17-8 2人だけの秘密
「勿論覚えているよ、アリアドネ。忘れるはずないじゃないか」
ヨゼフは優しい声で頷く。彼にはアリアドネが何を言いたいのか分かっていた。
「私……。あ、明日にでも……アイゼンシュタット城を出るつもりなのです……。退職金を頂いた上に……今迄ご苦労さまとも言われました……」
アリアドネは泣きたい気持ちを必死に堪えて訴える。
「私のせいで……この城に多大なるご迷惑を掛けてしまいました……私は多分ここにいては……いけないのです……」
ついに堪えていた涙が溢れ出し、アリアドネの頬を伝う。
「良く分かったよ。アリアドネがこの城を出る決意を固めているなら私はそれに付き従うよ。元よりステニウス家の城を出たときからアリアドネについて行こうと決めていたからね」
「ヨ、ヨゼフさん……あ、ありがとうございます……」
アリアドネは涙を拭った。ヨゼフが自分についてきてくれる。それがどれほどまでに嬉しかったことか。
「けれど、本当に明日城を出るのかい?」
ヨゼフの言葉にアリアドネは頷いた。
「はい、早めに出ようと思っています。別れが辛くなるので、出来れば誰にも知られないうちにここを出たいのです。住むところが落ち着いたら……手紙を出そうかと思っています……」
(ミカエル様やウリエル様は私がいなくなると知れば……ショックを受けるかも知れないわ。他の人達に私が出ていくことを伝えれば、必ず2人の耳に入るに決まっているもの……)
多くの気持ちを語りはしなかったが、ヨゼフはアリアドネの決意が固いことを理解した。
「良く分かったよ、アリアドネ。誰にも知られないうちに城を出たいのだね?ならば夜中にここを発つことにしよう。幸い今宵は新月だ。暗闇に紛れて城を出れば誰にも知られることはないよ。森を通らなければ狼の群れに会うこともあるまいしね」
「でもヨゼフさん……。ほ、本当に……いいのですか?」
涙混じりに尋ねるアリアドネ。
「勿論だよ。私はアリアドネを本当の孫娘のように思っているのだから。2人でここを出て……アリアドネの気に入った場所で暮らそう?こんな老いぼれでも御者の仕事なら出来るだろうから。荷物は殆ど無いから私はいつでもすぐに出発出来るよ」
「ありがとうございます……ヨゼフさん。私についてきてくれるなんて……」
俯いて嗚咽するアリアドネの頭をヨゼフはそっと撫でた。
その姿はまさに孫と祖父のような関係にみえた――。
そしてアリアドネとヨゼフは日付が変わる真夜中0時に、城の裏門で待ち合わせをすることに決めた。
けれど、城の者達は誰も知らない。
アリアドネとヨゼフが今宵、この城を発とうとしていることを――。




