとしたスティーブにアリアドネは声を掛けた。
「大丈夫だ、まだ息がある。とにかく一刻も早く矢を抜かなければならないからアリアドネはここにいるんだ。とても矢を抜く姿は女性には見せられないからな」
スティーブの言葉から、これからエルウィンは激痛に耐えなければならない試練が待ち受けていることをアリアドネは理解した。
「わ、分かりました……」
震えながら返事をするアリアドネに頷くと、スティーブは部下たちをつれて宿屋の中に入って行った。
そこへミカエルとウリエルが駆け寄って来た。
「「リアーッ!!」」
「ミカエル様!ウリエル様!」
「リア!エルウィン様が‥…!!」
「エルウィン様、死んじゃうのっ?!」
ミカエルとウリエルが泣きながらアリアドネに縋り付いて来た。
「いいえ……エルウィン様は…‥強いお方です……これくらいのことで絶対死んだりしません!」
アリアドネも涙を浮かべながらミカエルとウリエルを抱きしめながら強く祈った。
(神様……!!どうか、どうかエルウィン様をお助け下さい……!!)
**
エルウィンをうつぶせの状態でベッドに寝かせたスティーブは付き添ってきた4人の騎士達に声を掛けた。
「よし……。では今から止血しながらエルウィン様の矢を抜くぞ。お前たち、しっかりエルウィン様を押さえておけ。アルコール消毒と止血も忘れるな!」
「「「「はい!!」」」」
「大将……辛いだろうが、耐えて下さいよ……?」
スティーブは意識のないエルウィンに声を掛け、刺さった弓矢を握りしめた――。
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一方その頃――。
「た、大変です!」
執務室にいたエデルガルトとシュミットの元へ、見張り番の兵士が駆けつけて来た。
「どうした?!何かあったのか?!」
「敵の襲撃か?!」
「い、いえ!のろしです!赤いのろしが上がっています!」
赤いのろしは危険な状態を知らせるのろしであり、滅多に上がったことは無かった。
「何だって?!もしや『ウルス』の村で何かあったに違いない!」
「ひょっとするとエルウィン様の身に……!」
エデルガルトとシュミットの顔色が変わる。
「エデルガルト様!城のことをお願いします!私が『ウルス』へ向かいます!」
「分かった、城のことは任せろ!」
「はい!準備ができ次第、すぐに『ウルス』へ向かいます!」
シュミットは力強く頷いた――。




