表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

314/374

17-9 再びの旅立ち

 ヨゼフとの話を終えたアリアドネは自室へと戻ってきた。


「早速、荷造りをしないといけないわね」


 ポツリと呟くと、アリアドネは早速荷造りの準備を始めた――。




  21時――


 「ふ〜……終わったわ」 


 アリアドネの前には3つのトランクケースが置かれている。中に入っているのは、ステニウス家から持参したミレーユのお下がりの古めかしい服ばかりだった。

 クローゼットには支給された服やメイド服などが吊り下げられているが、アリアドネはその服を持っていこうとは思わなかった。何しろ、これらの服は自分のものではないからだ。

 別のクローゼットにはエルウィンからおくられた美しいドレスが何着も掛けられているが、アリアドネは一度も袖を通したことがない。


「いずれエルウィン様は結婚されるはずだわ。その方にこのドレスを使って貰えればいいわね。尤も……相手の女性に気に入ってもらえればだけど……」


 アリアドネは寂しそうに笑った。

 

「そうだわ、黙っていなくなるのだからせめて置き手紙くらいは書いていきましょう」


ライティングデスクに向かうと、アリアドネは早速3通の手紙をしたためた。1通はエルウィン宛に、そしてもう一通はミカエルとウリエルの為に。最後の1通は、自分に親切にしてくれた下働きの女性達に心を込めて。



 そしてヨゼフとの待ち合わせの時刻になった――。





****



 深夜0時――



 アリアドネとヨゼフの姿が城の裏門にあった。2人の前には荷馬車に繋がれた馬がいる。この馬は2人がこの城に来るときに連れてきた馬だった。


「アリアドネ、荷馬車に乗りなさい」


 白い息を吐きながらヨゼフがアリアドネに声を掛けた。


「はい」


 素直に返事をしたアリアドネは荷馬車に乗り込むと、ヨゼフが声を掛けてきた。


「いいかい?4月とは言っても『アイデン』地方は寒い。荷馬車の中から出ないようにするんだよ」

 

「はい、でも……ヨゼフさんは大丈夫なのですか?私だけ荷馬車の中にいるのは何だか申し訳なくて……」


「そんなことは気にする必要はない。沢山厚着をしているし、それに……ほら」


 ヨゼフは両手を広げてアリアドネに見せた。


「この通り、アリアドネが編んでくれた手袋にマフラーまでしているから大丈夫だよ」


「ヨゼフさん……」


 実は、アリアドネはヨゼフの為にマフラーと手袋を編んでいた。それを先程手渡していたのだ。


「よし、それでは行こうか?」


 ヨゼフは御者台に乗るとアリアドネに声を掛けた。


「はい」


 「では、とりあえず一番近い宿場村を目指そう」


 そしてヨゼフは手綱を握りしめると、馬車はガラガラと音を立てて走り始めた。


「アイゼンシュタットの皆さん……今までお世話になりました……」


 アリアドネは暗い夜空にポカリとシルエットとして浮かび上がるアイゼンシュタットを見つめながら、別れの言葉を口にした。



 この日……アリアドネとヨゼフは半年間暮らしたアイゼンシュタットを旅立っていった――。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ